七つめの不思議、誰も知らない七不思議

 どこからかピアノの音が微かに聞こえてくる。

 一体誰がピアノを弾いているのだろうか?

 最後の七不思議の真相を確かめる為、耳を澄ましてピアノの音が聞こえる方へと歩いて行く。

 しばらくして辿り着いた場所は音楽室だった。


「本当に……音楽室の中へ入るの……? 怖く……ないの……? そっか……そうだよね……。七つめの七不思議を確かめる為にここへやって来たんだもんね……」


 音楽室の扉を開けて教室の中へ足を踏み入れる。

 グランドピアノから聞こえてくる演奏はどこか寂しくて、悲しくて、聴いていると涙が溢れてしまいそうだった。

 この位置からでは演奏している人が丁度ピアノの影に隠れて見えない。

 グランドピアノの側面へ周り込む様にしながら近付いていく。

 影のような輪郭が、一歩近付くにつれて少しずつ明確になってゆく。

 あと一歩で、その正体が判明する。

 

 ピアノの演奏者は見当たらず……鍵盤が独りでに動いていた……。


「見つかちゃったね……。実は……先生ね……この学校へ赴任する初日、家から学校へ向かう途中で交通事故に遭ってしまったの……。それで……そのまま向こうの世界へ行っちゃったんだ……。子供の頃からの夢だった学校の先生としての生活、子供たちと一緒に歌を歌って、笑いあって、リコーダーの居残り授業なんかしたりもして、素敵な時間を過ごしたかった……。その想いが強すぎちゃったんだろうね、気が付いたら先生はこの学校の音楽室に居たんだ……。これでみんなと一緒に音楽の授業ができる、念願の夢が叶う! そう思ってた……でもね……そうじゃなかった……。先生の事が誰にも見えてなかったの……。目の前に立っていても誰もが気付いてくれなくて……。あぁ……本当に死んじゃったんだなって……悲しくて……寂しくて……辛かったな……。でもね、何故だか分からないけど、あなたには先生が見えていたの! 不思議だよね! これが最後のチャンスだと思って、思いきってあなたに話し掛けてみたの、そしたら本当に話が通じたから、先生ほんとに嬉しくて嬉しくてあなたと一緒にここまで来たの! えっ…………? 嘘でしょ…………? 本当に…………? そうなんだ…………? 先生…………最初からいなかったんだ…………。 先生の姿が見えてなかったんだ……でも……それじゃあ……どうして……あなたに先生の声だけ聞こえたんだろう……? あぁ……そういう事なんだね……。声だけしか聞こえないけど……先生に調子を合わせてくれていたんだね……。ううん……ごめんね……。優しくしてくれて……ありがとう……。でも、なんだかこれでスッキリしたかな〜! いつまでもここに留まってないで、そろそろ行かなきゃいけないって事だよね! うんうん、そうに違いないよ! 名残惜しいけど……先生は前に進むね! あなたの事、忘れないからね、素敵な思い出をありがとう!」


 それきり、砂月先生の声は聞こえなくなった。

 学校七不思議、七つめの不思議の正体は砂月先生だった。

 最後の七不思議を確認してから学校の雰囲気が明らかに変化していて、この学校に不思議な事が起きる事は今後もうないだろうと感じる。

 先程まで確かにここに存在した、先生の暖かな気配が完全に消えていた。

 いつかまた……先生に会えると良いな……。

 一緒に歌を歌って、笑いあって、リコーダーの居残り練習をして、音楽会ではみんなと一緒に楽しく演奏できるだろうな。

 砂月先生が担任だったら、生涯の宝物になる素敵な学校生活を送れていただろう。

 砂月先生の事を想うと、胸がいっぱいになって、思わず空を見上げた。

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学校七不思議 川詩 夕 @kawashiyu

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