第9話

 父と母に会ったのはあの庭園でだった。

 両親は私が消えてからすごく心配していたらしく、庭園で小さい貴族令嬢の目撃証言があったとのことですぐに駆け付けてきてくれていた。

 どうせ王城内だから心配されないだろとか考えていた数時間前の私は本当に愚かだった。

 

「もう、次また勝手にどこかに行っちゃだめよ」

「そうだよ。母さんの言う通り。パレットはまだ小さいんだから、危ない目にあうかもしれないだろ?」

「・・・・・・はい。すみませんでした」


 まったくもって返す言葉もない。勝手に消えたことも、両親の意図を汲み取れなかったことも、全部私が悪かった。

 むしろこれだけの事をして、この程度の説教で済んでいることが生やさしいくらいである。改めて私は、外見はまだ子供なのだと自覚しなければならないようだ。


「ほほ、無事家族に会えてよかったのう」


 私がうなだれている中、ここまで着いてきてくれたおじいさんは微笑ましく私たち家族を見る。


「あっ、おじいさん。一緒に探してくれてありがとうごさいました」

「なに、そう感謝されることでもない。ところでだが・・・・・・」


 おじいさんはチラッと父に目配せする。

 すると父は何かに気づいたようにびくっと肩を震わせた。


「あ・・・・・・あなたは、まさか・・・・・・」

「そういえば、そなたとも久しかったのう。息災であったか?」

「は、はい! お久しぶりでごさいます、ジョミヤ陛下」

「はっ!?」


 驚きの声を漏らしたのは私。それは当然のことだと言いたい。信じがたい単語が急に聞こえた気がする。


「えっと・・・・・・父さま今なんて?」

「あれ? パレットは知らなかったのかい? この方は先代陛下、今の陛下のお父君だよ」

「え・・・・・・えええ!!!?」


 どうやら「陛下」という単語は聞き間違いではなかったようだ。よかった、まだ耳は遠くなっていなかった。

 ―――てかそんなことはどうでもよくて! 

 

「お、おじいさんが、先代陛下!?」

「おや、言っとらんかったかの」

「聞いてないです!」


 いや、なんか五年くらい前まで城で動き回ってたとかなんとか言ってたような気もしなくもないが。


「まさかおじいさんが陛下だったなんて」

「ちょい、儂はもう陛下ではないぞい。お主の父がちゃっかり『陛下』とか申すから儂もその気になりそうだったぞ」

「はっ・・・・・・そうでございました。申し訳ありません」


 父は仕事モードで頭を下げる。

 このモードの父は普段中々見れないから貴重だ。それと同時に急におじいさんもすごい偉い人に見えてきた。


「先代陛下、今までの振る舞いを許してくれないでしょうか」


 慌てて私が許しを請うと、しかしおじいさんはそれを止めた。


「待て待て。今まで通りで良い」

「でも・・・・・・」

「何度も言うが儂は既に王は降りた。だから態度など気にするな」

「本当にいいんですか?」

「あぁ。むしろ急に態度を変えられてもその方が困る。今まで通りでこれからも話そうではないか」


 相変わらず優しいおじいさんだ。でも、たしかに私はこっちの方がしっくりくる。


「ふふ、わかりました。では、これからも今まで通りで」

「うむ」


 おじいさんは嬉しそうに返事をした。

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