挑戦

榊 薫

第1話 おもてなしの先

 いつの世もコンプライアンス遵守など何処吹く風で、不祥事の話題は途絶えることがありません。

 金と権力を欲しいままにあやつる国々では、付け届けは当たり前です。政治に係わる不祥事を告発した人々は、法秩序の名の元に拘束されたあげく、平気で人命が奪われると言う報道はおそらく氷山の一角で、社会体質に大きく影響しているようです。

 ところで、我が国も贈与が盛んで、中小企業ではお得意先の会社が古くからの伝統やしきたりを重んじているところには、注文量が減ることを避けるため、誠意のこもったおもてなしを心掛けなければなりません。顧客へのおもてなしがその程度で済めば良いのですが、経営黒字で税金を納めるより、使った方がマシとばかり、時として、何処かの会長のように忠臣蔵の吉良上野介を彷彿とさせる付け届けの振る舞いがまかり通ることも珍しくもなく、そうなると長いものには巻かれる他ありません。


 大手会社の下請け仕事で成り立っている中小企業では、親会社重役が指導にやってきます。退職後の天下り先に狙いを定め、生産管理から排水処理に至るまで権威を見せつけるための指導が入ります。

 親会社の重役は、自分に付け届けのある企業名がすぐに浮かんできて改善の手解きを企てます。最初は少額の支出で多くの利益を生む提案から、少しずつ価格の高い提案を提供し、次第に高額の設備を導入するように仕向けます。それが採用されると、提案したお礼に取引会社からいつもの付け届けの他に、手厚い指導手数料が入ることから、抜け目なく他の提案を退けます。下請け会社には恩着せがましく振る舞って、さも自分でなければ選別できなかったように自信たっぷりの態度を見せつけます。

 多くの下請け会社の社長にとって、技術は現場の工場長に任せきりで、専ら営業活動のゴルフと飲食接待に明け暮れ、業務の改善など考える暇がないほど忙しいことから、親会社重役の提案は恐れ多く受け入れるばかりです。

 工場長が技術の改善に気づく事はありません。工場長も上行下効、これまで取引していた仕入れ会社から接待、盆暮れの付け届けを享受して過ごしています。新提案の判断では、親会社重役からの飲食接待もあり、さらに、その重役が提案する会社からも相応のおもてなしを受けることで滞りなく重役の改善提案を推進します。


 このような会社に、もし、付け届けせずに、顧客満足度を高めた良い商品を安く提供しようとしても「うちは大丈夫」と言って付け入る隙がありません。人から恨みを買うほど世渡りが上手くなりたくなければ、すごすごと引き下がる他ありません。


 日本の工業技術が衰退し、技術系中小企業の数は減少の一途をたどり、もはや技術立国の名を返上するところまで来ています。このような「おもてなしが高じて発生した文化の弊害」が良い商品の発展を遠ざけてきた結果、身の破滅を招いた一因とも考えられます。国際規格ISOの品質管理では顧客の満足度を高めることが理念として掲げられているものの、このような「おもてなしの弊害」なしでは成り立ちません。

 企業の資質と品位/品格を保ち、癒着構造に立ち向かう気概がないと挫折感を味わうことになります。それに立ち向かうためには、癒着に打ち勝つことのできる、「あっ!」と驚くほどの斬新な商品を提供しなくてはなりません。

 それができないと知らず知らずのうちにおもてなしから派生した付け届けの慣行が頭の中に刷り込まれてしまいます。

 人は無意識のうちに 企業 体質に洗脳されて行くのです。

 この現象は企業活動だけではなく、日常生活においても、同じような状況に陥ると言われています。

 このような現象から逃れるには、

「品位/品格を保ち」コンプライアンス遵守の意識を強く持って「社会貢献を目指した改革」に取り組む必要があります。

 でなければ、「中身の優れた"あっ! "と驚く商品」を提供する機会をみすみす埋没させることになりかねません。

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