本編4 三保海岸

 あたしは砂浜を見回した。

「ナナちゃん。どうやったら常世の国へ行けるの?」

「今からあたしたちがお迎えに行くね。海を見ていて」


 スッと、冷たい風が吹き抜けた。

 明るかった周囲が突然暗くなる。

 いつの間にか太陽は消え、代わりに大きな満月が真っ暗な空に浮かんでいた。

 波の中から人影が現れた。

 三人いる。

「誰? ナナちゃんなの」


 やがてぼんやりした月明かりに照らされて、三人の姿が見えてきた。

 ナナちゃんと、ナナちゃんのお父さんとお母さん。

 みんな青白い顔で、全身びしょ濡れ。髪の毛がぴったりと額に貼り付いて、顎から水を滴らせている。


 ナナちゃんは携帯電話を耳に付けて話していた。

 ナナちゃんと目が合うと、体の芯から冷たくなっていく気がした。

「メイちゃん、お迎えに来たわ。あたしたち、お父さんの会社がだめになって、お家も取られちゃった。行くところがないから、みんなで海に入ったの。


 そうしたら常世の国に着いて、すっかり元気になったのよ。メイちゃんもいらっしゃい。最初は息ができなくてちょっと苦しいけど、そのうち楽になれるわ」


「苦しいなんて嫌よ」

「でもね、常世の国は死者の国。死んだ人しか行けないのよ」

 逃げようとしたしたけど、体が動かない。


「助けてっ」

 あたしの声は誰にも届かない。

 ナナちゃんが冷たいほほ笑みを浮かべながら、ゆっくりした足取りで近づいてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ナナちゃんが呼んでいる 青嶋幻 @genaoshima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