第5話 レイダーエンカウント

 ミッドナイトの四人は引き受けた御者の護衛任務の為、ハマナから北西にある都市カワラへ向かっていた。

 ハマナからカワラまでの道は整備されているが、途中の境界付近は林道となっていた。最近ではその辺りで盗賊による強奪被害が急増していた。町でも騎士団などによってパトロールが行われているが、未だ捕まっていない。

 御者は朝早くにハマナのギルドの前で待っている四人を馬車で拾った。荷台の乗っている荷物の間紛れるようにスライ、ナック、パームが入り込んで床に座っていた。フォーは御者の隣に座ることとなった。

 馬車は早い時間帯にハマナの町を出発し、カワラへ続く道へ向かっていた。運ぶ荷物の都合何軒も回る為出発時刻はこの時間になった。

 荷台の中で揺られながらパームは後から景色を眺めていた。揺れる中で景色は次々と変わっていく。それに対してナックは左右にある座高と同じ高さの箱に挟まれた状態であった。目の前はホロがある為風景は見ることが出来ない。身動きの取れない中で同じ状態が続き気分はあまり良くなかった。

 荷台の前方に座っていたスライは鞘にしまったままの剣を揃えて曲げた両膝の間に挟んで座っていた。いつ何時何が起こってもいいように身構えていた。

 緩やかな丘にさしかかったあたりでフォーは荷台のホロを二度弾くように指で叩いた。その音を聞いてスライは後ろにいる二人に対して、「警戒に入って」と口にした。二人からは「はい」という返事のみが返ってきた。

 丘を越えると林道に入る。林道は舗装されているが左右から成長して伸びきった草木が道へはみ出していた。境界を越えてカワラへ入ると林道は薄暗く死角になる茂みも増えてくる。風による少しの物音は警戒心をより研ぎ澄ませた。すれ違う馬車はこれまで一台もない。後ろを走る馬車もない。

 昼過ぎには到着したいという御者の思いは踏みにじられそうな状態でエンカウントは発生した。カワラに入ってしばらくしてからそれは訪れた。十数人の武装した集団が道を塞いでいる。持っている武器は剣、槍、斧である。フォーは目線を相手に向けつつ、二台のホロを一回だけ指で弾いた。

「おっさんと女だけか」

 フォーから見て左側にいる髭の伸びた人物があざ笑うかのように口にした。それを制するかのように手のひらを見せながら二歩前へ出て述べた。

「まあなんでもいい。とりあえず持っているもの全てここに置いていきな」

「断ったら?」

 フォーは間髪入れずに聞かなくてもわかる質問をする。

「言わなくてもわかるだろう」

 武装した集団は鋭利な武器を二人に見せた。だが、人によっては刃先が錆びている者もいる。集団で攻撃すれば倒せるから気にしないのか。

 フォーは矢を背中に背負っている筒から手に取って持っている弓を引いた。矢は先頭に立っている敵の大将と思われる者の頭を狙っている。

「あんた一人で戦うのか」

 笑いながら剣を持っていない右手を高く上げた。勢いよく振り下ろすと後ろにいる部下が武器を構えて二人へ向かって走り始めた。

 一番先頭を走っている賊が御者に向かって剣を振り下ろそうとした途端、荷台に乗っていたスライが二人の座っている席へ乗り込んできた。剣を鞘から抜いて賊の首を一太刀で斬り落とした。

「戦士が潜んでいたのか」

「汚いぞ」

「大人数で二人を襲おうとしている奴らが何を言う」

 盗賊に正論を返すフォーをよそにスライは次々と剣で相手を斬りつけていく。フォーも援護するように矢を放っていきながら、依頼人の御者を守っていた。

 剣や槍を持つ相手であれば、相手の攻撃を躱して斬りつけていくが斧を持つ者はやや力が強い。振り下ろす攻撃は躱すか剣を横にして受け止めていた。だが、受け止めるにも力の差が大きく影響する。スライの足は滑るように後ろへ後退した。

