ノンタイトル
熊猫 春
第1話 バグ
「そろそろ終わるか、、」
浮かんでいるログアウトボタンを押すと現実の感覚が戻ってくる。丸い球体から外に出ると身体が固まってしまった為1回伸びる。
「あ!月くん!!!お疲れ様です!!」
後ろから声をかけられたので振り向くとネコがいた。
ただし動物の猫ではない。ちゃんとした人間である。
ふわふわした髪の毛を揺らしながら駆け寄ってくる姿はまるで犬のようだが、、、、
「おつかれ...名札曲がってる」
手を伸ばして'猫柳'(ねこやなぎ)と書かれた名札を真っ直ぐにしてあげた。
「.....!」
顔を上げるとネコの顔が少し赤くなっていた。
「ん?顔が赤いが熱でもあるのか?」
ネコのおでこに手を当てると更に顔が赤くなった。
「い、いえ!!ここあ、あついですねえ、、!!」
ネコが手で顔を仰いだ。
確かに暖房が効きすぎているかもしれない。
――
ここはバーチャルリアリティゲームを楽しむ事が出来る通称VRGを制作している本社である。近年科学技術が発展し、気軽にバーチャル空間を体感出来るようになった。更にAR(拡張現実)にも力を入れており、開発されたARメガネ(略・Aメガ)は大ヒット商品となり今では当たり前のように皆が使用している。Aメガがあれば前でいうスマホのような役割を果たすようになったのだ。
しかし、未だにFPS (一人称視点のシューティングゲーム)はAR化の認証が国からおりていない。大きな理由が現実との境目がつかなくなってしまう危険性があるからだ。過去に1度体験版として一部地域で試用されたことがある。その結果何人もの人が死亡してしまうという凄惨な事件が起こったのだ。
FPSができるのはVRのみとされ、専用のゴーグルがあればゲームを楽しむことが出来る。さらに今では感覚までもリンクさせることの出来る技術が開発されたのだ。それがさっきで俺が出てきたこの球体だ。通称スフィアはバーチャル空間に現実の意識を同期させ、座った状態でもバーチャル空間では行動することが可能となった。この技術をゴーグルに組み込ませることでAメガのような軽量化可能なのでは、と実験が行われているのがここ本社なのである。
――
「あ!月くん、明日も来られますか?!」
ネコが前のめりになりながら聞いてきた。
「何かあるのか?」
「またバグが見つかったそうで、月くんに頼めないかな、、と」
申し訳なさそうにチラッと顔色を伺ってくる。
「わかった、明日だな。大丈夫だ。」
「ありがとうございます!あ、、!」
「いやぁ、有難いな!!」
声が聞こえたのと同時にネコが俺の後ろを見て慌ててお辞儀した。
振り返ろうとする前に腕をガバっと俺の肩に回してきた。
「久しぶりだな、桂樹 月(かつらぎ るな)くん」
ニヤっと笑いながらこっちに顔を向けてくる。
ヤニ臭い、、、
「顔を離してください」
腕を剥がし距離をとる。
「相変わらずつれないなあーー」
頬を膨らませ拗ねたフリをしているが無視だ。
「霜嗣(しもつけ)室長!何故ここへ?」
「君は確か猫柳くんだったかな?」
黒い髪の毛を耳にかけながら咲(さき)は言った。
「はい!!霜嗣室長に名前を覚えて頂けているなんて光栄です!!!」
ネコが嬉しそうに目をキラキラさせた。
やっぱり犬だな。
「君には感謝しているよ。月の*パートナーが君みたいな子で良かったよ」
ネコの肩をポンと叩いた。
「いえ、そんな!!僕もあの月くんのパートナーになれて嬉しいです!」
「そうかそうか!こいつは無愛想だがゲームの腕前だけは天才的だからな!どうだ、そろそろプロゲーマーになってきてもいいんじゃないか?」
ハッハッハと笑った後にこっちに顔を向けた。
「ならない」
そう言って俺はその場から離れた。
「あちゃあ、機嫌を損ねてしまったかな」
「どうして月くんはプロゲーマーにならないんでしょうか、、高校生の頃からテストプレイヤーとして参加してくれてましたがあの腕前なら今のプレイヤーの中でも一番狙えるのに、、」
「まあ、これからも月を支えてくれ。」
霜嗣室長は白衣を翻し去っていった。
-翌日-
「月くん!来てくれてありがとう!」
「別に、、それでバグっていうのは?」
スフィアに入りリンクさせる。リンク状態でも外部からの音声を拾うことも可能だ。
『今回のバグなんだけど』
「これ新しいゲーム?」
『あ、ごめんね説明がまだだった、これは世に出回る予定のゲームじゃないんだけど、と言ってもほとんど他のFPSと基本操作は同じだよ!』
「ふーん」
『月くんからすると興味無いよね、、!先にバグの説明するね!』
楽しそうだなとは思ったんだけど、、
