第10話
「・・・・・・そういえば、誰が私のことを教えてくれたんです?」
「あぁ、それは・・・・・・」
父は満面の笑みで言う。
「黒い髪の男の子が教えてくれたんだよ。パレットも一緒にいたんだろう?」
「あ、あの人が!?」
「パレットがいなくなってから探していた時にちょうど彼が会場に戻ってきていてね」
「そうだったんですか・・・・・・」
黒髪のどこか懐かしさを感じた少年。
結果的には入れ違いになってしまったが、両親に私の居所を告げてくれたのに変わりはない。今度会った時にはお礼を言うとしよう。
そんなこんなで一難ありつつ、パレットは会場へと戻って来た。
会場内は数十分前とは打って変わって妙な静けさが漂っていた。他の貴族たちの話し声もザワザワというよりヒソヒソという感じだ。
「・・・・・・これはどうしたんでしょう?」
つられてパレットも小声になって父に聞いた。
「きっと、陛下と皇子皇女様方がそろそろご登場されるんだ」
「あ、なるほど。だからこんなに静かに・・・・・・」
「うん、ちなみに、陛下たちが来られたら挨拶に行くけど私たちが最初だからね」
「・・・・・・へ? 最初?」
「そう、最初」
「ちょ、ちょっと待ってください。わたし挨拶の仕方を習ってないので分からないです」
パレントの時代の副産物としてフリセル王国の作法なら完璧にできるが、レドリーの作法は皆無に等しい。
まさかここで、これまでサボってきたツケが回ってきてしまうのか。
しかし父は余裕の表情で私の頭を撫でる。
「安心して大丈夫。軽く挨拶するだけだから、パレットは行儀よくしていれば全然問題ないよ」
「そうなんですか? よかった・・・・・・」
「けど、いずれはやってもらうよ。最低限の気品は身に付けておかないと」
「う・・・・・・」
それは私が最低限の気品すら持っていない人間だと言っているのだろうか。別に断じて間違ってはいないが、なんだか心が痛い。
まぁたしかに、今世を生き抜くためには貴族社会に食われないようにすることも重要ではある。
と、そこで入り口近くから歓声が上がった。ようやくご登場のようだ。
そちらの方へ視線を向けると、白い装束に身を包んだ五人が歩いているのが目に入った。
先頭に一人、その後ろに二列になって歩いてきている。
見た感じは先頭の男性が最も若い。まだ十代後半辺りだろうか。後ろの四人はどれも二十代らしき大人な雰囲気を醸し出している
そして遠目からでも分かるほど美形。腐ってもゲーム内。
彼らはそれぞれ玉座についた。
パレットは訊く。
「あれ? お父さま、四つ椅子が空いてますよ?
それに陛下がいらっしゃらないですけど・・・・・・」
最も若い青年が真ん中の一番大きな玉座に座り、他の皇子皇女はまばらに左右の玉座に座っていた。
「ん? あぁそうか、パレットは陛下のお姿は初めて見るんだったね」
「・・・・・・?」
「陛下なら真ん中にいるよ」
「え・・・・・・あの真ん中の方が、陛下!?」
大声を出しそうになり、慌てて口を押さえる。
八人も子どもがいるんだからてっきり四十代くらいかと思っていたが、どう見たってあれは十代後半もしくは二十代だ。
「初めて見ると驚いてしまうよね。父さんも若い頃から陛下のことは知っているけど、昔からあのお姿のままなんだよ」
「・・・・・・若返りでもしてるんですか?」
「あまり詳しくは言えないかな。これに関しては公の場で言ってはいけない秘密だからね」
父は静かに笑う。これ以上訊くなと言わんばかりの笑み。
この人の笑顔が初めて怖いと思った。
母は横で苦笑を浮かべていた。
「で、話を戻そうか。陛下の両側にいるのが皇子皇女様方。空いている席の四人は、今日はもう来られないだろうね」
「来られない、とは?」
「色々とお忙しい方たちなんだよ」
「へぇ・・・・・・」
また微妙にはぐらかされた気がするが、気にしない気にしない。
やがて会場内の音楽が止まり、陛下たちへの挨拶が始まろうとしていた。
悪役令嬢として無事追放されたが2度目の転生で溺愛される 03 @482784
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