第60話「はっぴーえんど(最終話)」



 ゆらぎが最初に脱いだのは靴下だった、彼女の素足なんて見慣れているのに真玄はそれが妙に艶めかしく思えて。

 鼻息荒く、今にも襲いかからんといった雰囲気の彼の視線に彼女自身も高ぶっていく。

 だってそうだ、彼はムラムラして忘れてしまっているが彼女だって媚薬を飲んでいる。


(からだがほてって……、はやく、はやくきてまくろくん――――)


(ヤバイっっっ、目が離せない!? というかもおおおおおおおおおおおおお!!! クソオンナめ焦らしてんじゃねぇぞおおおおお!!!)


 一瞬でも気を抜くと、ゆらぎの服を引きちぎってしまいそう。

 そんな真玄の気持ちを見抜いたのか、彼女は腰をふりふり今度はミニスカートを少しだけ持ち上げたかと思えば、自身の巨乳を下から持ち上げて柔らかいですよ食べ頃ですよとアピール。

 いつの間にか、彼は己がジリジリ距離を詰め手をのばしている事に気づいた。


「あんしん……んっ、安心、してください真玄くん。真玄くんは私を抱いても今の真玄くんのままです、保証します、私はそう信じてるから……もし真玄くんがセックスして悪に堕ちても殺さず壊れず、ずっと一緒に最後まで隣で愛し続けます、ね、信じてください、私の愛じゃなくてもいいんです――真玄くん自身を、ゲームの真玄くんじゃなくて今の優等生として生きてきた真玄くんを信じてください」


「――――――――――ぁ」


 ダメだ、そんな事を今の状態で言われてしまったら。

 信じてしまう、彼女の言うとおりに信じてしまう。

 それ以上に、彼女の愛情が心に染み渡っていく、手遅れなほど溺れていってしまう。


(違う……僕は目を反らしていただけで、肩までどっぷり溺れてたんだ)


 嗚呼、と真玄は熱い息を漏らした。

 もう何も考えたくない、心行くまで目の前の極上の美少女を犯し尽くしたい。

 否、それはきっとゆらぎだって同じだ、己達はお互いを犯す、理性なんて捨てて獣のように愛し合う。


「ッ、ぁ、――君の所為だからな! 負けだよ負け全部僕の負けだよゆらぎぃ!!! 君を恋人にでも嫁にでも僕を夫にでもラブラブいちゃいちゃでも何でもしてやるよ!!! むしろ僕の女になれ他の男なんて見るなよ絶対に離さないからなッッッ!!!」


「真玄くんっ!!」


「でもな……分かってんだろうね?? 優しくなんて出来ないぞ、おらああああああああああ!!!」


 ブチっと理性の糸を切って、真玄はゆらぎに襲いかかった。

 ご丁寧に脱がせてる余裕なんてない、力付くで服も下着も引きちぎる。

 彼女はとてもとても嬉しそうに。


「きゃーっ! いやぁ~~んっ、真玄くんに犯されちゃうっ、無理矢理オンナにされちゃう!」


「黙れ」


「もがっ!? ――――――ん」


 彼は彼女の唇を己の唇で塞いだ、それと切欠に二人の言語能力は失われ。

 そこにはただ、ベッドの上で乱れに乱れる野生の番の獣が居た。

 最初の一日は食事なんて忘れて気づけば三日なんてとっくに過ぎ、結局、真玄とゆらぎが正気に戻ったのは二週間後。


(ああ……なんて晴れやかな朝、いや晴れてる? っていうか朝かい? 朝ご飯のトーストセットが置かれてるから午前中ってコトは分かるけど)


 腰というか股間がいつになく軽い、前世を含めて今までで一番股間が軽くて気分壮快だ。

 その反面、体中ベトベトだし、体臭や体液が混じり合った独特なすえた臭いが非常に気になる所である。

 しかして、それらが気にならないぐらいに感慨深くて。


(僕ら、恋人になっちゃったんだなぁ……)


