第39話 封印

『ぐぉぉぉぉっ!? これはっ、隕石かっ!?』

「おー……思ったより気持ちのいい権能だな!」


 運命の力を使ってあらゆるものを引き寄せる……言っていることもやっていることも滅茶苦茶だが、使っている俺としては滅茶苦茶楽しい感じの権能だ。ド派手で……魔法を使っているって感じが凄いするからな。

 引き続き、俺は頭上から複数の隕石を呼び寄せる。まだ運命の権能には慣れていないが……身体が変化しているのか、やはり権能を操るのがスムーズになっている。


「無茶苦茶やるようになったな……まるで神だ」

「ちょっと黙ってろ」


 イザベラからイラっとする言葉をかけられたが、これは闇を倒す為にやっていることなので仕方ない。自分が神のようなことをしているのも理解しているが、世界を守る為だから……なんて言い訳を重ねる。

 光の力を受けた隕石だからなのか、それとも単純に質量攻撃だからなのかは知らないが……エレナさんやイザベラの攻撃と違って俺の隕石はかなりのダメージを猪に与えているようだ。その証拠に、鎖を引き千切りながら猪は身体を縮小させて隕石から逃れている。


『おのれ……許さんぞ』


 猪の身体がどんどんと小さくなっていくので、それを攻撃すれば終わりだと思ったのだが……闇の靄が人型に固まって光のように人間の姿になった。ダンディーなおっさん姿になった闇は、エレナさんの剣を片手で受け止めてからギロリと睨み付けた。


『人間如きがこの私の歯向かおうとは……たかが神の加護を受けただけの分際でっ!』

「ちっ!?」

「仕方のない奴だ!」


 いつの間にか右手に握られていた刀の様なもので闇がエレナさんを斬り着けようとした瞬間、イザベラが黄金を操ってエレナさんと闇の間に滑り込ませる。金属音と共に刀は黄金に弾かれたように見えたが……次の瞬間には闇が黄金を侵食して消し去っていくのが見えた。


「あれが闇の力……触れたものを虚無へと還していく、循環の役割を持った力です」

「循環の力……だから、創世神は闇を消さなかったと?」

「はい。そして……私の光の力が闇の力の対、虚無から新たなものを創世する循環の役割を持つ力」


 闇によって黄金を消されたイザベラは動揺していたが、イザベラの背後に立っていた光が闇によって虚無に消えた黄金を再び生み出していた。


「……自分も一緒に戦うって言ってた理由がわかったよ」

「でしょう?」


 虚無に消えた物質を再び戻すことができる……これほど大きな利点はないだろう。


「ただし、消された物質は元に戻すことができても、命や魂までは戻せませんのでご注意を……戻しても、中身のない綺麗な死体だけが戻ってきますよ」

「気を付けるよ」


 笑えない話だが……逆に言えば命以外なら戻ってくると言うことだ。しかし、命が戻ってこないのならば……俺の持っているリリヴィアの生命を操る権能は相性が悪いな。そして、物体をぶつけるのも意味がなくなるので、隕石を落とすのも効果が半減……ここは風で攻めるべきか?

 見た感じ、闇は自らの意志で消すものを選別しているようで、触れたもの全てを消し飛ばすことはできないようだ。まぁ、それができてしまったら、世界に触れているだけで徐々に世界が消えていく訳だから……そんなことができる訳もないか。同様に、光も消されたものを自らで選別してこの世に戻しているのだろうから、一度に大量の物を消すことも戻すこともできないかもしれない。


「同時攻撃で行こう。最初に突っ込むのは俺がやるから……エレナさんは攻めるなら俺の後からで」

「仕方ないか……わかった」

「妾は?」

「俺のことは無視して、エレナさんを守りながらガンガン攻撃してくれ……あいつが一度に消せる量には限界があるはずだ」

「そうですね……私が一度に戻せる量と同じように、限界があると考えていいでしょう」


 だからこそ、俺が先頭に出る。エレナさんが一撃受けたら即死かもしれないが……俺の場合は攻撃を受けずに立ち回ることだってできるし、攻撃を受けても死ななければ生命の権能でなんとか回復だってできる。


「なら、私がエレナさんを運びます」

「瑞樹さん?」

「私だって……今までずっと見ていただけじゃないんです」


 ちょっと不安だけど……ここは瑞樹さんにも任せてみよう。


「よし、行くぞ!」

『来い! 私が闇の彼方へ消し去ってくれる!』


 俺が踏み込むと同時に、風を放つ。ただの推論でしかないが……闇は自らが物質として認識できるものしか消すことができない。だからこそ、不意打ちを受ければそれは消せないし、風と言う見えない攻撃は消すことができない。

 風の刃を身体に受けた闇は、苦痛に表情を歪めてから闇を放出した。そこに、イザベラが放った流体黄金の波が襲い掛かる。


『この程度っ!』


 綺麗に闇が立っている部分だけぽっかりと消え、無傷で済んでいた。しかし、その直後に瑞樹さんを背負ったエレナさんが闇の背後に現れ、背中から剣を突き刺した。


『がっ!?』

「ふっ!」


 不意打ちを受けた闇が即座に虚無へと消し去ろうとしたが、地面から光の鎖が伸びて腕を拘束し、地面に散らばっている黄金が再び意思を持ったように闇を囲う。


「そこだっ!」

『なにっ!?』


 自らを囲うように覆われた黄金の一部を消し去って飛び出してきた闇だが、そんな派手な行動をすればどこから飛び出してくるのか教えるようなものだ。俺は、その穴を目掛けて風の矢を放ち……その腕を消し飛ばした。


『がぁっ!?』

「封印します!」

「どうやって!?」

「貴方はそのまま攻撃してください!」


 え、封印って光がやってくれるのか!?

 腕を消し飛ばされてもまだ暴れる闇の身体に、次々と光の鎖が巻き付いていく。言われた通り俺は風の矢を放ち続け、イザベラも黄金の槍を射出しているが……効いているのか微妙だな。


『この世界ごと消し飛ばしてくれるっ!』

「貴方にそんな力は残されていません。さっさと封印されなさい!」

『き、貴様ぁっ!? また私の邪魔をするのか! 許さんぞ創世神めがぁっ!?』

「俺はまだ、創世神じゃねぇ!」


 ムカついたので上空から巨大な隕石を落下させて、そのまま闇の身体を地面に叩きつける。巻き込まれそうだったエレナさんは、瑞樹さんの風の力によって俺の背後に瞬間移動してきた。

 隕石によって上から押し付けられ、そのまま光の力によって大地の裂け目へと落とされていき……大地から噴出していた闇が完全に消え去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る