俺達が帰る場所 〜三人の勇者と記憶〜

柴郷 了

第1話 プロローグ

 父から何度も聞かされた『勇者達が帰る場所リターン・エデン』を実際に夢で見ることになるとは思わなかった。勇者しか見ることのできない奇妙で不思議な夢。

 そして、その夢を俺ら兄弟が同日に見ていたというのだから、本当に妙な話だ。

 

「そうか、見たのか——」

 

 いつも通り朝食を食べながら『勇者達が帰る場所リターン・エデン』の夢を見たことを父に話した。兄であるベグライアも、弟のフェディアも同じ夢を見たと口を揃えて言う。

 

「なら、ヴィアンルーク城のはずれにあるヴィレイド宮殿に行きなさい。そこで勇者だと認められれば、うちも安泰になる」

 

 俺らが住んでいるのはヴィアンルークという国の端に位置するクレタリア村で、人口は少なく農民ばかりが住む村だ。野菜の販売や狩りでなんとか生活をしている。勇者になれば安泰だと言うなら、三人勇者になったら裕福になれるのではないだろうか。だが——。

 

「俺は勇者じゃなかったが、お前らは本当に勇者だと思う。なれなかった俺が言うのも変な話だがな」

 

 父の欠けた薬指が勇者になれなかった事を物語っている。いつ聞いても、怖い話だ。勇者だと認められなければ、指がなくなるなんて。

 俺は不安を抱えながら、ブレッドを口に押し込みミルクで全てを胃に流し込んだ。

 

 

 

 畑に植えられた青々とした野菜の葉が風に撫でられ、揺れている。

 

「宮殿に行くか」

 

 ベグライア兄さんは傭兵時代の格好で家から出てきた。若くして傭兵になったが国が「齢二十五に満たないものは傭兵になることを禁ずる」とした事で、引退せざるを得なくなった。

 

「ごめん、遅れた」

 

 フェディアはいつもの作業服に城下街で買った革の鞄というミスマッチな格好。俺は、まぁ可もなく不可もなくといった格好だ。

 

「宮殿までは馬で行こう。宮殿近くには馬を停めれる場所もあるという」

 

 兄はそう言うと、それぞれの馬を小屋から連れてくる。

 俺は愛馬であるフェティーヌに乗り、ヴィレイド宮殿に向けて馬を走らせる。

 久しぶりに馬に乗るせいか、緊張によるものなのか吐きそうだ。

 吐くのが先か、宮殿に着くのが先か。

 さて、どちらが先になることやら——。

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