第6話 気付き

 約束通り師匠の手伝いに異世界へとやってきた。

 しかし、手伝いと言ってもなにをすればいいんだろうか。

 

「来たか。では、さっそく儂の手伝いをしてもらおうかのう」


 師匠はそう言うと指をパチンと鳴らした。

 突然、空中から青白い霊魂のようなものが現れる。

 ふわふわと浮いていて、宙をたたずんでいた。

 現れた時に思わず身構えてしまったが、どうやら敵意はないようだ。

 なんだこいつ?


「師匠、こいつはいったい?」

「これは人工精霊クレパスじゃ。儂が作った精霊よ」

「人工精霊? 精霊を作った?」

「そうじゃ。まあ、正確には言うならば精霊もどきじゃな。魔法生物の一種じゃよ」


 生き物を作るなんて、さすが異世界なんでもありだ。

 まあ、生き物というより死んだ人間の魂のように見えるが……。

 

「お主にはクレパスを使って森の生態系を調査してもらう」

「なぜ、そんなことを?」

「森に強力な魔物が現れていないかの確認じゃよ。この森の自然と動物たちを守るためには必要なことなんじゃ」

「なるほど。でも、どうやってこのクレパスを使えばいいんですか?」

「こうするんじゃよ。干渉魔法、エウリス」


 師匠がそう唱えるとクレパスがピクリと動く。

 今のでなにが変わったんだ?


「クレパスよ、回れ」


 師匠がそう命令するとクレパスはその場で回り始めた。

 魔法を使って操っているのか。


「止めよ」


 師匠が言うとピタリと止まる。

 命令すれば言うことを聞いてくれるなんてこれは便利だ。


「魔法を使ってクレパスを操れるのはわかりました。だけど、こいつでどうやって生態調査するんですか?」

「こやつの目と耳を借りるのじゃよ。その為にもう一つ魔法を唱える必要がある。干渉魔法、ヴィルキス」


 師匠が魔法を唱えると師匠の手元に映像が現れる。

 映像をよく見ると高い位置からこの家を俯瞰していた。

 これってもしかして……?


「ふむ。どうやら、気付いたようじゃな。そうじゃ、これはクレパスの見ているものじゃ」

「えっ、目もないのにどうやって見てるんですか?」

「それはのう、魔力で見ているんじゃよ。もっとも目だけじゃないがの、耳もないが魔力で聞こえるようになっておる」

「……クレパスが見て聞いたものがこの手元の映像に流れる?」

「理解がはやいのう。そういうことじゃ。お主にはこの二つの魔法を使ってクレパスを操り、森や動物たちの調査をしてほしんじゃ」

「いきなりこんなものが現れたら動物たちに驚かれて逃げられませんか?」

「大丈夫じゃ。こやつは霊体での。姿を消すことができるんじゃ。物にもすり抜けられるから魔物に攻撃されても傷つくことはない。調査にはうってつけよ」

「それは便利ですね」

「やり方も教えたところだし、儂は出かけるぞい。食料の調達に行かなければならんからのう。あとは任せたぞい」


 師匠はそう言い残して小屋から出て行った。

 とりあえずやってみるか。

 クレパスに向けて手を伸ばす。

 手を開き魔力を貯める。


「干渉魔法、エウリス」


 呪文を唱えるとクレパスとリンクした。

 俺とクレパスの間には魔法的な不可視の繋がりがある。

 なんというか不思議な感覚だ。

 まるで自分の身体の外に自分の身体の一部があるかのような奇妙な体験。

 今は慣れないが使っているうちに慣れるだろう。

 よし、次の魔法だ。


「干渉魔法、ヴィルキス」


 俺の手の上に映像が現れる。

 映像の中身は先ほど師匠がこの魔法を使った時に見た映像と一緒だ。

 つまり魔法は正常に発動したってことだ。


「クレパス、姿を消してこの辺り一帯を調べてくれ」


 俺がそう命じるとクレパスはすぐに小屋からすり抜けて出て行った。

 便利だな、こいつ。

 さて、映像を見てみるか。

 映像を見るとクレパスが森の中を飛び回っているのがわかる。

 見た感じ、なにもないな。

 いや、まてよ。

 なにかクレパスを通して、遠くから力のようなものを感じる。

 この感じ、魔力だ。

 いつの間にか魔力探知までできるようになっている。

 きっと、俺はこの世界に馴染んできているんだ。

 この世界にあるマナを取り込むことによって、身体に魔力を得るうちに徐々に肉体がこの世界に馴染んでいる。

 環境によって、生物は進化をするっていうがこんなにすぐに変わるとはな。

 そういえば師匠は俺に魔法の才能があると言っていたそのせいか?