視線を向けるとウサギに角が生えたようなモンスターが現れた。
見るからに弱そうだが、、
『あ!!月くん攻撃しちゃダメ!!』
言うのが遅い。
俺は既に剣を振りかざして攻撃してしまった。
すると一度倒されたウサギが再び元に戻ったと思ったら巨大化した。
『それがバグなんだ!!』
ネコが言った。
『最近新たにプログラミングされてバグが具現化されるようになったんだ!モンスター=バグでモンバグっていう奴らだ。』
「なんでバグを具現化したんだ」
『開発チー厶がそっちの方が面白いって、、ってそれどころじゃない!そのバグは本来倒せば終わるはずなんだけど体内に埋め込まれてる核を一発で壊さないと凶暴化するんだ!』
なんとめんどくさい、、
ネコによると中途半端に倒すとさらに凶暴化していく仕組みらしい。開発チームが面白がって設定したがその結果倒せなくなってしまったそうだ。更に通常のやり方ではバグを消せないだとか。
本当にめんどくさいことを(2回目)
『月くんなら倒せるかも!って本当にごめんねぇぇぇ!!』
ネコが叫んでいる。
別にネコが謝ることでは無いが。
俺はふぅと神経を集中させた。
武器は木の棒のみの初期装備だ。
まあ、出来るだろ。
核は確か胸の辺りだ。木の棒では厚い肉を貫通するのは難しい。
だったら、、
俺は上へ飛んだ。そのまま大きなウサギの頭に飛び乗った。
ウサギが口を開けると同時に顎をへし折る。
モンバグの叫び声が響き渡った。
俺は構わず木の棒を口の中へ押し込んだ。
「グギャアアアア!!!!!!」
パキッ!!
核のようなものが砕ける音が聞こえた。その瞬間モンバグは塵となって消えた。
スフィアを出てネコに聞くと大体のゲームは現実との身体能力が異なるがゲームでは無い為そのままの身体能力がリンクしてしまうらしい。だから倒せないだとか。
「月くん、本当にありがとう!!」
ネコが泣いて頭を下げてきた。
「別に。じゃあ帰る。」
家に着き、さっさとお風呂に入りベットに潜った。
明日の講義は一限からか、、
そう思いながら俺の意識は微睡みに沈んでいった。
――
暗闇に等間隔に置いてある街灯の下をスーツを着た男性が歩いていた。
「キュッ!」
目の前に小さな影が見える。
「ん?なんだ、うさぎか?こんなとこにどうして、、」
目を細めて見るとウサギに見える。
「まあ、俺には関係ないか。さ、帰ろう。」
ウサギはその男性が去っていくのをじっと見つめていた。
しばらくすると3人の男女が現れた。
「え、なになに!!ウサギ?!ちょー可愛い!!」
「まじじゃん!!なんでこんな所にいるんだろ!」
女と男が触ろうと手を伸ばす。
「もねも触りなよ!!」
女が言う。
「嫌だ。」
「もねは相変わらずだなあ。ほら可愛いぞお!」
男がウサギを持ち上げようとする。
ガブッ
「痛って!!!何すんだこいつ!!」
男はそう言ってウサギを電柱に叩きつけた。
「ちょ!可哀想じゃない!!」
女はウサギに駆け寄った。触ると息をしていないことがわかった。
「あんたのせいで死んじゃったじゃない!!」
「う、うるせえ!!」
男女が言い合いを始めた。
うるさい。
もねと呼ばれるフードを被った子はウサギを見ると微かに足が消えていることに気がついた。
「それ、*Aモンじゃない?」
指差しそう言う。
男女はAメガを取るとウサギがいた場所には何もいないことに気がついた。
「なーんだ、良かったよ」
「まじで殺したのかと思ったわ」
2人は安堵した。再びAメガを装着するとウサギはどこにもいなくなっていた。
「ん?処理されたのか?」
ダンッ!
後ろから大きな音が聞こえた。
振り返ると大きなウサギがこちらを睨んでいた。
「おい、あれはなんだよ、、、」
男女は怯えた。
Aメガを外すとそこには何もいない。
「な、なんだ。やっぱモンデジか、、!」
言いかけたところで男の体が真っ二つに分かれた。
「き、きゃああああああ!!!!!!」
女の叫び声が夜の街に響き渡る。
「だ、誰か助け、、」
女も逃げようとしたが凶暴化したウサギに踏みつけられた。
ウサギはもねを次の標的にした。
グサッ
「ピギャアアアア!!!!!!!」
パキッ
もねは鉄の棒を地面に置いた。
「近くに工事現場があって良かったよ。」
街灯に照らされた口元は笑っていた。
*パートナー・テストプレイヤーの結果を研究し分析する人、更には体調管理までする
*モンデジ・ARの動物のこと
ノンタイトル 熊猫 春 @haru0403
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