 受け止めている隙を狙ってスライの後方からもう一人が剣先振りかざした。

「スーちゃん」

 その時馬車の後ろから魔力弾が飛んでくる。魔力弾はスライに向かっている敵に当たって吹き飛ばした。敵は近くの幹に当たって倒れ込んだ。

「パームちゃん」

「援護します」

 スライはパームに目が向いている隙をついて足蹴りし、後ろに倒れそうになったところを斬りつけた。

 盗賊が殆ど倒されたところで残りは三人の部下と大将と見られる人物のみであった。フォーは矢を向けながら残っている盗賊に警告した。

「もう降参したらどう?」

 大将と見られる人物はふっと笑い降参する意思はない。三人の部下は同時にスライへ攻撃を仕掛けた。先程の部下と違い三人は隊列を組むように戦略的に動いている。先頭にいる者は剣を持ってスライに突進していく。スライは相手の動きを見切っていた。先頭の敵の突進を回避するも後ろに隠れていた二人がスライに同時攻撃を仕掛けた。

 スライは回避行動を取りつつ、二人いっぺんに当たるよう剣を横に振った。タイミングを同じくしてフォーの矢は先頭の敵の首に刺さった。

「フォー、剣持ったのは?」

 フォーはスライに襲い掛かる敵に気を取られ、目線を外していた。先程までいた位置に姿はない。敵は一瞬の間に姿をくらませていた。

 倒した盗賊はスライの指示でパームが一人ずつ身体に火をつけていく。スライは馬車の周囲を確認し大将と見られる人物が付近に潜んでいないか確認していた。

 全ての敵を燃やし尽くした頃にスライは戻ってきた。

「逃げられたな」

「そう、ご苦労様」

「パームもありがとう」

「辛い役回りを押し付けて申し訳ないわね」

「いいえ、大丈夫です」

 スライとパームは再び荷台へ戻っていった。馬車は再び何事もなかったかのようにカワラへ向かって動き始めた。杖を床に置き、荷台の後部から景色を見つめるパームの姿をスライは視線を送っていた。

 昼過ぎに馬車はカワラへ到着した。カワラへ到着すると御者は荷物を送り先に届ける為、一件ずつ回っていった。四人はそれぞれ荷物の搬送を手伝った。それも一応依頼の中に入っていた。

 荷物の搬送は一日で回り切れない。残りは翌日の朝に行い、その後ハマナへ戻るといったスケジュールであった。夜は空いている宿に泊まり、次の日の朝までは自由時間となった。

 スライは部屋の窓を開けて、一人遠くを見つめていた。重い空気は室内の隅から隅までを包み込んでいく。その場にいられなくなる程の重みがフォーにはあった。

 扉をノックする音が聞こえた。フォーが応答するとナックが中へ入ってきた。

「お邪魔します」

「パームはどう?」

 スライは窓の外を見ながら唐突に聞いて来た。相変わらずの直球で聞くスタンスは変わらない。

「寝ました。疲れていたんじゃないですか」

「そうね」

 スライは窓を閉めた。外に風はない。窓を開けていた理由も特になかった。

 ナックが部屋に戻ると室内の照明は消されていた。ナックは窓側のベッドに座った。隣にはパームが眠っている筈であった。

「パームちゃん?」

 ナックはパームのベッドの布団をはいだ。そこにはパームの姿はなかった。

「えっ」

 部屋を空けている間にパームは何処かへ行ったのだろうか。だが、杖は壁に立てかけられていた。ナックの中には思い当たる節しかなかった。もしかしたらが頭の中で駆け巡る。ナックは部屋を飛び出した。

 パームのいる場所に心当たりはない。ナックは導かれるように建物の屋上へと向かった。

 階段を一番上まで昇っていくと屋上へ上がることが出来た。そこに一人の少女のシルエットがあった。風で背中まである長い髪が揺れている。その人物は紛れもなくパームであった。

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リビング・ファンタジスタ 枝野 清 @kedano

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