第2話

 翌日、私は午前九時頃に仕事先に向かった。


 昨日に出会った男性をふと、思い出す。本当に楓太とそっくりだったな。もしかしたら、彼の兄弟に当たる人かもしれない。まあ、出会う事は皆無かもしれないが。私は頭を横に振って考えを追い出した。仕事先である会社へと足を進めたのだった。


 会社に着くと、エレベーターに乗る。三階にはオフィスがあった。三階になると、降りて真っ直ぐに向かう。ドアを開けると既に出社している人々でひしめいていた。自身のデスクに行き、ノートパソコンの電源を入れる。

 隣のデスクにいた同僚の女性が声を掛けてきた。


「おはよ、小鈴」


「おはよう、佐奈」


 女性もとい、佐奈は本名を上郷佐奈うえさとさなという。元は高校の同級生で確か、三年生の時に同じクラスになった事もある。その頃から付き合いがある親友だ。


「小鈴、昨日は楓太さんの命日だったよね」


「うん、お墓参りにも行ってきたよ」


「そっか、あたしもあんたと一緒に行けばよかったかな」


 佐奈は苦笑いする。私は気にしないでと言った。


「佐奈、とりあえずは。仕事に集中しようよ」


「分かった、その方がいいね」


 佐奈に呼びかけると、彼女も頷いた。二人して、書類の作成などに精を出すのだった。


 お昼休みになり、ノートパソコンの電源をオフにする。佐奈と一緒に、食堂に向かう。

 食堂まで歩き、たどり着くと。券売機の前に行き、券を買った。私はサバの塩焼き定食、佐奈は親子丼定食を選んだ。

 厨房に続くカウンターに行き、券をおばちゃんに見せる。


「……あたしは親子丼定食をお願いします!」


「はい、親子丼定食ね!」


「私はサバの塩焼き定食をお願いしますね!」


「サバの塩焼き定食ね、分かりました!」


 おばちゃんとやり取りをして、券を渡す。カウンターの前でしばらく待った。


 先に、おばちゃんが親子丼定食のトレイをカウンターに置いた。佐奈が受け取ると、少し経ってからサバの塩焼き定食のトレイも持ってきてくれる。私も受け取り、佐奈を追いかけた。

 適当な椅子を引いて座り、お箸を取る。両手を合わせて食前の挨拶をしてから、定食にありついた。

 ご飯を口に運びながら、サバの塩焼きを突付く。


「……あのね、佐奈。昨日のお墓参りでね、ある人と出くわしたのよ。その、楓太にそっくりな男性だったんだけど」


「え、楓太さんとそっくりって。マジで?」


「うん、近くで見たら。本当によく似ていてさ。びっくりしたよ」


「……ふうん、楓太さんとね。もしかしたら、双子の弟さんかなあ」


「え、佐奈。その人の事、知ってるの?」


 私が訊き返すと、佐奈は声をひそめた。


「あの、あたし。楓太さんの弟さんには昔に会った事があるの。確か、名前を史也さんって言ったかな」


「そうなんだね、史也さんかあ」


「うん、楓太さんと史也さんは一卵性の双子だったはずだよ。あたしが知っているのはそれくらいかな」


 私はふうむと唸った。確か、楓太本人も言っていたような。双子の弟がいるとか、何とか。あ、じゃあ、あの時の男性はその弟さんだ。やっと、合点がいった。成程ね、やっぱり佐奈に訊いて正解だったわ。


「あの、教えてくれてありがとう。まあ、史也さんとは今後は会う事はないと思うけど」


「小鈴、あんたは。そんな、ネガティブ思考でどうするの。楓太さんに怒られるよ」


「分かってるよ、言ってみただけだから」


 私が苦笑いすると、佐奈は微妙な表情になる。しばらくは無言で食事を進めるのだった。

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