第30話[切り札のギルドマスター]

 待ち望んだ攻城戦アップデート詳細の発表日。MYO(みょー)の世界に来て以来、初めての対人コンテンツアップデートだ。

 現在インターフェースを開いてアップデート詳細を見ながら、最初の街ルーレンサから、ギルドの拠点があるトイノニアまで歩いている最中だ。

 というのも、倉庫から倉庫への荷物輸送をギルドメンバーのむちょに依頼されて運んでいるところである。


 俺はこの世界で冒険を始めて以来、アイテムが沢山持てるスキルツリーを偏って取得し、ステータスも体力に振る事でさらに持ち運べる量と重さを稼いでいる。

 通常30枠持てるアイテムを、今では120枠まで持てるようになった。つまり、歩く倉庫のようなものだ。


「アップデートを見ながら歩くのって、現実だと危険行為ですよねー」

 そう言われて、現実で携帯端末を見ながら歩いてぶつかった事を思い出す。

「確かに……でもさすがに、これだけ広い平原だから大丈夫かなと思って」

 

 危険を犯してでもアップデート詳細が気になるわけで。

「今俺が持ってる物資も、攻城戦用のものなんですよね?」

「そうそう[お寿司]連合の大事な攻城戦用物資です。だから確実に運んでくださいよーササガワさん」

「らじゃー」


 ここまで言われてもアップデートをチラ見する俺。なにせルーレンサからトイノニアまでは歩いて1時間ほどかかるのだ。馬とか乗れるシステム実装してくれないかなあ。

 ってそう言ってるむちょもアップデート詳細を凝視してるじゃないか! 人の事言えないだろう!


 アップデートされる攻城戦のシステムを簡潔にまとめるとこうだ。


・攻城戦は新規の地帯に実装される。

・参加できるギルドは4ギルド、参加の権利はシステムオークションへの入札額の上から4ギルドが選ばれる。

・最初は城主がいない状態でスタート。先に城内最奥のオブジェクトに『刻印』したギルドが取得。

・制限時間内に再度別のギルドが刻印することも可能。最後に刻印していたギルドが勝利となる。

・城の権利を取ったギルドはめっちゃお得! 独占アイテムとかある! すごい!


「どう思います? ササガワさん」

「ぶん投げてきますね。どう思うかって……」

 俺の先を後ろ向きに歩くむちょ。この人の挙動はいつも不思議だが、インターフェースを見ながらよく後ろ向きに歩けるな。目が後ろにもついてるのだろうか。


「やっぱりこの『刻印』というシステムが気になりますかね?」

「うーん、勝利後の報酬が気になりますよね!」


 あ、聞いてない! この人聞いてない!


「あ、甲冑の下でコイツ聞いてない! って顔しましたねー? ササガワさんわかりやすいんですよねー」

「おい、むちょ、聞け!」

 スウもそままちもそうだが、俺の周りには身勝手な進行の奴が多すぎる。まともなヒロイン募集、ささやきチャットでお願いします。


「攻城戦のシステム自体は予想範囲内ですよねー。『刻印』というのは大抵、その場に何分か連続してアクセスし続けるってものですねー。その場を制圧できていないと刻印中にやられちゃうワケです」

 これはレトロなMMORPGにはよくあるケースだな。4ギルドが参加するとなると、3ギルドと対抗しながら刻印するということだ。圧倒的な力の差が無い限りはさくっと行くことは難しい。


「参加しそうな他のギルドって、何か情報は無いんですか?」

「そうですねー装備のランキング上位層が多いギルドと、純粋に人数が多いギルドが入ってくるでしょうね[御伽集落]はほぼ確定として……」

 ふむふむ。


「[お寿司]はギリギリ4番目に入れるかどうかじゃないですかねー?」

「ん? はい?」


「つまり参加できるかどうかが勝負ってこと!」

 フラリムの街を横目に歩きながら、俺は現実的な事に気づいた。

 [お寿司]ギルド連合はなんとなく強い『ガチ勢』プレイヤーが多いと安心していたが、全体の数からすればそもそもの人数が多いわけでは無い。かき集めても50人はいかない程度だ。

 どんなに個々が強くても、参加権利の入札の金額が4番以内に入れなければそこで終わりだ。皆が少しづつ資金を出す場合、人数がなによりも強力だろう。


 恐る恐る口をひらく俺。

「……入札用のギルド資金って、どうなってるんです?」


 むちょは振り返って、俺に向かって指を刺す

「それを今運んでるんじゃないですかー!」


 これ、って『売る用』かよ!


 無事にトイノニアに物資を運び終わった後、[お寿司]の拠点で攻城戦に関する集会が開かれていた。

 むちょと、現状ギルドマスターの権限を持っているナイトのプレイヤーが和風の、居酒屋を思わせる拠点で指揮をとっている。


・タータリアス[お寿司]

・むちょ[お寿司]


 半獣のアバターをした両手剣を背負うナイト、タータリアス。初めて見たが、この人がギルドマスターか。これだけ見なかったと言う事は、いつもは狩場にでも篭っているのだろうか。


「――というわけで、ギルド資金は入札予想額に達しているので、個人からの出資は無しでいけると思います!


不安だ。


「ちなみに出資元は初期[お寿司]のメンバーが大半を確保してくれましたー」

 爽やかだが、怖い事を言うな、むちょよ。それはメンバーの誰かが身を粉にして稼いできたと言う事だ……。


「ねえねえササガワ、あのタータリアスって人ずっと静かだけど、攻城戦の指揮なんてできるのかしら?」

「わからん、創設メンバーのようだが……」

 横から聞こえないようにパーティーチャットで話しかけてくるスウ。対面にいるそままちはもはや話を聞いているのかすら怪しい。もうダメかも……。


「アップデート告知で、攻城戦時にはギルドマスターに特殊スキルがいくつか与えられる事が発表されました! これは切り札になり得るので、攻城戦期間中だけギルドマスターを交代したいと思います!」


 確かに、指揮と現場で突破する為のスキル持ちは別のほうがいい事が多い。

 たまに両方こなす化け物もいるが、それは普通難しい。言うなれば社長と秘書のような役割の分担が必要だ。

 プレイヤースキルにおいて群を抜いているむちょが切り札のスキルを持つ事は誰もが賛同するだろう。



「当日はします!」

 

 ……は???????


「はああ!?」

 その時、驚きとその場の全員が俺に視線を向ける緊張感と共に、隣でありえない音量で叫んだスウの声も相まって……俺は、おじさんはひっくり返った。

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日々狩り日誌〜MMORPG古参おじさんが仕様把握しまくってVRMMO世界を攻略するよ〜 千夜逢 @choau

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