第17話チートな彼のキューテスト偽装
それから家族を護衛しながら村へと里帰りし、懐かしむのもそこそこに私達は都へと帰りました。
スクイーラ種のために作られた家が、今の身体にはすごく小さくて戸惑ってしまいましたが、サイガ様が隣で「ロロテナも狭いと思うか?」と小声で囁かれたので、同じ気持ちなんだと思うと少し安心しました。
ここ最近はバタバタしていましたから、ゆっくりしたいなんてサイガ様とお話をしながら屋敷へ帰ったのですが、閉じられた門の前に、身なりのよい壮年の男性が立っています。
「……こうして門の前にいるって事は……急ぎの依頼、だろうな……」
サイガ様はため息を付いてからその男性の近くへと歩きます。
「俺の屋敷に何か用か?」
「おお!サイガ様!外出していらしたのですね!」
その男性が喋りだした途端、サイガの眉間にシワが寄りました。大きな声が辺りに響きます。
「実はサイガ様に急ぎの指名依頼がございまして!」
「まあ待て、話は中で聞くから表で騒ぐんじゃない。」
「おお!ありがとうございます!」
男性は大声で礼を言うと、サイガ様を先頭に屋敷に入っていきます。
とりあえず……数時間は休めそうにないですね。
「はぁ~……やっと帰ったな……」
サイガ様は先程のお客様を見送り部屋に戻ると、ソファに身を投げて寝転びました。
「良かったのですか?あの依頼を受けて……」
村への護衛に出る前に納品依頼を消化しておいたので、急ぎの依頼は無くなっていたのですが、今日の夜のパーティーの護衛依頼だなんて、いくらなんでも急すぎないでしょうか。
「はっ、上手く行ったら何でも用意してくれるって言ったのをちゃんとこの耳で聞いたからな……」
「正直申し上げると、あの方にサイガ様の望む物が用意できるとは思えないのですが……」
「俺もそう思ってる。実際期待してるのは依頼じゃなくて例の『怪盗』の方だ。」
あの方がサイガ様に依頼をお願いした最大の理由、『怪盗ウィッシュレイン』。今日行われるというパーティーに『硝子の華』を盗むという予告状を出した、最近世間を騒がせているらしい盗賊です。
「噂でしかないんだが、どうやらウィッシュレインは相当な美少年らしい。ま、なんかよくわからん女に振り回された後なんだ。そいつの顔を拝んでやるのも一興かと思ってな。」
「なるほど……」
「ま、見れたらラッキー程度だと思って、『硝子の華』とやらの盗難阻止に専念するぞ。ロロテナも動けるように今は休んでくれ。」
「了解いたしました。」
サイガ様と私は遅い昼食を摂ったあと、ウィッシュレインの捕獲に必要な道具を準備し、パーティー会場のお屋敷へと向かいました。
「うん、今日も俺はカワイイな。」
サイガ様は手鏡を見つめながら馬車の中でうっとりとされます。たまに潜入任務等で見られる、少年に変身したサイガ様の令息スタイル……今ではサイガ様は有名人ですから、こういった場にいつものお姿で現れると少し騒ぎになってしまうのです。
ウィッシュレインも情報収集はしているでしょうし、サイガ様の事ももちろんご存知でしょう。力を持つサイガ様が会場に現れれば、警戒するのは当然です。
私は変身したサイガ様の兄として次期当主風に仕立て上げられています。なんでも、兄がパーティーに行くのが羨ましすぎて付いてきたオスガキ弟風だとか……
今まで何度か潜入のために変身されたサイガ様の姿を見ましたが、私より小さな姿になるのはこれが初めてです。
なんだかその、膝の上に乗せたくなるような不思議な感覚に襲われます……妹の事も無条件に甘やかしたくなる事があったので、そういうものだと言われれば当然のことのようにも思えてきます。
「ロロテナ、じゃないや。……ね、兄様、パーティー楽しみだね!」
「え、ええ……」
サイガ様が私を兄と呼び、腕に抱きつきます。もう演技に入っているのでしょう。私も兄のフリをしなければなりません。
「もうすぐ着きますから、いい子にしているのですよ。」
「だいじょーぶ。ふふ、どんな料理が出るかなあ?」
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