「おっと、今は調査に集中しないとな」


 目的を忘れるところだった。

 ……遠くの方に感じる力は弱い。たいした力はなさそうだが、見てみるか。

 クレパスに念じて、力の元まで行くよう命じる。

 今の俺とクレパスには魔法的な繋がりがある。

 言葉を交わさずとも念じるだけで命令に従ってくれる。

 そのクレパスは命令通りに力の元までまっすぐ飛んでいく。

 やがて力の元までたどり着いた。


「こいつは……」


 四本角を生やした珍しい鹿だった。

 その鹿は地面に生えてある草をむしゃむしゃと食べていた。

 こいつが魔力を持っていたのか? 師匠の言っていた魔物?

 とてもそうには見えないが。

 ……いや、そうか。わかったぞ。

 この世界にはすべての生物が魔力を大なり小なり持っているんだ。

 マナの豊富な世界だからこそ、勝手に魔力を蓄積する。

 ということはだ。

 他に魔力を持っているやつを探せば調査は楽に終わるんじゃないか。

 よし、とっとと終わらせるか。

 

 クレパスを使った調査は思いのほかあっさりと終わった。

 師匠が懸念していた魔物らしき生き物はいなかった。

 俺は師匠が帰ってくるのを小屋で待った。

 調査結果を報告しないといけないからな。

 帰ってくるまでにMetubeのことを考えていた。

 次の配信はどうしよう。

 また魔法配信でもするか?

 いや、でも同じことをするのは芸がないな。

 なにか他にないか。

 なんとなく宙を見上げるとそこには調査から帰ってきたクレパスがいた。

 そうだ。今日教わった魔法を使って配信するのはどうだろう。

 クレパスの見た景色を映像にして配信を見せるんだ。

 それで俺が実況する。

 魔法で作り出した映像をカメラに映して見せながら俺が面白おかしく言えば……。


「いや、ドローンと変わらないな」


 大体勝手に撮って映すのは問題があった気がする。

 魔法の映像にはモザイクがかけられないから、通行人とかも簡単に映してしまう。

 許可なく人を映すのは問題だ。

 それに俺にトークスキルなんてない。

 それはこの半年の間、痛いほどわかった。

 俺はただの二十七のおじさんだ。

 そんなに面白いことなんて言えない。

 かつてあった無根拠な自信は折れた。

 それでも俺の配信を見てもらうには圧倒的なインパクトが必要だ。

 あっと言わせるようなものが必要なんだ。

 でも、そんな都合のいいものはない。


「いっそ、この世界を映せたらな。魔法があるこの世界を映して冒険をするとかいいかもしれない。四本角の鹿みたいな普通じゃない生き物がいるこの世界なら配信映えするんだけどな。まあ、カメラなんてないし、そんなことできるわけ……」


 待てよ。カメラならあるじゃないか。

 俺はクレパスを見る。

 こいつの視界に映ったものを映せばいいんじゃないか?

 俺とこいつが繋がったようにパソコンとこの人工精霊を繋げられれば、俺は配信しながら冒険できるんじゃないか?

 

「まてまて、冷静になれ俺。俺のいた世界とこの異世界をどうやって繋げるんだ?」


 だいたい、パソコンに魔法なんて通じるのか?

 無機物だぞ。

 通じるわけ……。


「そういえば、このクレパスって人工の精霊って言ってたよな。人工ってことは作ったってことだ。師匠が魂を作ったなんて神様みたいなことできたとは考えにくい。なら、こいつに魔法が効くってことはパソコンに魔法が効くんじゃないか?」


 でも、仮にできたとしよう。

 最大の問題がある。それは、この世界と俺のいた世界を繋げること。

 日本と地球の反対側にあるブラジルを繋げる方がまだ楽だろう。

 なんせ世界が違うんだから。


「でも、転移はできる。行き来はできるんだから、魔法でこっちの世界と俺のいた世界を繋げることもできるんじゃないか?」

 

 師匠が帰ってきたら相談してみよう。

 もしかしたら、できないこともないかもしれない。




 作者

 更新遅れてすみませんでした。

 

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