気付いた探偵



 天空院典文は探偵である。

 巷でまことしやかに囁かれる『幽霊列車』の謎について調査を依頼されている。

 朝九時、探偵は依頼者からの情報を手帳にまとめると、帽子掛けからお気に入りのハンチングを取って外へ出た。


 散歩中の犬が吠える。飼い主は謝りもせず犬をどうにか宥めようとしている。しかし探偵にはどうでもいいことだ。

 目撃情報があった地点を一つずつ見分していく。植生、標識の数、踏切が閉まるまでの長さ、枕木の間隔、どんな些細な情報も見逃すことなく手帳に書き込んでいく。ペンに仕込んだ小型カメラで撮影する。

 五時間で20個所周れた。今日は調子がいい。探偵は休憩のため喫茶店に入った。

 運ばれてきた水を飲み、ホットコーヒーを注文する。愛想のいい店員は店主と言い争いを始める。


 その時だった、この暑い最中に黒いコートが歩いていた。

 目撃情報にあった『車掌』らしき男である。コーヒーを待たず探偵は店を出る。


 路地裏に入った車掌を追って走る。

 窓が開いていた。この昼間から睦言が繰り広げられている。探偵は気配を消して足早に通り過ぎる。

 すぐ背後で何かが割れる音がした。植木鉢が上から降って来たのである。危なかった。今日は運がいい。

 探偵は路地裏を抜ける。


 そこでついに見たのだ。幽霊列車の実物を。


「お待ちしておりました」


 車掌は言った。


「どうぞ、お乗りください」


 夏の昼日中だというのに空は暗い。

 探偵は己の足元を見た。靴が透けて地面が見える。


 その時、探偵は全ての謎を解き明かした。


「いつから?」

「今朝、あなたは寝ている間の心臓発作で亡くなりました。不摂生が祟ったんでしょうね」


 車掌は冷静に答えた。発車のベルを取り出す。


「なるほど」


 探偵は列車に乗り込んだ。



  了

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幽霊列車の夜 月這山中 @mooncreeper

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