新幹線出発10分前の悲劇!救世主はJRの駅員だった。

泉 きよらか

新幹線出発10分前の悲劇!救世主はJRの駅員だった。

 日々、頑張っている自分へのご褒美は何が良いだろう。

 そう考えた時に、真っ先に浮かんだのは「とびきり美味しい、日本のワインが飲みたい!」だった。

 この言葉からわかる通り、私は大のワイン好きだ。


 いつもの通り、ワイン専門店やネットで買うのも良いけれど、ご褒美に選ぶなら、五感すべてで味わえる現地のワイナリーでが良い、とも考えた。

 そう思い立ったが吉日。

 さっそく、私は「希少性の高いワインがテイスティングできる!」と謳っていた、とあるワイナリーの有料見学ツアーと、新幹線を予約した。


 そして、待ちに待った当日の朝。天気はあいにくの小雨。

 雨天決行か不安になった私は、メールの受信ボックスやワイナリーの公式ウェブサイトを確認する。

 特に何もアナウンスはなく、大丈夫そうだと胸を撫で下ろした。

 ついでに、Xでも目的のワイナリーを検索。

 すると、前日にワイナリーを訪れた方々の感想と、いかにも美味しそうなワインの写真が目に飛び込む。


「最高でした!」


 ごくり。これには、否が応でも期待が高まった。


 家を出て、電車を乗り継ぎ、新宿駅に到着。

 予約した新幹線は、10時発特急あずさ13号だ。

 私は、10分前の9時50分にすかさず乗り込み、さあ後は走り出すのを待つだけ……というタイミングで、見知らぬ番号から着信が。

 ワイナリーから当日の参加確認だろうかと、私は呑気に電話に出た。

 それは、案の定ワイナリーからだったのだが、職員の女性はとても恐縮したように切り出した。


「大変申し訳ありません。こちら山側で雪が降り始めておりまして、本日は営業時間を短縮することになりました。つきましては、ご予約いただいた午後の見学ツアーは、中止となります」


「えええ!!中止ですか!?」


 まさかの中止連絡だった。

 混乱する頭で、慌てて荷物をまとめ、新幹線を飛び降りる。

 時刻は9時55分。

 なんとか出発前に降りることはできたが、往復の新幹線のキャンセルはどうしたら良いのだろう。

 少なくとも、行きのチケットの返金は無理ではないか。

 仕方のないことだと頭ではわかっていても、とっておきの楽しみがパアになって、私は大ショックだった。


 泣きそうな気持ちで、そのまま中央西改札に向かう。

 窓口の駅員さんに事情を説明し、特に行きのチケットをキャンセルができるかを相談した。すると…


「この後、すぐにみどりの窓口に行っていただいた場合にだけ、キャンセルできるように手配できますが、それで良いですか?」


「もちろんです!ありがとうございます!」


 ありがたい言葉に、私は飛びついた。

 新宿駅を利用したことがある方はご存知かと思うが、改札の駅員さんはとても忙しい。

 そんな中、親身になって手配をしてくださり、わざわざ手書きの申し送りメモまで書いてくださったのだ!

 これには、もうただただ感謝しかなかった。(駅員の田淵さん、本当にありがとうございました)


 そして、すぐさま向かったみどりの窓口でもテキパキと、丁寧に対応いただき、無事に往復の新幹線をキャンセルすることができた。(後から調べたところ、本来であればキャンセルできないタイミングだったらしい)

 手数料はかかったが、約1万円のチケット代は、ほぼすべて返金いただけることに!

 こうして、改札の駅員さんをはじめ、JR職員の皆様のプロフェッショナルで良心的な対応に、私は救われたのだ。


 おかげで、「このワイナリーとはご縁がなかったのだな」という、私の悲観的な気持ちも払拭された。

 ワイナリーもまた、プロフェッショナルな対応をしたのだ。

 あのまま新幹線に乗って現地に行っていたら、私は雪で立ち往生してしまう可能性もあった。

 訪れるお客様の安全を考えたからこそ、中止の判断をして、すぐさま電話を掛けてくださったのだろう。

 ワイナリー職員の女性も、中止を伝えるのは、きっと気が重かったに違いない。

 悲しみが落ち着いた私は、そう冷静に考えることができた。


 自宅に戻り、行くはずだったワイナリーのオンラインショップのページを開く。

 眺めていると、出発前のあのワクワクとした気持ちが蘇ってきた。

 現地に行けなかったのはとても残念だが、また今後。

 そうして、私は新幹線の返金代と同じ額のワインを、これも記念だと注文したのだった。

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新幹線出発10分前の悲劇!救世主はJRの駅員だった。 泉 きよらか @izumi_kiyoraka

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