本編

 平安時代末期に生きていたみなもとの九郎くろう義経よしつねです。鎌倉幕府を開いたみなもとの頼朝よりともはボクの兄上です。

 一部の貴族が庶民から年貢を根こそぎぶんどってウハウハしていた貴族社会をひっくり返して武家社会の礎を作った庶民の味方が兄上です。


 その兄上が政子さまが頼家くんをご出産する時の安産祈願で作った段葛。鶴岡八幡宮へ向かう参道です。

 そこを歩いていたときのことです。


 桜の季節だったから花見してました。段葛は車道よりも高い遊歩道です。その両側に桜が植わっていて、春は桜のアーチができます。

 空は曇っていて、その空をバックにスマホで桜の花を大きく撮ろうとしていました。


 上手く撮れないと思いながらスマホの画面を見ながら構図を考えていると、電話がかかってきました。シャッターを押す前だったのでムッとしていると、霊感が強い友人でした。


 電話に出ると

「今、どこにいる?」とあいさつもなく言われました。

 画面に名前が出ているから誰からかわかるし、いろいろとお世話になっていたので特に何も考えず、

「鎌倉、段葛通ってるよ」と言いました。

「なんでそんなところにいるんだよ」

 うんざりしたように言われました。


「だって、桜、綺麗だよ。後で写真送るよ」

「いらない」

 あっさりと言われました。本当にいらなそうな言い方です。

「天気悪いけど、満開で良い感じだよ」

 写真はうまく撮れてないけど。電話がかかってきたせいで。

「いらん」

 本当にいらないようです。


「まあ、用事終わったら、すぐに帰れよ」

「なんで?」

 そう言われるだろうなと思ったけど、敢えて聞きました。


「なんか、電話をかけろとせっつかれた」

「誰に?」

「後ろの人」

 ボクについているらしい背後霊のことです。


「いっぱいついてるから。増えてるから」

 悲鳴に近い感じで言ってました。

 自分には霊感がないので、霊感が強いという人たちの言うことが分かりません。それっぽいものは感じているので信じていないわけではなくて、わからないだけです。


「電話でわかるの?」

「わかるから」

 迷惑そうに言ってました。


「どうしてこんなに憑けてんだよ。とりあえず足が向くとこ行って、すぐに帰れ」

 怒られ気味に言われました。

「はーい」

 霊感はないけれど憑依体質とかで、びっくりするくらい憑いているらしいです。自分では何もわかりません。


 動けない霊たちでも、ボクについてくれば移動ができるらしく、「行きたいところへ行け」というとても素敵なお告げをいただいています。

 行きたいなあと思うところが霊たちの目的地らしく、そこへ行ければ霊たちは目的を果たせるので、そこで降りてくれるそうです。


 思い返してみると、そういうことはたくさんあります。

 知らない旅先などで、ふと見つけた小道を行くと、けっこうな確率で遺跡に出ます。看板を見つけ「そっかあ」と。ここに来たかったんだねえ。


 悪いことばかりでもなくて、そういう場所は、たいてい誰もいなくて素敵な場所です。緑が素敵だったりお花が綺麗だったり、優しい空気であふれています。

 どこで憑いたかわからないけれど、こんな素敵な所に来たかったんだねえ。


「暗くなる前に帰れよ」

 強く言われました。

「はーい」

 電話を切り、段葛の桜並木を歩いて、鶴岡八幡宮の平家池に源氏池、桜に誘われるように足が向くところへ向かいました。

 霊になっても花見、したいんだろうなあ。

 綺麗だし。


 霊感が強い友人は、ボクの守護霊とかに、かなりせっつかれて電話してきたらしいです。言われたわけではありませんが、段葛は安全地帯なのでしょう。

 ピンポイントでここなら安全! という場所で電話がかかってきた気がします。タイミングを見計らった感じです。電話は空間がつながってしまうらしいので。


 鎌倉は多いらしいです。

 ボクとか霊感がない人だと、日が暮れると人が少なくなったなあと思いますが、霊感が強い人だと別の賑わいを感じるそうです。


 なんとなく、そういう場所あります。

 暗いのに人の気配がたくさんするところ。その人たちは明かりもないのになんともなさそうです。


 そういう時は、絶対にそちらに意識を向けません。

 気づいたことを知られたらいけないからです。


 気づいたことも記憶から消します。考えない。何もみていないし、感じてもいない。霊感がないのだから。


 『暗くなる前に』というのも、小さな子供に言うのと同じ意味ではなく、危険だから明るいうちに帰れという意味です。


 たまに、攻撃的なのがいるような気がします。霊感がないから危険かどうかもわかりません。そういう時は気を強く持ちます。生きている人間の方が強いのです。弱気は厳禁。


 霊感が強い人と一緒に行くと、青い顔をされて何も言わずにお守りをくれたり、その方の具合が悪くなったりします。

 友人には「絶対に一緒に行かないから」と言われるので、鎌倉での花見はひとりですることが多いです。


 観光をするときは、お気をつけて。

 対抗策がない人は明るいうちにお帰りになることをお勧めします。ボクは対抗することはできません。でも、ある程度の自覚はあるので、危険な所へは行かないようにしています。


 それがどこだかをお伝えしてもしかたがありません。

 人によってその場所は違うからです。例えば、鎌倉方の人だったり平家方・平氏方でも違います。

 源氏大好き、北条氏大好きな方ならどこへ行っても大丈夫なのではないでしょうか。まあ、その当時の人たちがそのままいるとは思えません。固まって鎌倉以外の場所にいることもあります。


 八百年というか人が住んでから何百年と経っているので、鎌倉には鎌倉時代だけの霊がいるとは限りません。ボクと一緒に花見をしていただろう方も、鎌倉時代の方ではなかったようです。霊感が強い人が言っていたことを信じるならば。


 鎌倉は人によります。

 相性がいい人と悪い人。


 好きなら何度でも行けばいいです。行きたくなくても呼ばれます。

 苦手だと思ったら、行かないように。そういうカンは信じてください。


 ボクもホントは苦手なんですけど、行きます。

 九郎だから。



 今日はどんなお天気ですか?

 せっかくだから、晴れているといいですねえ。


 曇っていると、居そうです。

 気づいても、怖がらない方がいいですよ。


 桜を、鎌倉を楽しむ気持ちで行けば大丈夫。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

九郎の鎌倉怪談 玄栖佳純 @casumi_cross

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画