猫の天使様っ!

にゃべ♪

超幸運な私

 私は運がいい。どれほど運がいいかと言うと、先日トラックに撥ねられたんだけど、全くの無傷だったと言えばいいだろうか。本当に無傷だったのだ。ピンピンしている。トラックにぶつかったと言う事すら嘘だったのかと思うくらいに。

 勿論ぶつかった時には衝撃も感じたし、意識もブラックアウトした。そのはずなのに次に目が覚めた時には何事もなかったみたいに無傷で茂みの中で横たわっていたのだ。


 その時に私は見た。羽の生えた猫を。あれはきっと天使。私を守ってくれた守護天使様。猫の天使様は白黒のハチワレ猫で、ただじいっと私を見つめていた。そして目が合うとすうっと消えていったのだ。

 私を守れて安心したのかな。本当のところは分からないけれど――。


 それからは、私は何をするにも不安と言うものはなくなった。だって私には猫の天使様がついているんだもの。死ぬような事になってもきっと守ってくれる。そう信じられる。


 ある日、私が道を歩いていると頭上から巨大看板が落ちてきた。気が付くのが遅くてもうどこにも逃げられない。こんな状況なのに私はちっとも焦らなかった。だって私には猫の天使様が守ってくれている。あれから目にしてはいないけど、今でもずっと見守ってくれているはず。

 そう、だからこの運命を素直に受け入れた。それが最善だと思えたから。


 やがて看板が私を押し潰した時、強い痛みと供にまた意識が闇に飲まれていった。そして――。


 気が付くと、また私は無傷で道に転がっていた。落ちた看板の残骸はどこにもない。それだけ時間が経ってしまったのだろうか。

 寝転がっていたので、私の視線の先には青空があった。そして、また猫の天使、いや天使の猫が視界に映る。今度も守ってくれたんだね。有難う。


 ただ、一度目と違うところは猫天使様が1人ではなかったところ。電線に3人仲良く並んでいる。何故数が増えたのだろう。私がより多く視認出来るようになっただけなのだろうか。理由は分からない。

 怪我もないので起き上がると、3人の天使様はまたどこかに飛び去っていった。数が増えたって事は守護力が更に高まったって事なのかな? そうだったらなら嬉しいな。


 後でニュースを確認して分かったのだけど、看板が落ちただけでも大事件で、それに人が巻き込まれたら大惨事だって言うのに、私の事故は全く報道されていなかった。私の知り合いも誰も知らなかった。そんな事ってある?

 もしかしたら、あの天使達が人々の記憶を変えてしまったのかも知れない。死ぬような大怪我を負って無傷だなんて、そっちの方が大騒ぎになるもんね。


 ちなみに、猫の天使についても聞いてみたけど、誰も本気で取り合ってはくれなかった。だからあれは私にしか見えていないって確信を持てたよ。天使って普通の人には見えない存在だものね。


 出来れば毎日見ていたいのに、出来れば語りかけても欲しいのに、猫の天使様は私が死ぬような場面を克服した時にしか姿を見せてくれない。そっくりな猫はたまに路上で見かけるのに。呼びかけても近付いてはくれないけれど。

 うーん、やっぱりおやつで釣るしかないのかなあ……。


 普通なら、死を覚悟する出来事なんて滅多に遭遇はしないものだ。それなのに短期間で何度も見舞われてしまうだなんて、私は死と縁があるのだろうか。どれだけ不運が襲ってきたって私には守護天使様がいる。どんと来い不運。どんな悪運も跳ね除けちゃうんだから。

 おみくじで凶が出たって、スニーカーの紐が切れたって、目の前を黒猫が横切ったって、そんなの私には関係ない。私の最強天使様が全てから守ってくれる。死神だって逃げ出しちゃうんだから。


 そんな感じで私は何も恐れなかった。どんな危険な橋も笑顔で渡った。そんな私に三度目の大事故が襲ってくる。今度の災難は土砂崩れ。道を歩いていたら突然山側の壁面が崩れてきたのだ。逃げ場なんてどこにもない。流石に今度はどうしようもないと覚悟をしたよ。

 体が押し潰されて意識がブラックアウトする。こんな状況でも奇跡は起きるって言うの?



 そう、奇跡は起きたんだ。またしても私は無傷だった。体に泥ひとつついていない。それに、崩れたはずの壁面は何事もなくそこにあった。幻覚を見ていたとでも言うのだろうか。

 あの意識が途絶える前の潰される嫌な感覚は鮮明に覚えているのに。


 朧気だった意識がハッキリとした実像を結び始めたところで、私は周囲を見渡す。この瞬間にしか見られない天使様を探すためだ。きっと今回も近くで私を見ているはず。見守ってくれているはず。

 人々の記憶を変えてまでも、私を守ってくれる猫天使様――。


 見上げると、そこには無数の猫天使がいた。前回より数が増えていて、もう目視ですぐに数が確認出来ないくらいだ。私は思わず電線に並ぶ天使達にお礼を言った。


「猫天使様、また助けてくれて有難う!」

「天使? あれは鳥だよ」


 突然声をかけられた私は困惑する。声の主はヒョロっとしたメガネでノッポの青年。私は独り言を聞かれた恥ずかしさより好奇心の方が勝ってしまい、思わず聞き返してしまう。


「え?」

「あれは猫鳥って言う、ここらではありふれた鳥だよ」

「そんな鳥いる訳ないじゃん」

「ずっと昔からいるけど? 君は旅行者?」


 質問に答えられないでいると、青年は何も言わずに去っていった。確かに今度の天使様は私が気付いたのに飛び去りはしなかった。陰影がハッキリしていて、現実的にも実在しているように見える。

 それを証明するように、誰にも見えていて、誰もがその存在を知っているようだ。


 背中に羽の生えた猫なんて昔からいる訳がない。少なくとも私は知らない。なのに、この世界ではそうなっている。当たり前に猫のような鳥が実在しているんだ。


 もしかして、私は――。



(おしまい)

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