澄んで黒
豊山
A
この人生は、憧れだけでどうにかなるものじゃないことを知った。
この人生は、憧れが叶わないとしても頑張る事は無意味だと知った。
この人生は、孤独を笑われ、その癖に同情だけだと言うことを知った。
この憧れが、身も心も空っぽにした。
5人で1部屋の相部屋で過ごしていると、どうにも締めなきゃいけないロッカーの鍵をそのままにして出ていくヤツというのも出てくるもんだ。
そりゃ1回や2回なら、習慣づけるのも簡単では無いししょうがないだろう。
しかしそいつには3度目もチャンスがあると気が緩んだのか知らないが、またまたまた放置して出て行ったのだ。
流石にこれは指導役からも注意を受けるのだが、なんともここは連帯責任の場。無関係の同期たちも巻き込まれて”話し合い”が始まる。
が、当の本人のやる気のなさには違和感を抱かざるを得なかった。そしてこれもすぐに理由が分かった。
部屋に戻った。
「最後に部屋を出た奴が全員分の鍵を確認しろよ」
あぁ、そういうことか。
こっちの勉強時間を割いといて挙句に自分で言うことはそれですか。
消え失せろ、小僧。
この瞬間、努力も何もかもが意味をなさないことを知った。
元は別にやりたいことがその憧れがあるから選んだこの職も、蓋を開けてみれば全く関係の無い車両点検を担当する部署に配属が決定。
それでも自動車が好きだから踏ん張ろうと足掻いてきた筈だったのだ。
その仕打ちがこれとは、神がいるならソイツはきっと暖かい布団で寝ているか宴の真っ最中だろう。
高校を出ると同時に取得予定だった資格も蹴ってまで、地元を離れて選んだこの職場がこれか。
憧れは所詮タダの憧れであり、金にも名誉にもならない。
努力をするのは大切だが、それを生かす才能が無ければただの時間の浪費だ。
私が高校3年間で得られたはずのものと引き換えに、希死念慮が自分に染みついた。
土地柄には似合わない暑い夏の日、私の喉を汗じゃないものが流れていた。
澄んで黒 豊山 @Hozan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます