第2話

……。


 やばい。そう、やばい。僕の彼女は、やばい系女子なのだ。

 見た目は、いたって普通の女子なのだが、僕の彼女は普通ではない。普通ではない特殊能力を兼ね備えた女子なのだ。そう、特殊能力と言っていいのか、特殊能力と言うべきかを持っている。

 しかし、外見はいたって普通だ。いたって普通なのだけれど。と、言ったら怒られるだろうか。ちょっぴり美少女系であり、ちょっぴり可愛い系であり。美人と可愛いの間くらいだ。

 可愛いと言えば可愛い。美人と言えば美人に部類するのではないか。だが、どちらかというと可愛い系よりだと、僕は思う。

 重要なのは、そういう話ではないのだが。

 僕は、とっさに彼女のことをイメージしてしまった。決して、いかがわしいイメージではないのだが。それは至極当然な普段の彼女なイメージである。この雪のせいかもしれないか、少し美化し過ぎか。

 いや、そんなことはない。そんなことは決してない。そんな感情を抱いてはいけない。イメージしてもいけない。心の中で思ってもいけない。

 そう彼女は電波少女。電波。すなわちテレパシーを使うことができるという、一風変わった才能と呼ぶべきか、特殊能力と呼ぶべきか。の、持ち主だ。受信専用らしいのだが。僕が彼女のことをイメージして考えるときには、最大限の注意が必要なのだ。いかがわしい思いなど、もっての外である。

 なんて取り扱いの難しい彼女だ。そんな僕の彼女だが。彼女は見た目も幼ければ、中身も幼いだけであるのか、直感が素晴らしく優れているとでも形容しようか。とにかく凄い技を持っている。

 僕の考えやイメージを読み取ってしまうという、かなりの特殊能力の持ち主だ。彼女自身が言うことには、受信は時々しかできないそうなのだが。そのため才能でも特殊能力でもないと彼女は言っている。本当かどうかは定かではないが。時々でも受信していることが問題なのだ。

 そう彼女は、僕がイメージしたことが伝わってしまうことがあるという、裏技、隠し技を持っているのだ。それをテレパシーや電波受信と僕は呼んでいる。

 正式名称は、思考伝播か。医学用語は、よく分からないが。その呼び方だと、僕のほうが病気みたいな気がしてくる。

 僕の彼女のことだ。今頃「うにゃ?」とか声を上げながら背後を振り返っているに違いない。そんな様子が目に浮かぶ。

 それとも、まだ布団の中でぬくぬくしているか。

 彼女はテレパシーを受信できることは、特技でも才能でもなく、ただの能力だと言っている。先ほど述べた通りだ。能力なので、うまくコントロールできないらしい。

 そのため、彼女は僕が彼女に向けたイメージやら感情を100%受信できるわけではないのだ。ないそうなのだが、僕的には半分くらいは伝わっているのではないかと思っている。

 しかし、とにかく気をつけないと。僕の彼女は、やばいのだ。彼女の特殊能力というか、電波受信というか、得意技というべきか。僕はいつも、僕のあらぬ感情を抑えるのに必死だ。必死である。

 お年頃な僕なのだ。いろいろと考えてしまうことは山のようにある。あれやこれやと、脳内は大忙しなのだ。悟りの境地でも開いて脳内を空っぽにしてしまいたい。

 先ほど、それが少しできていたと思われるのだが。日常に目を向けると、すぐに元に戻ってしまった。

 彼女に僕の脳内を覗かれたくない。覗かれるわけにはいかないのだ。

 例えテレパシーというべきかを彼女が100%受信できなくても、やはりそれなりに抑えておかないといけないと僕は思ってしまう。思ってしまうのだ。


 彼女には嫌われたくない。

 決して嫌われたくない。


 僕は彼女の隣にいたいのだ。彼女の隣にいる人は常に僕でありたい。常に僕が彼女を守りたい。守り続けたい。守ってあげたい。

 今の僕には、今の彼女以外の人が僕と一緒になることなど、考えることすらできない。僕には彼女だけだ。彼女以外、考えられない。考えたくない。

 僕にとって彼女とは、そんな存在だ。大切な大切な存在だ。


 彼女に会いたいという感情があふれ出す。彼女の傍にいたいという感情があふれ出す。どうにも止められない、この感情。

 僕は彼女に惚れすぎているのだろうか。そこまでは認めたくないが。その通りであることは、ほぼ間違いではないであろう。

 彼女も、それくらい僕に惚れていればよいのだが。彼女の本音が分からない。「好き」だとは言ってくれるものの、彼女の「好き」はアイスクリームが好きと同じレベルくらいなんじゃないかと、僕は思うときがある。

 僕の「好き」は「愛してる」と同じくらい、限りなく近いと思う。

 なんとなく彼女の様子が脳裏に浮かんだ。なぜか彼女が無邪気に抱きついてくるイメージが。なぜにこんなイメージが。

 「大好き」と言って無邪気に抱きついてくるイメージ。真正面から僕の胸に向かって飛び込んできた。一見、大人しそうに見える彼女が。彼女のほうから僕の胸に飛び込んでくるなんて。

