第61話:最終回
【解説に変えて】
『キミが観る月』について。
私がこの作品に取り組んだのは、4カ月程度前です。当時、とても素晴らしい方とお付き合いをさせて頂いていました。作中で「キミ」と形容した方です。元々顔見知りです。仕事上のお付き合いがありました。ただ、当初は数多い出入り業者の一人に過ぎませんでした。
作中の「亡き彼女」は「キミ」の前にお付き合いをしていた方で、不慮の事故で息を引き取りました。事情は言えません。学生の頃から付き合い始め、そのまま結婚をしました。トータルで約6年間、幸せでした。それから誰ともお付き合いをする気はありませんでした。それが「亡き彼女」に対する供養だという考え方もありましたが、一方で、また新しい恋人を見つけ、やがて別れる痛みの大きさを想像して、恐怖を抱いていたのかもしれません。
「亡き彼女」が一番大好きな食べ物が、フライドチキンだったのです。何の記念日でもないのに食べます。コンビニでおにぎりを買う感覚で買います。すでに食習慣として欠かせない物でした。フライドチキンを見ると嫌でも「亡き彼女」を想いだしますので、私も寂しい時は食べていました。「亡き彼女」が慰めてくれるのです。
あの時のクリスマスイブも、何となく寂しかったのです。凍えながら店に並ぶ「キミ」が、「亡き彼女」に見えたのです。フライドチキン店の前だったので、居てもおかしくないシュチエーションでした。亡き人が夢に出て来ても、何の疑問も持たない感覚と同じです。「キミ」に声をかけられてから、時折遊び、私の考え方を大きく変えてくれました。お付き合いが始まったのです。
「キミ」は、複雑な事情の末に、現在無職です。いま作家を目指しています。そして私を愛しています。私も「キミ」を愛しています。
父が経営する会社が倒産し、私の生活も一変しました。様々な問題があったので、引っ越し先は親戚にも教えていません。お互い定職についていれば、結婚していたことと思います。断言できます。
毎日、自問自答しました。私に関わる人間は、みんな不幸になるのではないかということです。それであるなら、私の力であらゆる問題を解決し、「キミ」を養う。それぐらいの気概と覚悟がなければ、私は誰ともお付き合いをする資格はないのです。
別れるという選択は、お互いがもっと人間的に大きくなってから、再度出会って惚れ直すためなのです。互いに愛情を出し合い、出し切って、その比率を比較検討し、愛の割合を計る機会なのです。再会時の現状に合った立場と考え方で、より確かな愛を育むのです。愛情の整理、再確認、再評価のための、しなやかな時間だと思います。
私は負けない。
「キミ」が私を愛しているボリュームより、私が「キミ」を愛しているボリュームが100倍、1,000倍あったなら、私が「キミ」を愛している比率は、99,999……9対、0,000……1、と「キミ」の愛は限りなくゼロに近い。この比率で初めて私は、心置きなく「キミ」にお付き合いを申し込むことができます。
初めて愛を語れます。
初めて告白ができます。
そして、初めて、自分らしい人間になれる。
「キミ」が生きている限り、別れは美しい。
それが、望みとなる。
2015年 3月 山本 山
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
木戸龍一は静かに読み終わる。
朝露に濡れながらも綺麗に咲いたアサガオのような表情を浮かべながら、文藝誌を両手でそっと抱きかかえた。 〈了〉
~俺が作家で、真理《まり》の物語~しなやかなファンタジー風味 綾瀬摩耶 @o_yama
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