あなたのいる場所

入江 涼子

第1話

 私は霊園の墓地にてお参りをしていた。


 ちなみに、ここにはかつての恋人が眠っている。名前を楓太ふうたと言って、私より三歳上だった。楓太は今から、六年前に失くなっている。

 墓前に白菊の花束やお線香、蝋燭などをお供えした。最後に楓太が好きだった和菓子も。私は念珠を両手に持って、黙祷する。しばらくそうしたら、瞼を開けた。


(楓太、あんたがあの世に逝ってから。六年だよ)


 もういない彼に内心で呼びかけてみる。まあ、答えはないんだけど。桶や柄杓、和菓子などを持って墓前を離れた。


 私は持っていた桶と柄杓を霊園の規定の場所に戻す。そうしてから、家に帰ろうとしたら。サクサクと土を踏みしめる足音が聞こえた。そちらに顔を向ける。すると、さあとそよ風が吹いた。

 足音と共に現れたのは、背が高い若い男性だ。けど、すれ違った際に驚きのあまり、目を見開く。白百合の花束を片手に通り過ぎた男性があまりにも亡くなった彼に酷似していたからだ。

 そう、楓太に。私は失礼だと思いながらも、目を離せない。じっと見つめていたら、楓太にうり二つな男性は立ち止まる。私に訝しげな表情を向けてきた。


「……あの?」


「……あ、気分を害していたら、すみません!」


「いえ、えっと。俺の顔に何かついていますか?」


「ほ、本当にごめんなさい。ちょっと、知り合いに似ているなと思って。他意はないんです!」


「はあ、そうですか」


 男性は理由が分かったからか、キョトンとした表情になる。やはり、楓太に見れば見る程、よく似ていた。


「じゃあ、その。失礼します」


「……はい」


 私は男性に深々とお辞儀をする。そのまま、霊園を後にしたのだった。


 寒い中を歩きながら、私は自宅に向かっている。やはり、さっきの男性には怪しまれているだろうな。けど、あまりにも楓太にそっくりだったから。一挙手一投足に目を奪われてしまう。私、全く彼を忘れられていない。もう、四十路も近いのに。楓太、私はどうしたらいいの。寂しさや悲しさを持て余しながらも帰路についた。


 自宅に帰ると、母が出迎えてくれた。


「あ、お帰り。今日は楓太君の命日だったわね」


「うん、お墓参りしてきたよ」


「そう、けど。小鈴、あんた。顔色が悪いわよ」


「え、分かる?」


「分かるわよ、何かあったの?」


 私はため息をつきながら、母を見た。そして、霊園での出来事を説明したのだった。


「……ふうん、楓太君にそっくりな人とねえ。もしかしたら、彼の親戚筋の人だったりするかもね」


「私も思うよ、親戚筋か兄弟か。どっちかだろうね」


「うん、私も思ったわ。まあ、会う事は今後ないだろうけど」


 私は頷いた。確かに、再び会う事はないだろう。母が置いてくれた緑茶に手を伸ばす。一口啜ったのだった。

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