大切な君とのプレゼント交換

かめちい🐢

大切な君とのプレゼント交換

 僕の彼女、加奈かなと僕は共通の誕生日を持っている。加奈とは付き合ってもう3年になるのだが、彼女と僕が、共通の誕生日を迎えるその日はお互いにプレゼントを交換することになっている。


「ねえ、君は私からどんなものもらったら嬉しい?」


 お互いが共通の誕生日を迎える前日、いつものように二人で学校からの帰り道を歩いていると、加奈が長い黒髪をたなびかせながら僕にそう尋ねた。


「それは聞かないって約束だろ?相手が自分の為にどんなものを用意するのか分からない方が楽しいからそうしようって言い出したのは加奈の方じゃないか」


「そうなんだけどさ~。いろいろ考えても分からなくて。ヒントだけでも教えてよ。君が私から何をもらったら喜ぶかについて」


 加奈が自分の為にそこまで真剣に考えてくれているということがとても嬉しくなり、僕は心が熱くなるのを感じた。


「ヒントか~。そう言われると逆に難しいな」


 僕はつい昨日まで加奈の為に何をプレゼントしようか夜も眠れないほど悩んでいた身であり、自分が彼女から何をもらったら嬉しいかなど、考えもしていなかったので、加奈のその問いに対してしばし頭を悩ませた。


「僕は加奈が僕のために考えた末に選んでくれた物なら何だって嬉しいよ。」


 と、思っている通りの事を加奈に伝えた。


「全く、それじゃ私が困るんだよ…。欲しいものがないんなら、何か私にこうしてほしいとかお願いしてくれてもいいんだぞ?」


「してほしいこと…それも難しいな」


 答えに詰まった僕を見て、加奈は少しあきれた様子を見せる。



「本当に君は欲が少ないな~。でも、そういうところも、私はとっても……」


「え?なんて?」


 加奈が照れ臭そうに僕から目をそらしながら、ボソッと何かを言ったような気がしたが、うまく聞き取れず、僕は加奈に聞き返した。すると加奈は少し顔を赤らめ、パンッと僕の背中を叩く。僕の背中にジンジンとした痛みが走る。


「何するんだよ加奈~!」


「悪いのは君の方だぞ~」


 そう言って僕の背中にもう一発攻撃を加えようとして来る加奈から逃げるように、僕は帰り道の路地を走り、僕の背中を追いかけるように加奈も走ってくる。正直言って加奈は僕にとっては過ぎた彼女だ。そんな彼女とこうやって一緒に時間を共にできるだけで、僕にとってはたまらなく幸せだった。


 加奈が言ったように、僕は加奈に対して、自分から『お願い事』をした事がなかった。というのも、今加奈と付き合えているという事実が、自分にとっては身に余るほどに幸せであり、これ以上多くを望みすぎたらこの幸せが崩れてしまいそうな気がして怖かったのだ。だけど、後ろを振り返り、見ただけで元気がもらえるような笑顔を向けながら僕を追いかける加奈を見て、僕は一つだけ、加奈に対して初めてお願いをしたくなった。


「ねぇ加奈。僕が君に望むもの、言ってもいいかい?」


 加奈はその場に立ち止まり、ゆっくりと頷く。彼女の長い黒髪が風に揺れるのが僕の目に入った。


「加奈の思うとびっきり奇麗な姿を、僕に見せてほしい」


 それを聞いて加奈は照れ臭そうにうつむいて、


「そんなことでいいのなら…喜んで…」


 と言った。



 ◇


 翌日。ついに僕と加奈は共通の誕生日を迎えた。今日は休日。僕たちは昼にいつもの河川敷で待ち合わせをして、そのあとにデートをしようという約束をしていた。僕は加奈との約束の時間が待ち遠しくて、予定よりも20分早くついてしまった。仕方なく河川敷の草の地面の上に腰を下ろし、加奈に今から手渡す予定のプレゼントの入った袋の中を覗き込んだ。


 加奈に手渡す予定のプレゼント。それは少し高級で奇麗な赤い色をしたリボンだ。加奈の長く美しい黒髪にきっと似合うに違いない。そう思って買ったのだ。そのリボンを着けた加奈の美しい姿を想像しただけで、僕はいてもたってもいられなくなった。


 と、その時、


「お待たせ!」


 僕の背中から美しい鈴のような声がした。加奈の声だ。僕はゆっくりと立ち上がり、後ろを振り返る。そこには彼女の細い体を際立たせる、白いワンピースと、可愛らしい赤い靴を履いた加奈の姿があった。



「あっ…」


 僕はあまりの驚きに息を呑んだ。もちろんあまりの加奈の姿は思っていたよりもずっと美しい姿だった。しかし、なにより僕を驚かせたこと。それは、


「加奈…髪…切ったんだね…」


 僕が彼女に尋ねると加奈は少し恥ずかしそうに髪を撫でながら僕のほうに歩いてきた。

「さっき美容院で髪を切ったの。いつも髪を切ってる所よりもいい所で。どう?やっぱり…変かな?」


「そんなことないよ。とっても奇麗だし、とても嬉しい。でも、今日…君に渡そうとしてたプレゼントのことなんだけど」


 そう言って僕は彼女に赤いリボンの入っている袋を手渡した。加奈が袋の中身を確かめて何かを察したかのように「あっ…」という声を漏らした。


 加奈のショートヘア姿は間違いなく美しい。しかし、だからこそ、今から加奈に渡そうとした僕のプレゼントのリボンが無用の長物になってしまったことに、無力感を覚えた。加奈がこんなに美しい姿を僕に見せてくれたのに、僕は彼女の喜ぶプレゼントを用意できなかったのではないか。そんな不安が僕の胸の内に広がった。


 しかし、そんな僕に加奈は天使のような優しい声で言った。


「ほら、顔を上げて。私は君からプレゼントをもらってこんなにうれしい気持ちになってるのに、君が落ち込んでたらこっちまで気分が悪くなるでしょ?」


 そう言って加奈は、僕がプレゼントで買ったリボンを取り出し、僕が思いもしなかった方法で頭に結んだ。すると加奈の頭に結ばれたリボンは、僕が想像していたよりもずっと輝いて見えた。


 やはり加奈はいつも僕の予想を上回る行動をとり、そして僕を幸せにしてくれる。


「ありがとっ!君からのプレゼント、大切にするね」


 そう言って加奈は僕の頬に優しくキスをし、美しい笑顔を向ける。本当に加奈にプレゼントを買ってよかった。そして改めて、加奈のことを一層愛おしいと思うようになった。


「じゃあ行こうか」


 そう言って僕は加奈の手を取り、僕たちを照らす太陽に向かって二人で歩き始めた。




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大切な君とのプレゼント交換 かめちい🐢 @kametarou806

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