第5話 修行からの魔法配信
次の修行をするため、湖のあった場所から開けた場所へと俺達は移動した。
草原が広がり、小さな白い花などが咲いていて、ここで昼寝をすると心地がよさそうだ。
それにしても、いったい何の修行をするんだろう。
「ここで魔力のコントロールの修行をする」
「コントロールですか」
「そうじゃ。いかに強大な魔法を使えてもそれが自分の意のままに操れなければ使えないのと一緒じゃからのう。少し待っておれ」
「風魔法ウィン」
師匠が魔法を唱えると、風の刃が発生して、生えていた草を大量に切りとる。
この魔法を練習しろということか?
「さて、今切りとった草を魔力で宙に浮かせてもらおうかのう」
「魔力で?」
「そうじゃ。その状態を維持するのが今回お主のやる事じゃ」
「やってみます」
切り取った草に意識を集中し、身体の中に流れる力を向ける。
すると、草が浮き始める。
おお、やってみればできるもんだな。
「切り取った草をすべて浮き上がらせるんじゃ。たかが数本じゃ駄目じゃ」
「……やってみます」
意識を他の草にも向ける。
うっ、これはなかなか難しいぞ。
一本の草なら造作もないが、切り取った草全部に意識を向けるとなるとかなりの集中力が必要になってくる。
それに力が分散して、うまくコントロールできない。
これはたしかに魔力のコントロールの修行になる。
それでも頑張って、草全部を浮かび上がらせる。
「ほう。たいしたもんじゃのう」
「ぐっ、師匠。これいつまで続ければいいんですか」
「無論、限界までじゃ。そうでなければ修行にはならん」
これを限界までか。
少しでも気を抜けば何本か草が落ちてしまいそうだ。
でも、やってやる。俺はやってやるぞ。
それからかなりの時間が経った。
汗が大量に流れ、息が切れる。
もう限界だ。
力が尽きて、地面に手をつく。
「すいません、師匠。これが限界でした」
「いや、お主はよくやった。見るがよい、もう日が暮れかけておる」
空に目をやると、青空はいつの間にか茜色に変わっていた。
こんな時間までやってたのか。
目の前の草を浮かせることに集中しすぎていて気付かなかった。
「これほど長くできるものはそうはおらん。やはり、お主には魔法の才能があるようじゃ。これほどできるのならばもう教えることはほとんどないのう」
「それじゃあ、今度こそ魔法を教えてもらえるんですか」
「うむ。ひとまず儂の家へと戻ろうか。渡す物があるでの」
「渡す物……?」
なんだろう。
でも、これでようやく魔法が使えるようになるのか。
楽しみだ。
帰り道、黙っているのもなんだったので師匠に気になっていたことを質問をする。
魔法配信をするためにも聞いておきたい。
「こっちでは魔法を使えますが、俺のいる世界でも魔法って使えるのでしょうか」
「……ふむ。儂はお主のいる世界にいったことはないがノブヨシから話を聞いたことはある。その話を聞いた限りでは魔法自体は使えるじゃろう」
「おお!」
「ただ、向こうの世界はマナが少ないから魔力回復はできぬじゃろうな。消耗したら魔法が使えなくなるじゃろう」
「そうですか。でも、使えることには使えるんですね」
「マナの豊富なこっちの世界で魔力を得てから、お主のいる世界で魔法を使うのがよいじゃろうな」
てことは俺のいる世界で魔法が使えても魔力が尽きたら使えなくなるってことか。
そして魔力を回復するにはこちらの世界に来るしかない。
まてよ。
「それなら、なんでこっちの世界に来る前に魔法書を使って転移魔法ができたんですか? 向こうの世界ではマナがほとんどないなら使えないはず」
「いい質問じゃのう。魔力はお主には宿っていない。本来、転移魔法は使えない」
「ならなぜ?」
「魔法書自体に魔力が宿っているのじゃよ。だから、転移魔法が使えたのじゃ」
なるほどそういうことか。
魔法書に魔力が宿っているから、俺がこっちの世界に転移できたのか。
そしてその魔法書はこっちの世界に来れば魔力を回復する。
よく考えられていて作られている。
「着いたぞ」
話している間に師匠の小屋へとたどり着く。
師匠は戸を開け、中からなにかを取り出す。
持ってきたのは俺が転移してきた本とは別の本だった。
「これはいったい……?」
「呪文書じゃ。それもただの呪文書ではない。儂が知っておる魔法の呪文の全てをここに記しておる」
「そんな知識の結晶を俺が受け取っていいんですか」
「なあに。儂はもう全て覚えておるから不要なのじゃ」
ここに師匠の魔法の知識の全てが。
丁重に保管しておかなければ。
「でも、書かれている内容は俺には読めません。俺はこの世界の文字を知らないので」
「では、読めるようにしておこうかの」
「干渉魔法クルト」
師匠が呪文を唱えると俺の中でなにかが変化した。
今ので言語がわかったのだろうか?