 隣ですやすやと眠る愛しい恋人、将来の妻、ゆらぎの寝顔を彼は優しい眼差しで見つめた。

 彼女は正しかった、今ならもう自分自身を信じられる、原作のようにならないと確信できる。

 彼女だって、原作のような盲信するだけのヤンデレではないと断言できる。


(たぶん、……僕に与えられた前世の知識ってつまりは覚悟だったんだ、運命に立ち向かう為の覚悟、そうだったんだ――)


 賢者タイムに陥っている真玄は、前世で読んだ漫画の台詞をそうと気づかず思い出して。


「うう……ん、ふぁ~~あ……、おはよー真玄くん」


「やぁ、おはよゆらぎ。起きたならシャワー浴びて、ご飯食べたらアリカちゃんとマスっちにお礼言って帰ろうか」


「そうですね…………でもその前に」


「うん?? え、何で笑顔で怒ってるの?」


「分かりませんか? 本当に? 本当に分かりませんか?」


「どういうコト??」


 何故にゆらぎは怒っているのだろうか、と真玄は首を傾げた。

 正直に言えば心当たりは少しある、キスマークや歯形を付けすぎた来もする。

 だがそれは彼女とて同じだ、或いはセックスする前に性欲に流され服と下着を破いてしまった事か。


「――正座です、そこに正座してください今すぐに」


「う、うん、正座したけど……」


 彼は言われたとおりに、ベッドの上で裸のまま正座。

 その向かいには同じく裸のまま、顔を赤くして睨みつける彼女が。

 せっかく関係が新たになったのに、彼女の機嫌が悪いのは非常によろしくない。


「いいですか真玄くん、世の中には限度というモノがあるんです」


「それは知ってるけど……」


「いーえっ!!! 知ってません分かってません! どーしたら二週間連続でセックスできるんですか!!! 二日目にはもう媚薬の効果切れてましたよね?? ん?? そうですよねぇ???」


「…………ごめんちゃい」


 言い訳なんて出来ないし全て己が悪いと、真玄は縮こまった。

 ゆらぎは更にまくし立て。


「いくらなんでもやりすぎですよ!!! お腹を押されただけで深イキするようになっちゃったじゃないですか!!! 乳首を一度抓られただけで軽くイクし、というかですねぇ強制口移しで食べさせられた挙げ句にその瞬間も――――」


 次々に吐き出される文句に、真玄はニヤつきながらも心苦しさで一杯だ。

 彼とて思わずやりすぎた自覚はあった、途中から己の身体スペック(主に下半身)の高さに酔いしれ、アルティメットゴールドフィンガーから繰り出されるテクニックを楽しんでいた。

 故に、平謝りするしかない。


「はい、はい、全部僕が悪いです、マジで責任とるからっ、――――あ、はい、帰る途中で役所によって結婚届を貰っていきますし、家に帰るまでお姫様だっこさせて頂きます!! もちろん、僕の君の両親にまずは婚約の報告もします!!!」


「――――――よろしい!! じゃあ後は一つですねっ!」


「え、まだあるの!?」


「もー、そこは察してくださいよ、ほれほれ、んーっ」


「あ、そうね、それ忘れた」


 ゆらぎは両手を広げ、にっこにこで目を閉じる。

 キスを待っているのだ。


「――――大好きだよゆらぎ、愛してる……僕の永遠の恋人になってください」


「はいっ、喜んで――――」


 そして二人は幸せなキスをし、身も心も結ばれたのであった。

 これから何があっても二人ならば乗り越えられる、その予感を胸に。

 唇を軽く触れあわせるだけのキスを、長く、長く、アリカが継奈と朱鷺を引き連れて様子を見に来るまでキスし続けていたのであった。











――凌辱エロゲのクズ主人公に転生したけど、優等生として生きていたらメインヒロインと半同棲になってしまった・完











●見れなかったエピローグ/知らないプロローグ●



(そうか……これが“ボク”の終わりか――――)


