第29話[体力極振りの欠点]

 【レベル70に到達しました】


「やっと……か……」

 地味な日々狩りを続けて70のカンストまで持ってきた。


 敵の攻撃力は上がっているが、HPも上がっているので一体を倒す速度は今までとそう変わらない。

 俺の装備は、ダメージの約6割を跳ね返すことができる。数秒後にはオートヒーリングで1割強回復するので、ほどほどに敵のモーションを避けながら戦えば死ぬことは無いが、武器の攻撃力がほぼ無い分効率は悪い。


 敵を倒す速度の遅さ、これは体力極振りの欠点だ。


 しかし、ここまで特化して無理してやってきた。基本ステータスをリセットするアイテムが無い以上、同じ仕様を持った他のキャラクターは一人もいないはずだ。それだけが自慢だ。


「やっとササガワも70ね、さすがにもう少し強い武器を持てるように力とか敏捷に振った方がいいんじゃない?」

「今更振っても対して変わらないってわかってるだろ?」

 スウとそままちは数日先に70に達していた。ソロで狩りをしている時間の効率差がじわじわ出ていたという事だが、それでも俺のカンストまで共にパーティー狩りをしてくれていた。


 レベルが上がると癖でインターフェースを開いて体力のステータスに振る。


・ササガワ LV70 ナイト

 HP15484

・近接攻撃力317 物理防御力534 魔法抵抗力472(他省略)


・[EX][ダガー][+3][クリティカルダメージ発生確率5%増加]

・[EX][アイアンバックラー][+0][ダメージ反射8%]

・[EX][鉄の兜][+1][ダメージ反射8%]

・[EX][鉄の鎧][+0][ダメージ反射8%]

・[EX][鉄のガーダー][+0][ダメージ反射8%]

・[EX][鉄のグラブ][+2][ダメージ反射8%]

・[EX][鉄のブーツ][+1][ダメージ反射8%]

・[稲妻のネックレス][稲妻属性ダメージ上昇3][オートヒーリング3%]

・[EX][水のリング][ダメージ反射8%][水属性ダメージ上昇2][オートヒーリング3%]

・[EX][風のリング][ダメージ反射8%][風属性ダメージ上昇3][オートヒーリング3%]

・[天空のマント][オートヒーリング4%][ダメージ無効確率1%]


 長ったらしい名前の装備たちだな全く。さっと読み飛ばしてくれよ……って誰に語りかけてるんだ俺は。


 初期の[鉄の装備シリーズ]によって防御力は低いままだ。

 通常のナイトだと、防御力1万程度は最低限でもある。攻撃力も武器次第ではあるが、1200〜1500くらいはあるだろう。俺はその半分も持ち合わせていない。


 ステータスを『力、敏捷、知能、精神、体力』に振り分けられるこのゲームだが、『体力』のステータスはいくら振っても装備品の、『装備できる条件』には該当しないのでいつまでも上位のものは装備できない。


 それを重々承知でここまでやってこれたのはパーティのおかげだ。ここまで来たらあとは意地だ。


 70まであがるのに遅れた理由に、足の速さがある。地味な部分だが、『敏捷』の数字が低いのと、初期装備の鉄の足が歩く速度に悪影響を及ぼしているのだ。フィールド移動の遅さがモンスターの湧き場所同士の移動の効率を落としていた。


 反対に激軽量装備かつ敏捷に振っているスウは、本当に足が早い。もはや人間じゃあない。

 マップ探索の時も、ダンジョン攻略の時も大抵気づいたらいない程だ。


「なにぼけーっとしてるのよ!」

 突然細い足に履かれた美しい紺色のブーツ、もといスウの足が俺の甲冑を蹴飛ばしてくる。

 もう蹴られるのも慣れたモンだ。今じゃご褒美に感じるくらいだね。


「なにぼけっとしてるの」

 続いて隣にいたそままちが……

「ってやめろ! 大砲で殴るのはやめろ! せめて蹴りにして」

「スウの真似してみた」

 蹴りと大砲で殴るのは随分違うだろ!


「ネタにしてもせめてもう少し優しくしてくれよ」

「わははー」

 それにしてもそままちは近頃、随分楽しそうだ。パーティーを組んだばかりの頃は、いつでもソロに戻る準備をしていたのに今はパーティーでどこかへ行きたがる事が多い。体と同じくらいの大砲を背負って歩く姿から、『歩く大砲』、『ちびっこ大破壊神』とか異名が付けられている。


「でもこれで攻城戦の参加メンバーに正式に数えてもらえるわね、練習戦もするみたいだし楽しみだわ」

「悪いな、俺だけレベリングが遅くて」

 そう俺が言うと、二人はちょっとだけ笑った。

 自分たちは終わっているレベリングをパーティー狩りで引っ張ってくれた事をなんだかすごく嬉しく思った。

 多分、この感情が俺の好きなMMOPRGなんだ。


 狩場からトイノニアの街に帰ってきて、[お寿司]ギルド連合の溜まり場に顔をだす。

「むちょさん、やっとカンストしました」

「おそい!」

 即怒られる。

「なーんて、お疲れ様ですよササガワさん、狩りが大変な構成をしてるのは知ってますから」

 今日はむちょさん以外にも10人は人がいる。それぞれ座っていたり、談笑している感じだ。あまり交流のない新参の我々はどこに居場所を作るか迷うね。


「ササガワさん、スウさん、そままちさん。明日は攻城戦の会議をしますよ」

「アップデート詳細、ですか」

 先ほどMYO(みょー)のインフォメーションに、明日攻城戦のアップデート詳細が公表される旨が宣言されていた。ついに始まるのだ。

 このPVPがメインとされてないMYOで、大型の対人戦が行われる。これに勝って報酬が何なのかなどと、そういうのはおそらく二の次だ。皆、このゲームの新規コンテンツで勝ちたいという事だけが頭にある。


「もちろん情報は実践とは違ってきます。でもここには

 そう言いながらむちょはこちらを見てくる。そうだ。俺は古参のMMOPRGプレイヤー。MYOは昔のゲームを再構築をベースに作られたゲーム……つまり。


が強さになる」

「勝ちますよ、攻城戦」


 むちょの炎を灯したギラギラとした瞳が、勝利の方向を見ていた。

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