第4話

 はい、送信。


 さぁ、家の庭でかまくら作りだ。これだけ積もっていたら作れるだろう。しかし、果たして僕一人でかまくらを作ることなどできるのだろうか。

 人生初のかまくら作りだ。作り方すら不明である。一抹の不安がよぎる。

 しかし、かまくらと言えば、冬の風物詩だ。きっと多くの人たちがこぞって作っているに違いない。

 雪だるまのほうが簡単なんだけどな。雪だるま。これも冬の風物詩だ。かまくら作りよりも、雪だるま作りのほうが人気があると思うのだが。

 だが、仕方がない。これは彼女のご要望だ。やってやれないことはない。取りあえず、作り方を検索してみる。


「かまくら 作り方」


 よし。作り方を発見する。なになに、固まるまで一晩おくと書いてあるではないか。果たして作れるのか。作れるのかよ、僕。しかも、僕一人で。あり得ないような気がするのは気のせいか。

 仕方がない。ここは潔くやるべきだ。さっそく作ってみよう。家に帰って準備をせねば。Let’sかまくら作り。


 さぁ、気合を入れて、かまくら作りだ。作ってやるぜ、かまくらを。


 の前に、みかんを買っていかないと。どこかで、みかんを買わねばならぬ。そう、こたつといえば、みかんだろう。こたつにみかんは必須アイテムだ。これぞ日本の一般常識。

 こたつにみかん。

 そう思っているのは僕だけなのだろうか。いや、ごく普通の一般常識に違いない。きっと全国共通だろう。全国共通の一般常識だ。間違いない。と、いう思いと、そうであってほしいという思いが入り混じる。

 みかんかぁ。

 みかんといっても、彼女の場合は普通のみかんとは、わけが違う。そう普通ではない。彼女の常識は普通ではない。普通のみかんを想像していたとしたら大間違いになりうる。

 彼女の常識は時に、非常識にもなりうるのだ。そう、みかんといっても、ただのみかんというわけではないのだ。そう普通のみかんではない。

 おそらく普通のみかんであろうものなら、食べないという危惧も想定される。一見あり得なさそうだが、彼女のことだ。十分にありうる話なのだ。世の中のみかん好きの皆様には失礼なことを言っている僕だが、誰にだって好き嫌いがあるのだから、いた仕方がない。

 普通のみかんを買っていって腐らせるのはもったいない。それだったら、彼女御用達のみかんを用意すべきであると僕は思う。


 彼女の場合みかんとは、不知火。


 すなわち、デコポンのことを指す言葉である。デコポンがみかんに相応するのだ。デコポンとみかん。デコポンとみかんなら、雲泥の差があるような気がする。気がしなくもない。

 自称味覚音痴のはずな彼女なのだが、なぜにみかん=デコポンにこだわるのか。そこ、こだわらなくていいのになと、僕は思う。高級品志向な彼女だな。

 僕には普通のみかんも、それはそれで美味いと思う。普通のみかんは、普通に美味しい。普通のみかんこそが、こたつでみかんの座を得ているのではないだろうか。これが普通ではないのだろうか。

 僕には彼女とは違い、一般常識がよく分かっている。自称常識が分かっている人間だ。分かっているつもりでいる。

 常識は、時に非常識になりうる。そう彼女の場合は特に。

 そう、彼女の場合に限り、みかんには、こだわりを持っているのだ。特に、デコポンにこだわっている。こだわりを持っているのだ。

 なぜに、デコポンなのか。確かに、あのみかん。ではなく、デコポンは美味しい。確かに美味しいと僕も思う。確かに思うも。彼女ほどではない。彼女ほどに、僕はこだわりを持ってはいない。

 しかし、なぜそこまでこだわるのか。なぜか彼女は、その点にこだわる。その点は譲れないらしい。

 僕にはその感覚が分からない。僕的には食べ慣れている普通のみかんも美味いと思うのだが。普通のみかんも普通に美味しい。それが普通ではないのだろうか。

 彼女には、なにかとこだわりがある。いいことなのやら、悪いことなのやら。そのこだわりの激しさをなくしてほしいと思うのは僕だけではないはずだ。

 こだわるにもほどがある。ほどがあると思っているのは僕だけか。いや、違うはずだ。なぜそこまでこだわるかな。僕には不明だ。まだまだ彼女の知らない面が多いな。

 しかし、この先も末永くお付き合いをしていきたいと思える彼女だ。彼女の好みや趣味や特技を少しずつでも理解していきたいと思う僕である。彼女思いな僕になりたい。僕は彼女に相応しい人間だろうか。彼女に相応しい人になりたい。

 考え事をしながら歩いていた僕。何気なく横に目をやると、ふと目にとまった物は、無人市場。


 第一無人市場発見。


 さすが田舎。所々に無人市場が点在している。

 無人市場とは、その名の通り無人だ。小さな屋根付きの棚のようなところに、野菜などの商品が並べられている。どれも一袋の価格は百円など、お店とは違い破格な値段で売られている。都会だと窃盗に遇いそうだが、ここは田舎だ。皆、真面目にお金を小さな缶の中に入れ買ってゆく。これが田舎の無人市場というものだ。


 さてさて、お目当てのみかん…ではなく、デコポンがこんなところにあるのだろうか。と、思ったら売っているではないか。普通のみかんに混じり、デコポンが。デコポンがあるではないか。

 さすが田舎の無人市場。無人市場様様だ。こんなところで、デコポンをgetできるなんて。幸運にもほどがある。さすが僕。運がいいな。

 並んでいる、デコポンの袋入りを見る。小ぶりのデコポンだが、通常のみかんよりも美味しいはずだ。大きなデコポンのほうが、更に美味しいのだが、さすがにここには売っていない。大きなデコポンは、それこそ高級品なのだ。

 僕は、ここで一番大きめかと思われる、デコポンの袋入りを選んだ。


 さっそく硬貨を投入し、デコポンをお買い上げ。


 ありがとうございます。誰もいないが謝辞を述べた。

 さて、デコポンも手に入れたことだし、家に帰るとするか。このあと、彼女ご要望のかまくら作りがまっている。庭で、かまくら作りか。果たして僕一人で、作ることができるのだろうか。そんなことを考えながら、僕は家路を急いだ。



<完>

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