第4話 魔力測定

 翌日、俺はさっそく物置小屋に向かった。

 物置小屋で魔法書を開き、呪文を唱える。


「転移魔法ルーテ」


 白い光に身体がつつまれ、やがてアレクさんの家に着いていた。

 アレクさんは昨日と同じように椅子に座って紅茶を飲んでいた。

 俺が到着したのに気付き、カップを置く。 


「きたか。では、魔法の修行を始めるとしよう」

「よろしくお願いします!」

「儂のことは今後、師匠と呼ぶように」

「はい! 師匠」

「うむ、よろしい。では、外へと出ようか。ここじゃ、魔法を使うのには不便じゃからな。広い所の方がええじゃろう」


 師匠はそう言って扉を開けて小屋の外へと出た。

 俺も後からついていく。

 小屋の外は鬱蒼とした森だった。

 木々が並び立ち、草が生い茂っている。

 猪や熊なんかが出てきそうだ。

 きっとここは森の深い場所なんだろうな。

 どうしてこんなところに住んでいるんだろう。


「もっと人のいるところに住んでもいいのでは」

 

 思わず質問していた。


「儂は人の多い場所は苦手なんじゃよ。それに慣れたら一人の生活も楽しいものよ」

 

 師匠は歩きながら答える。

 そういうものなのか。都会暮らしが好きな俺にはよくわからないな。

 師匠はこの辺りには慣れているようでどんどん進んでいく。

 いったいこの先に何があるんだろう。

 

 しばらくすると師匠は急に足を止めた。

 師匠はある一点を見つめていた。

 視線の先を追うとそこには巨大な湖があった。


「ここじゃよ。ここで今日は魔法の修行を行うとする」

「はい。……で、具体的に何をすれば?」

「まずはお主の魔力の測定を行う。あの湖に魔力を放つんじゃ」

「でもどうやって?」

「簡単じゃよ。大気にあるマナを身体に取り込み、湖へと意識を向け放つんじゃ」


 師匠は湖に向けて右手を出し、力を込めて突然叫んだ。


「ハッ!」


 湖は巨大な岩でも投げ込まれたかのように大きな音をたてて、波紋を作る。

 なにも投げ込まれていないのにだ。

 すごい。これが師匠の力なのか。

 師匠の方を見ると息一つ絶えていない。

 まるでなにもなかったかのようだ。

 

「ざっとこんなもんじゃ。さっ、次はお主の番じゃ」

「いきなり言われても俺にできるかどうか」

 

 とりあえず、師匠の見よう見まねをする。

 右手を湖の方へと向ける。

 意識を集中するとなにか得体の知れない力のようなものがたまっていく。

 これが魔力なのか?

 俺が湖に向けて放とうとすると師匠に手首をガッと掴まれる。

 

「まだじゃ、まだ貯めるんじゃ」

「はいっ!」


 手にすごい量の力が溜まっていく。

 ちょっとでも扱いを間違えれば爆発しそうだ。

 く、苦しい。早く力を解き放って楽になりたい。


「まだですか、師匠」

「ギリギリまで魔力を貯めるんじゃ。そうでなければお主の限界は測れぬ」

「で、でも……」

「踏ん張るんじゃ。まだまだイケる」


 どんどん力が溜まる。

 自分の中の力の全てが右手に集まっている。

 俺の身体の中心が右手にあるかのようだ。

 

「師匠、これ以上は……」

「よし、放てぇ!」


 師匠から許可が出た。

 右手に溜まった魔力の全てを湖に向けて放出する。


「ハッァァァァァァ!」


 魔力は一直線に湖へと向かう。

 まるでモーゼの海割りのごとく湖を真っ二つに裂き、後には通り道ができた。

 ……すげぇ。これが俺の力だっていうのか。

 でもすごい脱力感が……。

 なんだろう、身体中の力が抜けてしまって動けない。

 俺が自分の身体の変化に戸惑っていると師匠が肩に手をポンと置く。


「喜べ。お主には魔法の才能がある。それも桁違いのな」

「でも、俺は言われた通りにやっただけですよ」

「これほどの結果を起こせるものはこの世界でもそうはいない。お主と同じことをしようとしても一生をかけてもできぬものもいる。そのぐらい才能に恵まれておるんじゃよ、お主は」

「……信じられないな」

「東の賢者と呼ばれた儂が保証しておるのじゃ。自信を持つがよい」


 師匠がそこまで言うのなら本当の事なのだろう。

 まさか、俺に魔法の才能があるなんて。

 あっちの世界じゃ何の取り柄もないただの成人男性だったのに。

 上司には馬鹿にされ、Metuberでは底辺配信者だった俺にそんな力があったとは。


「は、はは……」


 思わず涙がこぼれる。

 嬉しかった。

 だって、俺にはなんの才能もないと思っていたから。

 でも、俺にだって、俺にだってできることはあるんだ。

 その事実がたまらなく嬉しかった。


「さて、今度は別の修行をするとしようかのう」

「待ってくれ、師匠。まだ力が抜けているんだ」

「ふむ。魔力切れを起こしたか。では、魔力が回復するまでしばらく待とうかのう」


 師匠はその辺にあった手ごろな岩に座り始める。

 俺も地面に腰かけた。

 この際だ。聞きたいことを聞こう。

 あとになったら聞けなくなるかもしれないし。

 

「そういえば師匠。どうして初めて会った時、俺が別の世界からやってきた人だってわかったんだ?」

「服が儂らとは違うじゃろがい」

「あっ、たしかに」


 言われてみればそうだ。

 俺と師匠とじゃ服装が全然違う。

 緑のローブを着た師匠。現代の服装をしている俺。

 そりゃすぐにわかるよな。


「言葉も通じなかったのに急にわかるようになったのって……」

「儂が魔法をかけたんじゃよ。そのままじゃ不便じゃからな。お主にはこの世界の言葉を話し、この世界の言葉を聞けるようにしたんじゃ」

「でも、俺が話しているのは日本語だけど」

「お主の言葉には魔法がかかってある。話した言葉がなんであれ、相手に意図が通じるようになっているんじゃ」


 そんなすごい魔法がかけられていたのか。

 なるほど、どうりでお互い話ができるわけだ。


「さて、休憩はこれでしまいにして。次の修行に移るとしようか」

「はいっ!」


 どんな修行だろうとこなしてみせる。

 そして、俺はなってやるんだ。

 Metubeの人気配信者に。

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