第8話 初の異世界配信!

「今日はみんなに見せたいものがあるんだ」


 夜の森の中を歩いていく。

 近くには魔法で出した光の球があり、周囲を照らしてくれるので夜の森の中でも明るい。

 カメラとして同伴する姿を消したクレパスの方を見ながら俺はこう言った。


「ここはなんと、みんなのいる世界じゃないんだ。異世界なんだ」


 俺がそう言うとすぐにコメントが書かれる。


『は? 何言ってんだ、お前?』

『いつも雑談やゲームしかしてなかったのに急にどうした』

『この前の魔法配信から急にファンタジーチックなことを言い始めたけどなんかヤバいものでも吸ってんの』


 干渉魔法ヴィルキスであらかじめ出現させておいた映像でコメント欄を確認する。

 今の俺はクレパスを通してパソコンと繋がっているからこういったことも可能だ。

 それにしても、結構ボロクソに言われているな。

 まあ、まだ信じないのも無理はないか。

 今のところ、夜の森を歩いているだけだからな。

 同接は30人くらいか。

 この前やった魔法配信のおかげチャンネル登録者数が増えたからか、配信を始めたばかりだけどそこそこ集まるようになってきた。

 トップ配信者に比べれば全然大したことないがそれでも大きな進歩だ。

 

 森を歩いてしばらくすると湖が現れる。

 この湖は俺が魔力を測定するときに使っていた湖だ。

 一見、なんの変哲もないように見えるが、実はこの場所には秘密がある。

 俺も師匠からさっき聞いたばっかで見たことはないんだが……。


「もうちょっと待っててくれ。そろそろだと思うから」


『よくわかんねーけど早くしろよ』

『その光の球ってどうなってんの? 浮いてるけど』

『待ってるから、また魔法見せて』


「……そうか。待っている間に魔法を披露するのもいいな」


 いつになるかわからないし。

 魔法を使って場をもたせるのはアリだな。

 

「じゃあ、リクエスト通りに――」


 俺が魔法を披露しようと思っていたその時だった。

 どこかから歌声が聞こえた。

 子供が歌っているかのような美しいソプラノの声。

 それが四方八方から合唱となって聞こえてくる。

 来たか。

 師匠の言っていた通りだ。

 俺はクレパスと共に湖に近づく。決定的な瞬間を逃さないためにだ。

 湖に森の方から光が集まっていく。

 赤、青、黄色、緑、白、様々な明るい光が宙をさまよう。

 光は時々、重なり交わったりしていく。

 その光景は幻想的で、まるで闇夜に輝くホタルを思わせるかのような特別な空間に変わっていた。


「みんなにこれを見てほしかったんだ。どうだ、綺麗だろう」


『すごい綺麗だ』

『こんなの見たことねぇよ』

『ホタルじゃないよな、これ。どうやって動かしているんだ?』


「実はこれ、妖精なんだ。この世界の妖精は恋人を見つけるため、こうやって魔力で身体から光を出しながら社交ダンスをするんだ」


 なんで俺がこんなことを知っているかというと、師匠に教えてもらったからだ。

 師匠は俺が地球では味わえない異世界の特別な様子を配信したいと言ったら、夜の湖に妖精たちが集まることを教えてくれた。

 おかげで撮れ高はバッチリだ。

 ただ、

 

『はいはい、妖精が踊っているって設定なのね』

『ファンタジー設定滑ってるぞ』

『それで本当はここどこなの?』


 全然、信じてもらえない。

 まあ、そうだよな。

 いきなり異世界に行って、湖で妖精のダンスをしているところを配信してますなんて言っても信じてもらえるわけないよな。

 冷静に考えたらわかる話だ。いったいこんな荒唐無稽な話を誰が信じるというのか。

 それにここからだと妖精たちの姿は見えず、光しか見えない。時間帯が夜なのもあってなおさらだ。

 ただ、同時接続数はどんどん伸びている。

 たぶん、サムネの映像から興味を惹かれてやってきているんだろう。

 いいことだ。

 というかいつの間にか100人超えている。

 でも、まだ伸びてる。

 すごいな。どんどん人が集まってくる。

 100人以上の人が俺の配信を見ていると思うとちょっと誇らしくなる。

 あとで師匠に妖精の情報を教えてもらったことにお礼を言わなくちゃ。

 