 吸い込まれるように胸へ刺さった包丁を、真玄はどこか他人事のように眺めていた。

 目の前には狂ったように謝罪するゆらぎが、ふっと笑いかけると彼女は安心したように包丁を引き抜き。


「愛してます」「愛してます」「愛してます」「――ごめんなさい、私が真玄に愛を伝えきれなかった所為で……」「愛してます」「愛してます」「真玄の罪は私の罪だから……」


 何度も何度も包丁を真玄に突き刺す、絶対に殺すという意志の下。

 何度も、何度も、何度も。

 ――だが不思議と真玄は痛みを感じず、そして心の何処かで嬉しがっている己に気づいた。


(バカな女だよコイツは、ボクに毛の先ほども愛されてないって気づかないでさ)


 だけど、本当に愚かなのは。


(あーあ、ホントバカだ、嗚呼……こんな事になって気づくなんてさ、ボクがこんなにバカだなんて今更すぎる)


 真玄は自嘲した、目の前のゆらぎは包丁を突き刺すのを止めて。

 その切っ先を己の彼女自身の胸に向け、今、それが振り下ろされた。

 彼女は苦しみながらそれを引き抜くと、倒れたままの真玄の隣に己の身を横たえて。


(――ごめん、ごめんゆらぎ……最低だボクって、どうして今更気づいたんだ……誰かを苦しめるのは、壊したいのは愛して欲しかっただけだなんて――――)


 なんという愚かさだろう、誰かに狂おしい程、命をかけて愛して欲しいだけであったのに。

 やり方が分からなくて、憎まれるのを愛と勘違いして悦んでしまって、また繰り返して。

 己はなんてコトをしてしまったのだろう、ゆらぎは確かに己を愛してくれたのに、彼女を汚し、尊厳を破壊し、親友を売らせ、ありとあらゆる汚辱を与え不幸にしかしなかった。


(嗚呼、どうか、どうか神様、ボクは地獄に堕ちてもいい、だからどうか、ゆらぎと一緒に居させて欲しい、ゆらぎを幸せにして欲しい、ボクじゃない誰かでもいい、だれか、だれか、ゆらぎを……ゆらぎに幸せを――――)


 真玄は生まれて初めて真剣に神に祈りを捧げた、せめて彼女だけは、ゆらぎだけはと。

 薄れゆく意識の中で、彼は神と呼ぶしかない何かが頷く幻覚を見た。

 その瞬間。


(――――あれは……ボク? ボクの可能性、もしくは平行世界の)


 彼は様々な己自身を見た。

 ゆらぎに出会わず悪のまま生きて死んだ己が居た。

 ゆらぎの心を壊して捨てた己が居た。

 ゆらぎを殺して、そのまま愉しげに生きている自分が居た。


(居ないのか!? どこかに、ゆらぎを幸せにできるボクは居ないのか!?)


 真玄は探した、探して探して気が遠くなるほど時間の感覚も忘れて探して。

 ――居た。


(悪に染まっていない、愛される事、愛する事を正しく知って、平行世界のボクらを様々なゲームとして知っている“ボク”が居た!! ああ、この“ボク”なら――――)


 何故かその己からは、IQが時折2になり童貞を拗らせた気配がしたが。

 ともあれ、この己ならばと。


(――お願いします、神様……)


 その時、真玄には神様が微笑んだ気がして。

 息耐える直前、心臓が止まりつつあるゆらぎをぎゅっと大事そうに抱きしめる。

 彼女もまた、彼をしっかりと抱きしめ。

 やがて二人の心臓の鼓動は聞こえなくなったが、その顔はどちらも安らいでいたという。



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凌辱エロゲのクズ主人公に転生したけど優等生として生きていたら、メインヒロインと半同棲になってしまっていた 和鳳ハジメ @wappo-

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