第2話 営業のお仕事

 朝の打ち合わせで、「3時からの来客にコーヒーお願いしますね!!」と上役から言われて、テレビで見たことのある人がやって来るというとワクワクしてきます。関係ない事務員さんたちも今日は生き生きとしてきらびやかです。

 出会った瞬間、「やっぱりテレビとおんなじだわ。」

 この人なら問題ないと思ってもらえることが信頼関係の始まりにつながるそうです。

 名を馳せた俳優やスポーツ選手など有名人が、営業活動に登場すると信頼度が高く、演技やスポーツの話題で盛り上がり、仕事はそっちのけです。また来て欲しいことから、めくら判を押してくれるので、売上に大きく貢献すること間違いなしです。

 営業力に信頼度は欠かせません。

 ところで、著名でない人の場合、初対面の飛び込み営業では、顧客の受付事務員さんも「うさんくさいのが来たとばかり」「Aさんとか言う人が来ましたが、どうしましょう?」と電話口で厄介そうに話すのが聞こえて来ます。

 対応した従業員は、カタログの説明も生半可な返答で、「それだけか、サンプルか何か他には」と要求します。たまたま、不慮の事故が発生していると電話口で「カタログか何か置いてって」といって門前払いで相手にしてくれません。弱味に付け入る商売が横行しているので「大方、一儲け企んでいる」としか見てくれないのです。


 雇用時間と新規な発想

 働き方改革で残業時間の上限が決められました。サービス残業が当たり前のところでは、朗報ですがこれが対象となるのは、昔ながらの古い伝統を重んじる企業です。マニュアルに書かれた手順を固く守り、徹頭徹尾、上司から部下に言われたことしかやらない、上意下達に徹した順応型組織では勤務時間が重要です。

 休み時間には「この前、せっかくホッチキスで止めた書類を"余計なことをした"として怒られた」「一つしか要らないといった書類がもう一つ欲しいと言われた。また、役所に取りにいかなければならない」などの愚痴が次々飛び出します。

 厳格に決められた階層に基づいて仕事内容が下りてくるので、言われた通りにやるしかない組織です。

 一方、創造的な仕事に取り組む組織には勤務時間が当てはまりません。新たな発想は時間があれば生まれるとは限りません。脳裏に焼き付いた問題点を解決する糸口は突然やって来るので、勤務時間には比例するとは限らないのです。

 自己目標と自己管理力が優先する創造的な組織では、

「まず、予測を立てて、その結果、思った通り解決する」

 その予測が当たることが面白くなります。もし、解決しないと、

「他の解決策に挑戦して、出来るか、出来ないか」

 挑むことが賭け事のように楽しいため、新規なことの取り組み解決案が何通りもでき、どれが最も効果的か検討します。

 創造的組織は上意下達とは対照的に権力を集中させることなく、現場を構成する一人ひとりが必要に応じて自由な手順で意志決定を行います。

 順応型組織と創造的組織では、対応構造が全く異なります。


 順応型組織の新たな品質管理

 一般的に、マニュアルに書かれた決まった手順で点検作業するのですが、いままでより高い安全策を得るためには信頼できる手順書に書き換えるまでには、

「だれが担当するか」から始まり、

 部長間の勢力争いが始まります。いやな仕事はできるだけ他に回すための対策として部内会議が始まります。

 つばぜり合いの末、原案ができるには何か月も掛かります。

 順応型組織では、最終的にトップが決断を下さなければなりません。

「大きな儲けにもならない現場の問題点と解決などの些細なことをいちいち判断できない」のがトップの本音です。

 このように、順応型組織では、今までにはなかった高度の安全策は対応が難しいです。対応できたとしても、できるまでにはかなり年月が掛かることになり、その間に、安全策検査で社会を騒がせたところでは、社長の交代に発展する事態が起こります。


