特急列車出発10分前の悲劇!救世主はJRの駅員だった。
泉 きよらか
特急列車出発10分前の悲劇!救世主はJRの駅員だった。
早春と言いつつ、まだまだ寒い2月も終わりのこと。
日々、頑張っている自分へのご褒美は何が良いだろう。
そう考えた時に、真っ先に浮かんだのは「とびきり美味しい、日本のワインが飲みたい!」だった。
この言葉からわかる通り、私は大のワイン好きだ。
いつもの通り、ワイン専門店やネットで買うのも良いけれど、ご褒美に選ぶなら、五感すべてで味わえる現地のワイナリーでが良い、とも考えた。
そう思い立ったが吉日。
さっそく、私は「希少性の高いワインがテイスティングできる!」と謳っていた、とあるワイナリーの有料見学ツアーと、特急列車を予約した。
そして、待ちに待った当日の朝。天気はあいにくの小雨。
雨天決行か不安になった私は、メールの受信ボックスやワイナリーの公式ウェブサイトを確認する。
特に何もアナウンスはなく、大丈夫そうだと胸を撫で下ろした。
ついでに、Xでも目的のワイナリーを検索。
すると、前日にワイナリーを訪れた方々の感想と、いかにも美味しそうなワインの写真が目に飛び込む。
「最高でした!」
ごくり。これには、否が応でも期待が高まった。
家を出て、電車を乗り継ぎ、新宿駅に到着。
予約した特急列車は、10時発特急あずさ13号だ。
私は、10分前の9時50分にすかさず乗り込み、さあ後は走り出すのを待つだけ……というタイミングで、見知らぬ番号から着信が。
ワイナリーから当日の参加確認だろうかと、私は呑気に電話に出た。
それは、案の定ワイナリーからだったのだが、職員の女性はとても恐縮したように切り出した。
「大変申し訳ありません。こちら山側で雪が降り始めておりまして、本日は営業時間を短縮することになりました。つきましては、ご予約いただいた午後の見学ツアーは、中止となります」
「えええ!! 中止ですか!?」
まさかの中止連絡だった。
混乱する頭で、慌てて荷物をまとめ、特急列車を飛び降りる。
時刻は9時55分。
なんとか出発前に降りることはできたが、往復の特急列車のキャンセルはどうしたら良いのだろう。
少なくとも、行きのチケットの返金は無理ではないか。
仕方のないことだと頭ではわかっていても、とっておきの楽しみがパアになって、私は大ショックだった。
泣きそうな気持ちで、そのまま中央西改札に向かう。
窓口の駅員さんに事情を説明し、特に行きのチケットをキャンセルができるかを相談した。すると……。
「この後、すぐにみどりの窓口に行っていただいた場合にだけ、キャンセルできるように手配できますが、それで良いですか?」
「もちろんです!ありがとうございます!」
ありがたい言葉に、私は飛びついた。
新宿駅を利用したことがある方はご存知かと思うが、改札の駅員さんはとても忙しい。
そんな中、親身になって手配をしてくださり、わざわざ手書きの申し送りメモまで書いてくださったのだ!
これには、もうただただ感謝しかなかった。(駅員の田淵さん、本当にありがとうございました)
そして、すぐさま向かったみどりの窓口でもテキパキと、丁寧に対応いただき、無事に往復の特急列車をキャンセルすることができた。(後から調べたところ、本来であればキャンセルできないタイミングだったらしい)
手数料はかかったが、約1万円のチケット代は、ほぼすべて返金いただけることに!
こうして、改札の駅員さんをはじめ、JR職員の皆様のプロフェッショナルで良心的な対応に、私は救われたのだ。
おかげで、「このワイナリーとはご縁がなかったのだな」という、私の悲観的な気持ちも払拭された。
ワイナリーもまた、プロフェッショナルな対応をしたのだ。
あのまま特急列車に乗って現地に行っていたら、私は雪で立ち往生してしまう可能性もあった。
訪れるお客様の安全を考えたからこそ、中止の判断をして、すぐさま電話を掛けてくださったのだろう。
ワイナリー職員の女性も、中止を伝えるのは、きっと気が重かったに違いない。
悲しみが落ち着いた私は、そう冷静に考えることができた。
自宅に戻り、行くはずだったワイナリーのオンラインショップのページを開く。
眺めていると、出発前のあのワクワクとした気持ちが蘇ってきた。
現地に行けなかったのはとても残念だが、また今後。
そうして、私は特急列車の返金代と同じ額のワインを、これも記念だと注文したのだった。
=====
2024年6月2日:新幹線→特急列車に修正。筆者はあずさは新幹線だと勘違いしていました……。
特急列車出発10分前の悲劇!救世主はJRの駅員だった。 泉 きよらか @izumi_kiyoraka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます