チート?ないよ

メガゴールド

ないものは、ない

「おめでとう。君は転生できる権利を得た」


 少し、幼さの見えるかわいらしい女の子。あたしの事なんだけどね。

 そんなあたしは大きな机に肘をついて座っている。

 そして高校生くらいの冴えない、見るからに平凡そうな少年にそう告げた。


「そもそも急すぎなんだけど、おれ死んだの?」


 少年は今の現状を把握してないらしい。


「そうだよ。――え~っと……」


 なにやら机の上にある書類のような紙をごそごそ漁るあたし。


「あったあった。なになに……魔族に襲われて殺された――と、書いてあるね」

「ま、魔族!?」


 少年は飛び跳ねるかのように、驚きの表情を見せた。

 何も覚えてない様子だ。


「え、おれ……殺されたの!?化け物に?」

「化け物っていうか、魔界の人間だって」

「何も……覚えてない」


 フムフム……

 書類によると、ホントに一瞬で殺されたみたいだ。魔族の姿すらみてないと。


 情けない……とは言わないけど、あっさりとエサとして魔力喰われて死んじゃったんだね。


「残念だけど仕方ないよ。運命からは逃れられない」

「転生とか、生き返れたりとかは……?」

「お、ガチャやる?」

「ガチャ?」


 教えよう!

 転生ガチャ!それは人間界にもあるガチャガチャと同じく、ガチャを回し、当たりを引くゲームだ!


「じゃあ当たれば!」

「そう!転生可能さ!――でも、」

「ん?」

「回せる回数には限りあり。それも生前の功績で回せる回数変わったりもするよ」

「こ、功績?」


 功績と言ってもいろいろあるよ。ノーベル賞取るとかの人類貢献とか、事業に成功したとか、多額の資産を寄付とか。もちろんこれは一例だよ。


 それを説明してあげたよ。丁寧に。


「な、なんだよ……成功者だけ得するシステムかよ!ズリい!」

「そこは仕方ないよ。生前の功績は評価しなきゃ。まあ一つにつき、一回回せるだけだけど」

「え、……ノーベル賞で一回回せるだけ?」

「うん」

「それはそれで、世知辛え……」


 どっちだよ。文句つけてたくせに。


「もちろん悪行してたら減るよ。人でも殺してたら無条件でゼロ。まあ情状酌量の余地あれば別だけど。君悪いことしてないよね?」

「してないよ。……多分」


 嘘はついてもわかるしね。

 ただ、彼は小さい悪事までしてないとは限らないから、多分と不安がってるのかも。


「まあちょっとしたことはしてるけど、そこは大目に見てもらえるよ」

「まじ?」

 

 少年はホッとしてる。


「うん。さあ回そうか。三回回していいよ」

「三回?多くねえか?功績なんかないぞ」


 あたまからクエスチョンマーク出てそうなくらい困惑してるね。


「とりあえず誰でも一回は権利あるんだよ。で、悲惨な死を遂げたからかわいそうなのでプラス1、そして若くしてなくなったのでプラス1だよ。おまけに当たり確率増加だよ」

「マジかよ!ラッキー!」


 太陽のようにめちゃくちゃ明るくなった。さあ頑張りな。


 少年はガラガラとレバーを豪快に回す。


「うおおおおおおおお!」


 ガチャポンが勢いよく飛び出していく。飛び出た3つのガチャポンは光輝いていた。


 ――こ、これは!!


「す、すごい!3つとも転生チケットだ!それも異世界転生だよ!」

「マジ!やったー!」


 ガッツポーズしてるよ。良かったね!


「えっと、田舎町の庶民の子供、教会に捨てられてた子供、没落貴族の子供か。まあ当たったしえり好みはご法度だね。さあどれか選ぶんだ」

「能力は?」

「へ?」

「だから能力。チート能力しだいでは、捨て子もありだし」


 ?????????

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 ?????????


 チート?能力?何いってんだこいつ。


 アタシは彼に言ってあげる。


「チート?ないよ」

「え?」

「チート?ないよ」

「いや聞こえてるって」

「じゃあなんで聞き直すの」

「信じられないから」

「そう。でも現実ね」

「そっか」


 ハハハハハハハハ。


「なんでだよ!?」


 信じられないような顔で聞き直す少年。なにがなんでだよ?この少年、情緒大丈夫か?


「こういう時って、すごい力授けてくれるもんじゃねえのかよ!」

「ないよ」

「ないんかい!」

「つーかね、そんな能力とか力とか、自分で作れやって話。なんでこっちが用意せにゃならんのよ」

「で、でもさ……不幸な死を遂げたわけだし、」

「そんなの君に限らないって」


 人間何人いると思ってんの。そんな不幸な人全員に能力あげてたらキリないってば。


「ガチャ回数多くもらえたことでそれはチャラでしょうが」

「で、でも」

「しかも転生を今すぐ出来るとかめちゃくちゃついてるんだよ?ガチャハズレだと次の転生チャンスいつくるかわかんないし」

「ちなみに記憶とかは?」

「リーセーット。普通前世の記憶とかないでしょ」


 至極当然だよね。


「そもそも、駄々こねても無駄だよ?あたしは神様でも何でもないただの案内人だし。権力もくそもありませーん」

「なら偉いやつだせ!」

「あのね、たかが人間風情に偉い人くるわけないじゃん」

「あ!こいつ人ばかにした!」


 おっと失敬、メンゴメンゴ!


「なんなんだよお。結局能力とかはもらえないのかよお」

「自分で手に入れなよ。異世界人になれたら、手に入れること出来るかもしれないよ」


 ん?待てよ……能力か。


「最初から能力持って転生できる唯一の方法あったよ」

「え!?まじ!?」

「うん。とんでもなく危険で、とんでもない生まれで、すぐ死ぬかもしれない世紀末な世界に行くなら多少の能力なら与えてもいいって聞いたことあるよ」

「やめとく!」

「あっそ。じゃ、転生チケットは好きなときに使いな。はい次の人入って~」


  ――完!

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