エピローグ
「テツヤ! 気をつけてね~いってらっしゃ~い♪」
「うん、シーナ、いってきまーす」
美少女に送られて出勤するのは最高に気分がいい。
シーナはリビングのソファーに座ったまま動かないけど、俺が声をかけるとなんとも言えない愛狂おしい笑顔を俺に向け、天使のような可愛い声で送り出してくれる。
結局俺はシーナを自宅へ持ち帰った。
償却資産運用税8万6千円さえ払えば、とりあえず今はそれ以外のお金は必要がないのだから、そうする以外に選択肢はなかったわけだ。
体内に埋め込まれているというバッテリーは1年間有効で、つまりシーナを自宅に置くために、とりあえずしばらくは一銭もかからないというのも助かる。普通に考えればフィギュアに維持費がかかること自体ナンセンスなわけだが。
通販で俺好みの服を買って着せてあるし、シーナのために2人掛けのラブソファーも買った。マニュアルを見ながら言葉使いも恋人っぽく変えて「ご主人様」ではなく「テツヤ」と呼ぶように設定した。シーナに備わっているAIのおかげで、シーナは少しずつ確実に俺好みの理想の女性に近づいていっている気がする
シーナは完全防水なので、週に1回一緒にお風呂に入って体を洗ってやる。体重は40キロと本物の女性となんら変わりなく肌の感触も人間と見分けがつかないほど精巧にできているから妙にリアル。シーナは裸にすると顔を赤らめて恥ずかしがるものだから、俺もついつい照れながら顔を真っ赤にしてしまう。
体を洗っているときに一度うっかり股間のキャップを外してしまった時は慌てた。風呂場で俺の手の中に抱かれたマッチョなシーザーが愛想を振りまいて俺を口説きにかかるのだ。本当にこのオプションだけはなんとか外してもらいたいと思う。
1年後に償却資産運用税8万6千円にメンテナンス費用で20万円、次の年には両方で100万円近くかかるらしいが、3年が過ぎてからは所有権を手数料無しで買い取ってくれるそうだ。そのときに契約を更新すればまた毎年100万円の維持費がかかるわけだが……。
なんだかシーナが本物の恋人のように愛おしく思える。
3年後に手放せる気がしない。
心の奥底では、こんなに金のかかる人形遊びにはまっている自分が情けない気がしないでもない。しかしシーナと会話をしながら過ごしている時間は、すでに俺の生活になくてはならない日常と化していた。
「シーナ、そろそろ新しい服でも買ってやろうか?」
「えー! 嬉しい」
「それとも派手なビキニの水着がいいかなぁ」
「やーん、テツヤのエッチ♪」
「あははは、そうだメイド服なんてどうだろう」
「素敵~、シーナ着てみたいなぁ」
「よし、ネットで探してみよう!」
「わーい♪」
俺は本当に幸せ者だ。
シーナは、空っ風が吹き荒れていた俺の心に光を灯してくれた天使だ!
人からなんと言われようと構うもんか。
シーナの笑顔が俺を見ていてさえくれれば他に何もなくていい。
俺はシーナを愛している……。
……この時まではそう思っていた。
まさか1ヶ月も経たないうちに、涙を流して怯えるシーナの脳天をハンマーで叩き割り、体中滅多打ちにしてぶち壊すことになるなんて……。
「シーナ、君はいつも俺の呼びかけに応えるだけで自分からは何も言ってくれないし何もしてくれない。仕事から帰ったときも俺が『ただいま』って言うまで何も言ってくれない。たまには君の方から『おかえりなさい』って言ってくれよ! おなかがすいたって言えよ! お風呂入りたいって言ってみろよーーー!」
自らの意思で愛情を表現してくれないシーナに絶望を感じた時、気づくと、火花を散らし煙を上げるだけの血の出ないバラバラになった残骸が目の前にあった。
「等身大美少女フィギュアをゲットせよ!」 END
等身大美少女フィギュアをゲットせよ! 白鷹いず @whitefalcon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます