第18話チートな彼のバリアー展開

「えー?ジョンおじさんから聞いてないの?」


 受付で案の定引き止められましたので、サイガ様は子どもの演技で依頼主のジョン・アーレスを呼ぶように受付の方に言いました。

 私も後ろから謝って、苦労人の兄を演じます。

 しばらくすると昼頃出会った依頼主が現れました。見知らぬ男の子に戸惑ったようですが、私の顔を見て潜入していることを察してくれたようです。

 依頼主は受付に話をつけると、私達をパーティー会場へと案内してくれました。


「じゃあアーレスさん、俺達は俺達で見張るから。」

「お?そ、そうか。ぜひとも彼の悪行を阻止してくれ。」

「もちろんだ。……ね、行こ、兄様!」


 サイガ様は私の手を引いてどこかへと行きたいご様子。依頼主に軽く会釈をして、サイガ様に手を引かれるまま会場を歩きました。

 料理を皿に取り、壁の近くでサイガ様をお話をします。


「兄様、手紙のこと、皆知らないみたいだね。」

「そうだね、事を大きくしたくないのかな。」


 ウィッシュレインが狙っているという『硝子の華』の正体も私達は知らないのです。依頼主も心当たりは無いようでしたから、盗られる物の近くで見張るということはできません。

 準備をしている最中にサイガ様が語られた予想では、依頼主の伴侶の持つアクセサリー、屋敷に伝わる曰く付きの本や調度品、もしくは娘そのものを盗むのでは、との事でした。


「ここあついなぁ……ね、バルコニーとかないかな?」


 サイガ様はにっこりと目を細めますが、私には何かを企んでいるようにしか見えませんでした。一体、どのような方法でウィッシュレインを捕まえるのでしょうか……?







「それっぽいのはいた。」

「本当ですか!」


 真剣な顔つきでサイガ様は言いました。私は小声で驚きながら返します。流石はサイガ様です。遠目から見るだけで犯人のアタリを付けることができるとは。


「あの様子じゃ俺達には気づいていない……が、こっちも狙いが分からない以上待ち伏せもできん。泳がせておいて逃げる時に捕まえる。」

「なるほど……」

「と、いうわけで結界を張るぞ。気づかれないようにでかい結界を張りたいから、今から適当な部屋に案内してもらう。」


 サイガ様は私にこれからどうすればいいかを指示されました。

 体調の悪いフリをしたサイガ様を抱えて使用人に休める部屋を案内してもらうのが今回の仕事のようです。

 サイガ様はポケットから何かコンパクトを取り出すと、何かを顔に塗り始めました。


「それは?」

「チークだ。風邪引いたように見せるためだな。」


 魔法ですぐ顔の色を変えられるのですが、魔法感知をされると厄介なので念には念をという事ですね。


「よし、できた。ほら抱っこしてくれ。」


 サイガ様が私に手を伸ばして抱えるよう指示します。……その、なんだか少し背徳感を感じてしまいます。いつもは私が抱えられている側ですから……

 私は深呼吸をすると、サイガ様を抱き上げて会場に戻ります。使用人に案内をしてもらい、サイガ様を休める部屋にたどり着くと、使用人は去っていきました。


「ふぅ……ロロテナ、もういいぞ。」


 私はソファの上にサイガ様を座らせます。そして私もその隣に座り、サイガ様の顔を見ます。バルコニーは暗かったのでよくわかりませんでしたが、明かりのある部屋で見ると本当に火照ったような顔をされています。

 変身で別人になった上に、化粧で作られた顔だとはわかっているのですが、なんだか不思議な気持ちになってしまいます。


「よし、誰も来ないように扉を閉めるぞ。ロロテナ、ネクタイ。」


 サイガ様がこちらに手を出してネクタイを要求されるので、私はジャケットのボタンを外してネクタイをほどきます。


「ん゛っ……」

「大丈夫ですかサイガ様?」


 突然、サイガ様が喉を詰まらせたような声を出しました。顔は明後日の方向を向いています。


「だ、大丈夫だ。だからその、ネクタイをよこしてくれ。」


 なんだかよくわかりませんが、私は外したネクタイをサイガ様の手に渡します。サイガ様は内鍵を閉めた後、そのネクタイで両開きのドアをきつく縛りました。


「……よし、これでいい。……あとは結界を張るぞ!」

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チートな彼のハーレム計画 @Iwannacry

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