第7話 準備
しばらくして、師匠が膨らんだ紙袋を抱えて小屋へと帰ってくる。
「今、帰ったぞい」
「おかえりなさい、師匠」
紙袋を机に置き、師匠は椅子に腰掛けた。
一息つき、ゆっくりとこちらに向き直る。
「それで生態系の調査は終わったかの?」
「それなら問題なく済ませました。この森は平和そのものです。それより師匠、お聞きしたいことがあるのですが……」
「なんじゃ? 遠慮なく申してみるといい」
「師匠がクレパスに使った干渉魔法って無機物にも使えるんですか? 例えば、機械とかにも」
「もちろん、使えるわい。ゴーレムにも干渉魔法は有効じゃ」
俺が思ったとおり、無機物にも干渉魔法は使えるみたいだ。
まずは第一の関門は突破した。
次は、
「もう一つ質問です。俺の世界にあるものとこっちの世界のものを魔力で繋げることはできますか?」
「ふむ。お主の世界にあるものとこちらの世界にあるものを魔力で繋げる方法か」
「はい、どうにかできないでしょうか」
「……もしかしたら、できるかもしれぬ」
「本当ですか!?」
「そのためには繋げたいものをこっちの世界に持ってくる必要があるのう」
実家には配信用に持ってきたノートパソコンがある。
アレをこっちの世界に持ってくればいい。
いよいよ、本当に異世界を配信することができるかもしれないぞ。
「それにしてもなぜ急にそんなことを尋ねるようになったんじゃ」
「実はですね……」
俺は正直に全部話した。
Metubeで配信者をやっていること、でも伸び悩んでいること、異世界アレリアに偶然やってこれたこと、それでこの世界の魔法を使った配信をしたらウケがよかったこと、クレパスを使って今度は異世界を配信するというアイデアを思いついたこと。
師匠は黙って俺の言う事を全部聞いてくれた。
話し終えると師匠はゆっくりと口を開いた。
「この世界の様子を映して、楽しいのか? いや、儂にとっては生まれた時からあった自然なものじゃからな」
「師匠は外国へ行ったことはありますか?」
「あるが、それがどうかしたかの」
「それと一緒ですよ。異国の地で異国の文化に触れる。自分の知らないものに触れるって興味深くてワクワクしませんか」
「たしかに興味は惹かれる」
「俺のいた世界とこの世界は全然違う。魔法なんてものはなかったし、森に生息する動物だって俺のいた世界にはいなかった。目新しいものばかりなんですよ。この世界は」
「なるほどのう。たしかに儂も同じ立場なら興味を持つじゃろうな」
師匠も納得してくれたようだ。
さて、一段落ついたところで、俺は一度向こうの世界に戻ってノートパソコンを取ってくるか。
実家の俺の部屋からノートパソコンを取ってきて、再びこの世界へと戻ってきた。
俺が来るまで椅子に座っていた師匠が立ち上がる。
「それではお主の持ってきたその機械とクレパスの同調を始める」
「準備します」
ノートパソコンの電源を入れて、立ち上がるのを待つ。
起動し、デスクトップ画面が表示されるのを確認した。
「準備できました」
「では、始めるぞい。干渉魔法、エウリス」
師匠がそう唱えると、パソコンからクレパスの見ている映像が表示されて……ということはなく、なんの代わり映えもしなかった。
本当に繋がっているのか、これ。
「今度はお主とクレパスの同調じゃ。いくぞ、干渉魔法エウリス」
再び同じ魔法を師匠が唱えると俺の中で一本の道のようなものができてクレパスと繋がっている感覚がする。
いや、クレパスだけじゃない。パソコンとも繋がっている気がする。
俺は試しにマウスカーソルを動かすよう念じてみた。
すると、マウスカーソルは俺が思っていた方に動いた。
成功だ。これで俺はクレパスを通してパソコンを操ることができる。
いつでも配信終了したい時に配信終了ボタンを押せる。
「あとの問題は実際にこの世界と向こうの世界を魔力で繋げられるかどうかですね」
「そうじゃな。残る問題はそれだけよ」
「自分から提案しておいてなんですが本当にこれできるんでしょうか?」
「わからぬ。儂もやってみたことはないからのう。だか、理論上では可能なはずじゃ。お主の祖父ノブヨシはかつて儂にこう言っておった。この世界と向こうの世界は存外に近いのではないかと。でなければ転移魔法は使えないと。儂も同意見じゃ。転移できるということは、この世界と向こうの世界に魔法が届いているということじゃからの。決して不可能ではないはず」
今は俺とクレパスとパソコンとで同調しているが、向こうの世界にいったらこの魔力の繋がりは切れてしまうかもしれない。
まだ配信できるかどうかはわからない。
確かめてみないと。
俺はノートパソコンを持って、また現実世界へと戻ってきた。
クレパスとの繋がりはまだ感じる。
成功したか? いや、まだ配信できるかどうかわからないな。
自分の部屋に戻り、Wifiを繋げてオンライン状態にしてMetubeを立ち上げる。
Metubeは配信者が誰にも見せれないようテスト配信ができる。
配信画面を開き、画面を確認する。
成功していたら、クレパスの見聞きしたものが流れるはずだ。
頼む!
おそるおそる見てみると、配信画面にはクレパスの見ているものがちゃんと映っていた。
よし、成功だ!
あ、でも、音声はどうなんだ。
俺が懸念しているとタイミングよく師匠が口を開いた。
「うまくいったかのう」
ちゃんと音声も聞こえてる。
映像も音声もバッチリだ。
できる、できるぞ異世界配信。
準備はできた。あとは配信するだけだ。
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