第40話 世界の行く末 【完】

「……これで、いいのか?」

「はい、大丈夫です」


 闇は確かに大地に吸いこまれるようにして消えていったけど、これで本当に全てが解決したのだろうかと思っていたら、横から大丈夫だと言われたが……あんまり信用できない。だって、あれだけ世界中に迷惑かけていた奴が、鎖と隕石だけで封印できちゃったっておかしい話じゃない?


「そもそも、世界は闇を封印して初めて安定するようにできている……いえ、創世神がそういう風に作り変えたのです。そうでもなければ、闇は封印から漏れ出して世界を脅かしてしまうから」

「……なるほど?」


 上手く理解はできないが、ようは世界を回す歯車として最初から存在しているように世界を改変したってことでいいのかな? それならなんとなく納得できると言うものだ……つまりは、闇を封印する場所をわざわざ作ったのではなく、そもそも闇が封印されていることが世界の正しい在り方であると定義づけることで、闇の封印を強固なものにしたわけだな。だから、創世神の力が弱まるまで封印が解けることがなかったと。


「じゃあ、俺がさっさと創世神の立場にならないと闇がまた漏れ出てくるってことか?」

「そういうことですね。具体的に言うと、あと数百年このまま放置していると、再び完全に復活します」

「なげぇな」

「長いか? 一瞬だろ」

「神様の基準で喋られてもわからんよ」


 普通に考えて、数百年は長すぎるだろ。


「まぁ、なんにせよ……これで闇を封印することはできたんですから、後は貴方が新たな創世神としてこの世界を安定させるだけです」

「……わかったよ」


 世界を安定させるには、なんにせよ俺が創世神に一度はならなきゃいけない訳だろ? だったら、後から色々するにしてもならなきゃいけないなら頷くしかないだろ。


「大丈夫、なんですか?」

「わからない……けど、大丈夫じゃなかったら世界滅ぼしちゃうかも」

「いいぞ」

「え!?」


 冗談半分でふざけたことを言ったら、エレナさんに許可を貰えた。困惑しながらエレナさんの方に視線を向けると、苦笑いを浮かべながらも頷いているエレナさんがいた。


「お前を犠牲にしないと成り立たない世界なんだったら、さっさと崩壊させてしまえばいい。他の奴らがどう思うかなんて関係ない……お前が望むままにしろ」

「それは困ります。世界をしっかりと再建して貰わないと」

「それは神々の理屈だろう? ゼフィルスはゼフィルスだ……お前たちが怠惰にやってきたツケを、1人の異世界人に払わせようなんて都合がよすぎること、私は頼めないな」


 エレナさん……かっこいいな。


「わかりました。死にたくないから、もしかしたら世界を破壊してしまうかもしれませんが……その時はまたお願いします」

「あぁ……何をお願いするのか知らないが、心得た」

「……妾、世界滅びるの嫌だなー」

「知らん」


 イザベラの意見は聞いてない。


 俺たちの話を聞いて呆れたって感じの表情をしていた光だが、実際に権能を持っている俺の言葉逆らうことはできないのかやれやれと首を振りながら、空間に穴を空けた。


「この先が、世界の中心です……イザベラとゼフィルス様は、入ってください。瑞樹さんとエレナさんは入らないでくださいね……死にますから」

「死ぬの?」

「はい。権能を持たない者が立ち入ってまともに済む場所ではありませんから」


 そんな場所なのかよ、世界の中心。

 言われるがままに穴を潜り抜け、世界の中心にやってきた。

 周囲は真っ暗闇の中に、ぽつぽつとガラス玉のようなものがぼんやりと光りながら浮いている。これはなんなのだろうかと手を伸ばしても……真っ暗闇で距離感が掴めないせいで届かない。


「あれは、ここから見える別の世界です」

「え!?」

「貴方はあの世界の中から選ばれたんですよ」


 世界の中心って、そういうこと?


「では、この椅子にお座りください」


 促されるままに歩き……玉座の様なものに座るように言われた。ちょっと警戒しながら座ろうとしたら、俺の横からイザベラが割り込んで玉座に触れようとして……そのまま吹き飛ばされた。


「いったぁっ!?」

「当たり前です。1つの権能しか持たぬ者が、触れることはできません……無論、私も」


 イザベラのことを無視して俺は玉座に座る。同時に、とんでもない情報量が頭に流し込まれ、立ち眩みのような気持ち悪さを覚えたが……しばらくすると頭がスッキリした。


「創世神様……貴方様の御心のままに世界を動かし下さい」

「あぁ……」

「おいゼフィルス、しっかりしろよ」

「わかってる」


 まるで、世界の意思がそのまま流れ込んでくるかのようだ。たまらなく不快で、愉快で、全能感があって、無力感があって……心底気に入らない。

 イザベラが持っている不滅の権能を取り上げ、空間に穴を作り出してそこに放り込む。なにか言おうとしていたようだが、あんな小さな者の声など今更俺には届かない。


「……あれが、俺がいた世界で……これが、さっきまでいた世界か」

「はい」


 2つのガラス玉を手元に引き寄せて……片方を粉々に破壊する。その行為に、光は少し驚いたような顔をしていたが、すぐに頭を下げた。

 バラバラに砕けたガラスの破片を丁寧に集めて……再びガラスの玉へと戻していく。これで……あの世界の歪なシステムは消えたはずだ。同時に、俺は手元に握り締めた大切なものを片手に……玉座から立つ。


「これからは、お前がこの椅子に座れ」

「はい? な、なにを言って──」

「それが、お前の役割だ」

「──了解しました。創世神様の御心のままに」


 その言葉の意味は……語らなくても彼女はわかっているはずだ。

 俺の身体の中から万能的な力の根源が抜けていき……意識が段々と遠くなっていく。


「お疲れさまでした……また会える日が来ると、いいですね」

「……二度と会いたくないね」


 ぶつりと、意識が途切れた。






「はっ!?」

「んぇっ!? な、なんですかっ!?」


 朝、いきなり目が覚めた。

 さっきまで長い夢のようなものを見ていた気がしたんだけど……気のせいかな。なんか、俺が神様みたいな力を手に入れて無双している、小説みたいな話だった気がするんだけど。


「って、もうこんな時間か」


 今日が休日とは言え、10時まで寝てるのはやばいな……さっさと起き上がるか。俺が飛び起きたことで、横で寝ていた彼女は未だに何が起きたのか理解できていないようだ。


「おはよう、

「お、おはようございます」


 俺のである五百雀いおじゃく瑞樹の頭を撫でてから、起き上がって寝室から出る。


「随分と、寝坊助だったな?」

「あ、す、すいません……恵令奈エレナさん」

「……まぁいい。さっさと朝食でも食べろ……今日は出かけるんだろ?」

「そ、そうだった!?」


 1である恵令奈さんに言われて、俺は慌てて椅子に座る。寝室からは俺と同じように飛び出してきた瑞樹が慌てた様子で椅子に座り、恵令奈さんを俺たちを見て苦笑いを浮かべている。


「いただきます!」

「私も、いただきます!」

「しっかりと食え」


 恋人2人と食べる朝食のことで夢を見ていたことなんて、簡単に記憶から消えてしまった。

 平穏な日常が、また始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

扉を開けた先は異世界だったし、異世界から来た人間は虐げられてしまう世界だったんですが、なんとか生き残る為に頑張りたいと思います 斎藤 正 @balmung30

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