11〜20
第11話 混乱
*
「廉ちゃん! 涼香ちゃん借りるねー」
「どうぞ。後その『廉ちゃん』ってやめてください」
「じゃー!」
昼休み、蒼と乃川が学級委員の仕事でおらず涼香と二人で昼ご飯を食べていたところ、突然そいつはやってきた。最近、涼香のまわりをウロチョロしている女の一人である三年の先輩だ。
涼香と乃川はもちろん、よく一緒にいる俺と蒼までもが新堀あゆみたちの人形にされている。聞いてみれば、なんかモデルっぽいじゃん二人とも、ということで勝手にモデルにされているのだという。
意味が分からない。理不尽な話だ。
「あ、忘れるとこだった。今日の放課後、四人とも来てもらうから!
そんじゃ!」
「……そっすか」
反対するのももう無駄だと悟りそれだけ返すと、その返事を聞き終える前に新堀は涼香と共に姿を消した。下からは床にぶつかったような音がする。下の様子を見てみると、数人の生徒がポカンとして右の方を見ていた。
確か、ここから右側といったら家庭科室がある。涼香は今日も新堀の人形にされるのだろう。
大変そうだ、
ちょうどそのとき、スマホが揺れた。
「は……?」
スマホを開いたとき、驚きでそんな声しか出なかった。
………
……
…
「あれ、言ってなかったっけ?」
乃川が服を着てポーズをとっているのの写真を撮りながら新堀はそう言った。その前の俺の言葉に蒼と涼香は声が全く出ていない。
「三人には次の文化祭で出てもらうから。ファッションショー」
「は……え? は?」
新堀の言葉に、蒼がやっとのことで出した言葉はそれだけだった。涼香に至っては未だに口を開けたまま何もしゃべっていない。
新堀はその様子を見て笑った。
「学校でも有名なイケメン二人! そして誰かわからない美女!
みんな見に来るに決まってるじゃん?」
だからポスターでは廉ちゃんと蒼くんだけ名前出してるよー、と呑気にそう言う新堀に怒りというか呆れというかよくわからないものがわいてくる。
舞香もそれを見た、ってことか……。
「私無理です」
「えぇ~? だって涼香ちゃん可愛いし。いけるよ、全然!」
やっと出た涼香の言葉に新堀は左手の親指を立てて返事をした。
いや、多分そういう問題じゃねぇ。
「はい、おっけ! 次、涼香ちゃんね」
「じゃあ、うちんとこ蒼くんおいでー」
そんなことは関係ないと言わんばかりに涼香と蒼が呼ばれ、俺だけ残されたから一人で椅子に座っていると横に乃川がやってきた。
「ごめんね、色々と」
「いや……。乃川は……?」
「? あぁ、ファッションショー? うん。服作ろうと思ってて。
今はモデル手伝ってるだけ。涼香ちゃん以外に良い子がいないって言ってたから。」
乃川の言葉で俺は舞香のことを思い出した。
ファッションショー、舞香見に来るってことか……? 涼香もモデルで出るのに、舞香は見に来てもいいのか……? また一触即発の状態になったりするんじゃ……?
一番いいのは、舞香がうちの学校に来ないこと。でも、舞香だってわざわざ来ることはない。ただ、俺がモデルをやると知ったら……。
あいつは冷やかすためにやってくるに決まってる。そしたら涼香と会って……。
じゃあ、今からでもあのメッセージを否定するか? まだ何も送っていないから平気なはず。いやでも、何かしらの情報があって俺にあれを聞いてきたはずだ。ポスターでも見たのだろう。
え、じゃあ無理じゃね?
頭の中がどんどん混乱していって、情報が渋滞している。そんな中、上から声が降ってきた。
「――廉。廉? れーん!」
「っ! 涼香……」
「大丈夫? 次、廉の番だけど今日はもう帰る?」
「いや、だいじょ――」
そう言いかけたところでやっと俺は涼香を見た。涼香は新堀に着させられたドレスを着たままだったのだ。
何か、なんか色々危うい気がする。
「お前、上からなんか羽織っとけ」
「え、そんなの持ってないし」
「じゃあ、これ」
どうせ脱ぐから、と俺の制服のジャケットを渡した。すると、涼香はそれに顔を近づけた。
「廉のにおい」
「
「匂いです。漢字変換間違えないで」
「ふはっ。そうかよ」
そんな茶番は置いておいて、涼香がジャケットを肩から掛けたのを見て俺は新堀の方に向かった。
「え、あれダメ?」
「……なんすか」
「いやぁ。あれ可愛いじゃん、って思って」
「……」
「廉ちゃん、結構分かりやすい人?」
「……廉ちゃんってやめてください」
「だって、新堀って呼び捨てにするからー」
「……してません」
「いや、心の中でしてるね。あたしにはわかるんだよ、そういうの」
結局、乃川や涼香のようにポーズをとってる間、ずっと『廉ちゃん』と連呼された。
*
スマホを触っていると上の方にそんな文章が見えた。
まぁ、そうだよねー。
学校の友達が持ってきたポスター。お姉ちゃんと廉くんが通う
西條学園の一年にはイケメンが多いと噂があるくらいだからそれで勝手に入れられただけかもしれない。
「舞香ー! そろそろいこーよ。合コン始まっちゃうって」
「あ、うん! 今行くねっ!」
友達の声が聞こえてきて廉くんからのメールに既読を付けず、スマホをカバンにしまった。
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