 創造的な組織の新たな品質管理

 自己目標に高い点検作業を掲げ、それを自由に自己管理する創造的な組織ではその解決対応が可能です。創造的組織では決まった手順だけでない角度から点検します。

 例えば、「これまでに比べて簡易な点検方法は人手不足の非常時の際に役立つ」

 だけでなく、

「検査時間の短縮化にも役立つ」

 と動機付けします。そこで例えば、

「検査時間を少しずつ変える」

 ことで工程の中で視点を変えて見廻します。

 そうすると、

「どういう補助具があれば短縮につながるか」

 見えてきます。

 こうなると、

「どこの精度管理が重要か、」

「時間をかけてでも正確に、注意深く作業しなければならない工程はどこなのか」

 分かってきます。また、作業の

「どこを簡略に行えばよいのか」

 見えてきます。

 簡略に行えばよい工程は「短時間で行うか、付きっ切りでなく他の作業と並行しながら済ますことが可能」になります。

 その結果、

「点検前にどのような結果になるのか」

 ある程度の予測が事前にできるようになります。もし予測と違うと

「誤った作業をしていなかったか」

 見直すきっかけとなり、精度よく検査出来るようになります。これらの判断力を養うことで高い安全策を創出するきっかけが掴めるようになります。

 そのためには、創造的な取組が欠かせません。


 順応型組織の上行下効

 残念ながら、多くの企業ではこれまで創造的な取組が出来ていませんでした。

 上役に問いかけても、

「適当にやっとけ」

 といった生半可な答えしか返ってこないと、仕事の中身が分からないのを良いことに、自己管理できることを都合よく解釈しはじめます。

 納品している企業にそれとなく袖の下を要求できるものと錯覚します。

 納品会社も心得たもので、

「取引額が多くなると心付けも弾みますよ」

 と伝えることで蜜月の関係が出来上がります。こうなると創造的な改善提案どころではなく、不要なものを次々と購入することになります。


 安全と信頼

 持続可能な社会に向けたSDGsの取り組みの一つとして、排水処理や廃棄物処理があります。ホームページにこれを掲げている会社の意識は高いので、排水処理薬剤の売り込みにある程度聞く耳を持っています。安価に処理できるとなると熱心に聞いてきます。

 しかし、多くの順応型組織では、儲けに直接つながらない問題として、手順など些細なことを一つひとつ説明しなければなりません。

「新たな作業のどこを重点的に点検して行えばよいのか」

 疑問が湧かず、質問もしません。

「他の作業と並行しながら済ますにはどうするのか」説明しても実感が湧かず、問いかけると

「人手が足りない」

 といったトンチンカンな答えしか返ってきません。こうなると顧客の作業者が慣れるまでには時間が掛かります。

 現場担当者が納品会社と蜜月関係にあるところでは、付け届けの有無の方が重要で、上役の居ないところでそれとなくサンプル以外の袖の下を要求します。山吹色のお菓子などあれば良いのですが、品切になるほどの人気商品であるため、意に反して何もないことが分かると、手のひらを返して難癖をつけ始めます。こうなるとトップの予想を超え「あっ!」と驚かせる斬新商品を示すか、撤退するしかありません。


 まとめ

 以上のことから、顧客ニーズに合致するだけでなく、できれば顧客の予想を超えた「あっ!」と言わせる商品説明力のほかに、営業力を磨くには、自身の品格を高めるだけでなく、顧客の力量を見抜く必要があります。さらに、顧客の作業者が取り扱いに慣れて、面白がって喜ぶまでの忍耐力も欠かせません。

 中身から外側の化粧に至るまで、古い伝統から抜け出して、新たな発想でつくり出すことを必要とする時代がやって来ました。

 高齢化、若者の製造業離れに伴ってものづくり中小企業数の減少傾向が進んでいますが、幸いにも新たな発想でつくり出す付加価値の高いものづくり製造業の割合は少しずつ増えているように見えます。このことは、単に順応型組織の企業数が減少しているためなのですが。

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挑戦 榊 薫 @kawagutiMTT

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