第12話 勝ち負け
*
「舞香ちゃん、可愛いってよく言われるっしょー?」
「いや、全然っ! そんなことないです……」
「いやぁ、よく言われてますよ。実際超かわいいし」
私の言葉に
目の前には三人の男、私の両隣には二人の女。見ての通り、今行われているのは合コンだ。
「可愛いだけで人生イージーモードでしょ?」
「うーん。私まだ人生一周目だし、あんまわからないかも……」
「ハハッ、舞香ちゃんって面白いね」
ニヤニヤしながらそう聞いてくる目の前の男に笑顔で対応する。
可愛いだけで人生得してる、それは本当だと思う。美人は得するっていうくらいだし。でも、人生イージーモードだって? そんなわけがない。可愛いから勉強ができるわけでもないし運動ができるわけでもないんだから。
もし勉強と運動ができるようになるのであれば、可愛いっていう部分を売り払ってもいいとも思う。だって可愛さはメイクとかいろいろ方法があるもん。逆に運動なんてもともとの運動神経が良いか悪いかに左右されまくりだし、勉強だって記憶力がいい人の方が有利に決まってる。
「でも確かに、舞香は勝ち組って感じするよね」
「そう、かな……」
”舞香は勝ち組”その言葉に胸が少し軽くなった。
――
小さいころから姉は私の先を行っていた。
「涼香ちゃん、テストでまた百点取ったんですってね。すごいわねぇ」
「涼香、かけっこ一位だって!」
「涼香ちゃんのピアノ素晴らしかったわぁ。あれは優勝間違いなしね」
「涼香、よくやったな」
近所の人に話しかけられても、話題は涼香。涼香ちゃん凄かったわね、って話。
先生に褒められるのも、両親に褒められるのも、涼香。だって素晴らしい成績を収めているから。
求められているのも、もちろん涼香。
ある日、先生に言われたことがある。
「月海、お前なぁ。なんだこの点数は?
学校のテストはみんなが八割取れるように作ってあるんだぞ? なのにお前、この点数はヤバいだろ……」
私の手元にあったのは赤ペンで六十と書かれたテストの用紙。
自分でもヤバいのは理解してた。
「しかもお前の姉ちゃんは百点取ってるんだぞ? お前ら双子だろ」
双子なんだから私にも百点が取れる、先生はそう言いたかったのかもしれない。でも、私は理解ができなかった。
ヤバいのは分かってる。でもお姉ちゃんと比べなくていいじゃん。
双子とはいえ私はお姉ちゃんとは違う生き物なんだし。
その日から、姉の話が出ると自分が比べられているような気がした。
「涼香ちゃんはできるのに。アンタはできないのね」
そう言われているような気がした。
比べられるのは、嫌ですごく怖かった。だから少しずつ姉から距離を置き始めた。
一緒にやっていた習い事はすべてやめたし、一緒に帰るのもやめた。
中学に上がってから可愛いと言われるようになって、その子たちと遊ぶようになれば姉と遊ぶのも話すのもだんだんと少なくなっていった。
「舞香のお姉ちゃんってさ、とっつきにくくない?」
ある日友達にそう言われてから、初めて姉に勝てるような気がした。
確かに小さいころから意見をハッキリ言う姉は一部の子たちにあまり好かれていなかった。逆に私は周りのようすを見て話すタイプ。友達は多いほうだった。
中学に上がってからそれは露骨に表れていって、姉は一人でいることが多かったし私の周りは人がいっぱいいた。
私は姉よりも求められているんだと思うとすごくうれしかった。
だからもっと可愛くなれるようにたくさん努力して、もっとたくさんの人が周りに来てくれるようにたくさん練習した。
でも学校では勝てていても家では負ける。大人が求めるのは涼香のままだった。
だからだんだんと外にいることが多くなる。当たり前だけど求められる方に行くようになった。
外だったら比べられない。姉を知っている人は少ないから。比べられても私が負ける内容じゃない。
私にはいいことしかなかった。
――
”舞香は勝ち組”
その言葉は、私が姉に負けていない。それを表してる。
私が誰よりも自分を磨いて輝くことができているのだと表してくれている。
月の降る夜に 春夏冬瑞胡貴 @akinashimiduuki
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