 コメント欄にもだんだんと人が増えてきて、にぎやかになる。

 俺は妖精たちの踊っている姿を背景に雑談でもしようかと考えていると一匹の妖精がこっちへと向かってきた。

 身体から出していた光を消し、フラフラと俺の方に寄ってくる。

 女の子の妖精だった。茶髪でおさげを前に垂らしていて、白いドレスを着ている。

 周囲に浮いている光の球が妖精の顔を照らす。

 なかなかのかわいらしい顔だった。童顔で愛嬌のある顔立ちをしている。

 その妖精が俺の肩の上に止まった。

 おお、俺の肩に妖精が止まるなんて、これはなかなかにレアなんじゃないか?

 コメント欄を見てみるとみんな驚いていた。


『本物の妖精じゃん。え、異世界にいるって本当なの?』

『CGなのか? それとも、合成なのか? よくわからんけどすげーリアルだ。本当に生きているみたい』

『この子、かわいいな。お持ち帰りしたい』


 同時接続数はついに500人を突破していた。

 それでも人は増えてくる。妖精サマサマだな。

 その妖精は俺の肩に座って足を前に出し、俺の顔を見てくる。

 ツンツンと俺の頬を指でつつくので、妖精の方を振り返ると澄ました顔であらぬ方向を見ている。

 まるで自分はやっていませんよと言いたげだ。

 無視して、クレパスに向き直るがまたしても頬を指でつついてくる。

 俺が振り返るとさっきとまったく同じことをする。


「わかっているんだからな。お前がやっているの」


 言葉が通じたのかわからないが妖精は堪えきれず、口を手で抑えながら笑いだしていた。

 こいつ、俺で遊んで楽しんでやがる。

 コメント欄を見てみると

 

『妖精ちゃんカワイイ』

『まさやん、遊ばれてるw』


 妖精は視聴者に思いのほか好評で、コメント欄は湧いていた。

 けっこう盛り上がってるな。

 よし、雑談でもするか。

 俺は最近の失敗談とかつい最近あった面白かったことなんかを語った。

 人が集まってきたからか、面白いコメントがあったりしてつい笑ってしまう。

 俺が笑うと隣の妖精も一緒にあわせて笑ってくれる。

 ノリのいい奴だ。

 


 しばらくそのまま雑談をしていると、飽きたのか妖精は俺の肩から飛んでいった。

 ここいらが配信のやめ時か。

 飛んでいく妖精に向かって、


「ありがとう! 君のおかげで配信盛り上がったよ!」


 とお礼を言うも妖精は振り返ることなく、去っていった。

 湖の方を見てみるとあんなにいた妖精たちはいつの間にかみんないなくなっていた。

 今日はもうみんなお開きか。

 配信者画面を見てみると同時接続数は1000人を超えていた。

 すげぇ、ちょっとした街くらいには人が集まってる。

 でも、もう終わりだ。

 

「今日はもう配信終了するよ」


 コメント欄にええだのもっと見てたかっただのありがたいコメントが書き込まれていく。

 俺の配信にそこまで言ってくれるなんて嬉しいな。

 

「また異世界配信やるんで。チャンネル登録して待っていてください」


 そう言うと、次も楽しみにしているとかまたなといったコメントで溢れていく。

 本当はずっと見ていたかったが、きりがないので名残惜しいがマウスカーソルを念じて動かし配信終了ボタンを押した。

 こうして、俺の第一回異世界配信は成功を収めた。

 まだまだ同時接続数は足りないが、それでも5人しか集められなかった頃とは大違いだ。

 

「やれる! 俺はやれるぞ! この異世界を配信して配信者として成功するんだ!」


 夜の森の中で一人叫び、俺は成功した喜びをかみしめていた。

 ただ、この時の俺は人を集めるということがどういうことかわかっていなかった。

 

「あれっ、この人もしかして……」


 日本で知り合いにそれもすぐ近くに住んでいる人に気付かれたなんてこの時は想像もしていなかった。


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異世界を配信しておじさんと女子高生、無名から超有名配信者に成り上がる 甲斐田悠人 @minamoto_ren

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