 先ほど、「好き」について考えていたせいだろうか。それに僕の妄想が加わったのだろうか。分からない。さっぱり分からない。

 無防備な彼女だ。これは僕の妄想なのだろうか。そんな。彼女のほうから抱きついてくるなんて。逆パターン的妄想はしていないつもりだ。

 凄く幸せな気分だ。彼女も僕のことを好きでいてくれている。好きでいてくれるからこそ、彼女のほうから僕に抱きついてきたのではないだろうか。これは僕の妄想か。妄想なのだろうか。

 けれども、嬉しい。嬉しい。本音を言えば嬉しいのだが。彼女のほうから抱きついてくるなんて。なんて幸せな僕なんだ。少し大げさかもしれないが。それくらい嬉しい。

 だが、しかし。彼女のほうから僕に抱きついてくるなんて。僕に彼女のほうから抱きついてくるなんて、そんなイメージ僕はしていない。決してしていないつもりだ。

 逆に僕が彼女を抱きしめたい。抱きしめたいのだ。抑えているだけで、本当は僕のほうから抱きしめたい。愛しい彼女を抱きしめたい。

 なぜこんな感情が現れたのか。突如、彼女から抱きついてくるイメージが沸き上がったのか。謎めいているが考えられるのは、それしかない。

 そう「例のアレ」だ。


 「例のアレ」=テレパシー。


 電波少女な彼女だ。きっと、そうに違いない。間違いない。これは彼女の仕業に違いない。そうだ彼女の仕業で間違いない。

 彼女が送信してきたのであろう。受信専門かと思っていたのだが、送信もできるのか。送信しているのを、僕が自動的に受信しているのだろうか。

 最近、思うようになったのだが、僕も、なんとなく受信ができる。受信ができてしまう。そう思わざるを得ない事例が増えてきた。

 なぜか、できるようになってしまった。僕の直感も優れてきたのだろうか。受信ができるのではないかと、思うようなことが増えてきた。どうやら受信は少しだけならできるらしい。僕にもできてしまうらしい。

 なんたる危険な世界に足を踏み入れてしまったのやら。だが、僕が受信できるイメージは彼女のことばかりなため、彼女がなんらかの送信能力を持っているかもしれないということも考えられる。

 しかし、僕からの送信は、彼女が勝手に読み取ってしまう。というか、伝わってしまうというべきか。いつの間にか、送信してしまっている。送信と呼んでいいのか分からないが、僕の思いや感情を、いつの間にか彼女に向けて送信してしまっている。もしくは読み取られている。

 送信と言うよりは、勝手に読み取られていると言ったほうが正しい。すなわち、思考伝播だ。思考伝播と言ってしまうと、また僕のほうがなんだか病人みたいに思えてくる。

 しかし、お互いにはっきりとは読み取れてはいないと僕は感じている。そのため、メールもするし電話もかける。

 時には長電話をしてしまうこともある。彼女の声が聞きたくて。彼女と話をしていたくて。イメージだけより、実際に話したりメールでやり取りしたほうが確実だ。

 イメージだけでは、それが本物なのかどうか僕には区別がつかない。先ほどみたいに抱きついてくるイメージが見えたからといって、それが本当なのかどうかの区別が僕にはつかない。

 僕の勝手な妄想と区別がつかないのだ。僕はまだ、彼女みたいに電波少年ではないのだと自分では思う。

 不確定なイメージよりも確実な方法を僕は選ぶ。お互いの妄想よりも、意思伝達は確実に行いたい。そのための必要な努力は惜しまない。

 僕はポケットから携帯電話を取り出し、確実な方法でこの美しい景色、光景を携帯電話のカメラに収めた。写真と動画の2種類を撮った。動画は彼女の家で見よう。

 本当は彼女と一緒に、この景色を見れるといいのだが。朝早くから連れまわすわけにもいかず。そしてなにより、今日は休日だ。彼女はまだ寝ているに違いない。間違いないと僕は思う。


 しかし、実際に目で見たほうが綺麗だな。と、思いながら。僕は少しの文書を添え画像を送信した。

 そして、すぐさまポケットに携帯電話を戻し入れた。


 早く彼女の元に行きたいな。先ほどの彼女のイメージが強すぎて感情があふれ出す。まさか僕に抱きついてくるなんて。そんなイメージは反則であろう。僕の妄想ではなく、彼女の妄想に違いないと思うのだが。

 ギリギリのところで抑えようとする。止められない、この気持ち。彼女は分かってくれるだろうか。分かってくれるかなと思いながらも、彼女のことだ分からないだろうな。きっと無邪気過ぎて分からないだろう。僕のこの気持ちが。

 僕は気持ちを切り替えようと、目の前の光景に意識を向ける。この光景を彼女と一緒に眺めたい。いたって純粋に。この綺麗な美しい世界を彼女と一緒に。と、思ったのだが、なぜだか、また別のイメージが、僕の元へと訪れた。

 先ほどの甘えはどこにいったのか、逆にいつもの小悪魔系な彼女が脳裏に浮かぶ。ちょっと不貞腐れている。そんな様子だ。そんなイメージだ。

 まったくツンデレさんだな。困った彼女だ。

 おっといけない、いけない。そんな思いを頭から吹き飛ばし連絡を取ろうと再びポケットから携帯電話を取り出した。そろそろ彼女も起きている頃だろうか。きっと今頃、起きたに違いない。イメージが変わったということは、その可能性が高いだろう。

 取りあえず電話をかけてみる。


 ……圏外。

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