第8話

僕は家の鍵を開けて、中に入る。両親は小学校五年生の時に居なくなってしまった為、この家には僕一人しか住んでいない。僕は念のため足音を殺しながら家の中を見て回る。案の定家の中には誰もいなかった。僕は直ぐに風呂場に向かい脱衣所の床に付いている収納を開く。この収納スペースははめ込みタイプのもので握力にものをいわせれば、外すことも可能だった。床下のコンクリートで固められた地面に鍵が掛かった鉄の箱が置いてあった。僕はそれを確認すると元に戻し、風呂場を後にした。ここにこれがあるということは、この世界の僕も間違いなく同じ人生を送っている。

その後二階にある自分の部屋少しだけ見てみることにした。六畳ほどの広さに家具がベットと勉強机があるのみのシンプルな部屋だった。僕は手早く慣れた手つきで部屋の中を物色し、僕の知っている物が僕の知っている場所あるのを確認した。僕の記憶にある部屋と完全に一致していた。しかし一か所だけおかしい場所があった。勉強机にある引き出しの一つが鍵がかけられるようになっていたのだが、本来僕はそこの鍵を掛けていなかったのだがこの世界の部屋では鍵が掛かっていた。しかし何というか呆れることにその後、その鍵がペン立ての底に入っているのを発見した。


「なんなんだ」


僕はついそう呟いてしまった。僕がこんな意味のない鍵の掛け方するのか?防犯上意味がないならおそらく考えられるのは、精神的なものだろう。僕は初めてあった異変に少し浮足立つのを感じながら、鍵を開け中を見た。


中には写真や小物類がいくつか入っていたが、そのどれもが昔の初絵の私物や写真だった。


「え?」


最初に見たときは少し鳥肌がたった。もしかしてこの世界の僕って相当やばい奴なんじゃ、そんな思考が生まれたとき気付いた。その私物や写真がすべて小学生の頃の初絵のものだった。そういえばこの世界の初絵は小学生の頃、行方不明になっている。そうか形見としてここに入れてあるのか。僕はその時、初絵がどこかに消えてしまう状況を想像した。その瞬間心臓が張り裂けそうな感覚と息苦しさを感じた。おそらくこの世界の僕はとてもつらい思いをしたのだろう、初絵は小学生の頃から僕の最大の理解者であり友人だった。僕はもう一度鍵をかけた。そういえば僕たちが自分に合ってしまうのも問題があるが、彼女もまたこの世界の僕たちに合うとバレてしまい騒動になっていただろう、この様子だとこの世界の僕はおそらく成長した彼女のことをすぐに初絵だと気づくだろう。


僕はその後自分の家を後にし、歩いて十分の場所にある駅前の様子を見て回り特に異変は無いのを確認して家に帰った。


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ドッペル大転移 鳥木野 望 @torikino

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