第6話 魔術師vs戦車
バッタのホムンクルスが死んだあとの数秒、その場には沈黙だけが取り残され、居座った。それからオットーが、静寂に嫌気がさしたのか、巡に言った。
「そういやあんたのこと、動画で見たぜ。初めてにしちゃあいい戦いっぷりだ。それと、これはおまえの忘れ物だ」
そうしてオットーは巡になにかを投げ、巡はそれを受け取った。それは二本の剣が描かれた、巡が変身に使うものと似たパスのようなものだった。オットーは続けた。
「そいつは『アルカナパス』って言ってなあ、おまえやおれの腰についてる『ライザーギア』でそれを読み取ると、そのパスに応じた能力が発動される。そうして『アルカナパス』にも、『大パス』と『小パス』という二種類があってだな、おれら『アルカナライザー』の変身に使うのが『大パス』で、いまおまえに渡したのが『小パス』だ。ここまでで、なにか質問は?」
「じゃあ、まあ、質問なんですけど……」
「どうした」
「なんで、あなたはおれに、このパスをくれたんですか?」巡はたずねた。
「そりゃああれだ、後輩へのプレゼントだ。ただしただじゃあ渡さねぇ!そのパスがほしかったら、このおれ、マーシャル=チャーリー・オットーさまと手合わせするんだな!」
「それってあなたが戦いたいだけじゃ…」
「御託はいい!チンタラしてると、おまえ、死ぬぞ!」オットーはそう言いながら、さきほど倒したバッタのホムンクルスから抜き取ったパスを、ライザーギアに読み取らせた。
「Alcana Rise ! 4 !」
システム音声がそう言うと、オットーことチャリオットライザーの装甲に覆われた足が変形し、バッタのそれのような形になった。
「オラオラァ!どうしたマジシャンライザー?あの時の戦いっぷりをおれに見せてくれ!なあ、見せてくれよ!頼むよ!でなきゃあ、おれはおまえを殺しちまうぜ?」
「チッ…」巡は舌打ちをし、オットーから渡されたパスを読み取らせた。
「Alcana Rise ! 2 !」
そのシステム音声とともに、巡の手元には一本の剣が現れた。
「心もとない気もするが…。とりあえず、今はやるしかないな…」巡は手元に現れた非力そうな剣を見てそう言い、チャリオットライザーの元へ駆けた。しかし、オットーの方が行動は早かった。バッタのように変化した足で剣を掴み、そのまま巡ごと剣を放り投げた。巡の身体はあたりの街灯に激突し、地面に崩れ落ちた。
「ちくしょう、剣が折れた!」ならば、とる手段はひとつしかないと巡は思った。そして巡は走り出し、天高く飛び上がった。
「甘いッ!その程度のこと、おれも見越していた!」オットーはそういい、さきほど読み取らせたのとはことなるパスを読み取らせた。
「Alcana Rise ! 2 !」オットーの手元には小さな杯が現れ、そこから勢いよく、杯の容積とは明らかに矛盾した量の水が噴出した。巡は圧倒的な勢いを持った水流に飲まれ、体勢を崩された。
「まだまだだヒヨッコ!」オットーはさらにパスを読み取らせた。
「Alcana Rise ! 3 !」オットーの両腕から飛び出した粘着質の糸は、巡をがんじがらめにし、動きを止めた。「とどめだッ!」チャリオットライザーは飛翔した。そこから飛び蹴りの体勢を作り、あとは位置エネルギーがオットーの味方をするだけであった。
「Alcana Rise ! Ace !」その音が鳴ったとき、オットーは激しく動揺した。「はあっ?エースだとぉ?ありえねぇ、あれを倒したのはどこの――」
言い終える間もなく、チャリオットライザーは空から降ってきた炎の翼と剣を持った鳥により、変身を解除された。
「てめぇ、このおれに勝つとはなぁ…どこのどいつだ?」オットーが言う。
「おれの名前は眞柿風来、フールライザーだ。よろしくなヒヨッコ」彼はそう言って変身を解除し、オットーに握手を求めたが、応じられはしなかった。
「そこのおまえ、ずいぶんと手酷くやられたようだが、大丈夫か?」風来は巡に向けそう言った。
「はい、大丈夫です…」巡がそう言い変身を解除したその時、彼の身体は意識を失って地面に倒れ込んだ。
―――――――――――――――――――――
巡が目を覚ましたのは、見知らぬ廃工場の中だった。巡は廃工場の中には似つかわしくない革張りのソファの上に寝かせられていた。
「よお、目が覚めたか」そう言ったのは風来だった。そして、「ああ、良かった……。巡くんが意識を取り戻して……」と言いながら涙ぐむ紗里の姿が巡の目に入った。巡は紗里と風来に礼を言うと、風来に、そういえばオットーはどこへ行ったのかとたずねた。
「あいつは知らないねえ、いつの間にやらどこかに行っちまった。おれに負けたのがよっぽど悔しかったんだろうな」と風来は言った。
「そういえば、もうひとつ質問したいんですけど」
「どうした?」
「そもそもおれたちアルカナライザー?っていったいなんなんですか?それとあの化け物も……」興奮しながら、まくし立てるように言う巡に対して風来は、「そうか、おまえ、なにも知らないままあいつに上手くそそのかされて、巻き込まれたんだな。いいだろう、おれがすべて教えてやる」と諭すように言った。
「あいつにそそのかされたって、もしかして、あの金髪で赤いスーツを来た男か?」巡は動揺しながら風来に訊いた。「そうだ、そいつのことだ。あいつの名前はエノシュ。このゲームの案内人でつまるところ、おれたちプレイヤーとゲームマスターとの仲介役をしている。あいつは言葉巧みにプレイヤー候補の心をまさぐって願いを聴きだし、みごとプレイヤーにさせてしまう、そんな悪どいやつなのさ」
「待ってくれよ、プレイヤー?それにゲームって、なんなんだよ、まるでおれが怪物や他のプレイヤーと戦うデスゲームにでも巻き込まれたみたいに――」巡はそこでここ数日に起きた出来事を思い返し、自分の嫌な予感が真実であることを悟った。
「そうだ、このゲームは遊びじゃない。願いと引き換えに参加し、あの怪物――正式な名前を『ホムンクルス』という――やほかのプレイヤー――『アルカナライザー』と戦い、そして自分ひとりだけが生き残ればもうひとつ願いを叶えられる。そんな単純なルールの元に設定された、命懸けのゲームなのさ」
風来の言葉が巡の心に重くのしかかり、形容しがたい絶望の予感を感じさせた。
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