「これで大丈夫。さて、今日の修行はおしまいじゃ。明日は儂の手伝いをしてもらおうかのう」
「わかりました」
師匠には魔法の修行をつけてもらったし、貴重な呪文書ももらったからな。
明日は精一杯手伝おう。
師匠に別れを告げ、魔法書を使い転移魔法で元の世界へと帰る。
戻ってきてすぐに物置小屋を抜け出して家の中へと入る。
実家の俺の部屋でさっそく呪文書を開いてみた。
書かれている文字はまるでずっと前から知っていたかのようにスラスラと頭の中へと入ってくる。
読める、読めるぞ。
よし、魔法配信をやってみよう。
こんなこともあろうかと持ってきたノートパソコンを開き、配信画面を開く。
内蔵されたWebカメラとマイクを使えば配信はできる。
緊張しながら配信ボタンを押す。
配信を始めてすぐに五人ほど人が入ってきた。
おっ、幸先いいぞ。
「こんばんは。まさやんです。今日は場所を変えて配信してます。本日はですね、皆さんに魔法をみせたいと思います」
『魔法なんてあるわけないじゃん』
配信を始めて一番最初に書かれたコメントがこれだった。
疑うのは当然だよな。
「それがあるんだな、これが」
俺は呪文書を開き、適当にページをめくってみる。
なにか初心者用の魔法はないかな。
おっ、いいのがあったぞ。
「光魔法ライヒ」
俺が師匠に最初に見せてもらった魔法だ。
指先に光が灯る。
『すっげえええ!』
『どうやってやってるんだ?』
驚いたコメントが出る。
気付けば同接が十人に増えていた。
配信画面に惹かれて入ってきたのかな。
なんにせよ、評判は悪くなさそうだ。
「次の魔法はっと」
呪文書に載ってある初球の魔法をいくつか試す。
火の魔法を使って花火の真似事をやってみたり、水の魔法を使ってなにもないところから水を出現させたり、色んな魔法を使った。
視聴者はその度に驚いたコメントを残してくれる。
リアクションが気持ちいい。
これが人前で芸を披露するってことか。
魔法を使っているうちに同時接続数が五十人を超える。
過去の中で一番人が集まってきたな。
こんなに人から注目されたのは初めてだ。
しばらくすると魔法を唱えてもなにも出なくなる。
全身に脱力感がある。
魔力切れだな。今日はこの辺で終わっておくか。
「もうなにも出ないようなので配信終わります」
『名前は?』
途中から入ってきた人にコメントで名前を聞かれる。
おっ、俺に興味を持ってくれたのか。
「まさやんです」
『今日の配信、面白かったからチャンネル登録したわ』
「あっ、ありがとうございます」
やったぞ! 登録者が増えた。
思わず顔が緩む。
配信終了ボタンを押してもニヤニヤは止まらない。
今日の配信は成功だった。
やっぱ魔法ってすごい。
「でも、このままじゃ飽きられるよな」
一抹の不安がよぎる。
魔法が使えただけじゃ駄目だ。
配信者として長くやっていくには一時のネタだけじゃなく、もっと色んなネタが必要だ。今回はよかった。でも、続けていくうちに飽きられるかもしれない。
「でもなぁ……」
そんな豊富なネタなんてどうやって手に入れられればいいんだ?
配信を終えてからずっと考えても答えは出なかった。
なにかいい方法はないんだろうか。
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