12
その日、私たちの暮らしている街に、たくさんの流れ星が降った。
それはとても大きな流れ星群で、きっとその流れ星の姿は、この国のどこの街からも、空を見上げれば確認できたと思う。
その流れ星に、その夜、きっとたくさんの人たちがいろんなお願いごとをしただろう。(私たち三人がこの場所でそうしたように)
その願いが、できるだけ多く叶えばいいな、と、その美しい流れ星の流れる冬の夜の風景を見ながら、三笠小夜は思った。
……三年前。まだ稲田先輩が中学校に在籍していたとき、(天文部が稲田先輩と綾川先輩と小夜の三人だったとき)みんなで流れ星を見に行くことになったときがあった。
その日、いつもの自分の部屋の中で目覚めた小夜は台所に移動して、家族と一緒に朝ごはんを食べた。
その日は朝から、テレビの中で流れ星が降る予報があった。
……のだけど、小夜は天文部員だけど、それを見に行くつもりはなかった。(そういう予定も天文部の中では、立ててはいなかった)
「よし。みんなで星を見に行こう」
でも、放課後になって、稲田先輩がいつものように、いきなりそんな無茶なことを言い出した。(なんでも急に生徒会かなにかの予定の変更で時間が空いたらしい。稲田穂村先輩は『暇』と言う時間と言葉をすごく嫌う人だった)
小夜は綾川先輩と顔を見合わせて、はぁーと大きなため息をついた。
「なに? ため息なんかついちゃって? そんなことしていると幸せが逃げちゃうよ?」
にっこりと笑って稲田先輩が二人に言う。
「先輩、本当にいくんですか?」
「当たり前でしょ!? 私たち『天文部だよ? 天文部!』。流れ星くらい見に行くでしょ? 普通」と稲田先輩は言った。
「ね、三笠さん」
「はぁ、まあ。そうですね」小夜は言う。
小夜はあんまりこの話に最初、乗り気ではなかった。また稲田先輩の無茶な話が始まったな、くらいにしか思ってはいなかった。
しかし、よく考えてみると、これは綾川先輩と一緒に夜にお出かけをして、そして(近くに稲田先輩がいるとしても)先輩と一緒に、できれば、二人だけの時間とかもあって、星を見る、と言うすごくロマンティックな経験をすることができるのではないかと気がついて、小夜は「流れ星、か。いいですね」と稲田先輩の思いつきに賛成をした。
「でしょ? さすが三笠さんはわかっているな。綾川くんとは大違い」
にっこりと笑って、綾川先輩を見て、稲田先輩は笑った。
「わかりました。いきますよ。でも、準備をするのはどうせ僕なんでしょ?」綾川先輩ははぁー、とまたため息をついてから言う。
「少しは手伝うよ。私は部長だからね」そう言って稲田先輩は早速、夜に星を見に行く準備を始めた。
綾川先輩と小夜も手伝って、それから(こうと決めたらすごい)行動力のある稲田先輩は先生たちの了解をとって、小夜たち三人だけの星見中学校天文部員たちは近くの公園まで、夜に流れ星を見に行くことになった。
集合時間の少し前。
小夜は厚着に着替えをして、自分の荷物を持ち、それから学校から借りてきた天体望遠鏡を持って、「行ってきます」とお母さんに言って、家を出た。
外は寒く、(その日は冬の日の夜だった)でも、夜空は本当に透き通るように綺麗で透明だった。
星も綺麗に輝いている。
これから数時間後には、この透明な冬の夜空が流れ星の流れる光景で埋め尽くされると思うと、小夜はなんだかすごくどきどきしたし、小学生のころの自分に戻ったみたいに心がわくわくもした。
小夜は走る。(自然と足が駆け出した)
集合場所は、我が中学校の正門前。そこに、稲田穂村先輩と綾川波先輩が、顧問の美森先生と一緒に、私(小夜)を待っていてくれている。
吐く息は白い。
でも、体はとてもあったかかった。
小夜の見上げる夜空にまだ、流れ星は見えない。
……でも、もし星が見えたら、きっと、その夜空に流れる流れ星を私は絶対に捕まえてみせる。
中学校までの夜道を走りながら、当時中学一年生だった三笠小夜は、天体望遠鏡をその肩に担ぎながら、笑顔で星を見て、そう思った。
小夜が中学校の正門前までたどり着くと、そこには顧問の(まだ眠たそうな顔であくびをしている)美森先生と一緒に稲田穂村先輩と天体望遠鏡を持った綾川波先輩がいた。みんなは小夜に気がつくと、笑顔で小夜に手を振ってくれた。
小夜は笑顔で、大きく手を振り返すと、みんなのいるところまで、全速力で、まるで小さな子供みたいに息を切らせて駆けて行った。
流れ星 終わり
流れ星 雨世界 @amesekai
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