第3話 異世界で賢者に出会う
俺を包み込んでいた白い光が唐突に消えた。
なんだったんだ、今の光は。
周りを見てみると木造の小屋の中にいた。
目の前に緑色の三角帽子にローブを羽織ったお爺さんがちょうど紅茶かなにかを飲んでいる。目の色が澄んだ青色で、あごひげが胸のあたりまで伸びているの特徴的だった。
格好がまるで魔法使いみたいだな。
外国人? 少なくとも日本人じゃない。
にしても、俺はさっきまで物置小屋にいたはずだが、一体どうしてこんなところへ?
戸惑っていると魔法使いの格好をしたお爺さんが口を開く。
「――――――――」
「なんだ? 何を言っているんだ?」
言葉がさっぱりわからない。
外国語だろうか。少なくとも英語ではない気がする。
言葉がわからず首をひねると、お爺さんは察したようでふむふむと頷く。
俺に向かって指を指し、口を開けて一言
「トート」
と言った。
その瞬間、俺の中で何か振動のようなものが伝わってきた。
一体なんだこれは?
「これで話せるじゃろう、地球の人よ」
急にお爺さんの言葉がわかるようになった。
今までなにを言っていたのかわからなかったのに。
「……あんたいったい何者なんだ?」
「儂か? 儂は見ての通り、魔法使いじゃよ。周りの者からは東の賢者と呼ばれているがの」
「魔法使いだって?」
いきなり、なにを言い出すんだ。この爺さん。
でも、確かに魔法使いみたいな格好をしているのは事実だ。
「ここは異世界アレリア。お主の住んでいる地球とは別の世界じゃよ」
「……そんな馬鹿な」
「お主はその手に持っている魔法書の呪文を唱えたことで儂の家まで来たんじゃよ。なぜ、儂が友にあげたものをお主が持っているのかわからぬが」
「その友の名前って?」
「ヒロセ・ノブヨシって名前じゃ」
間違いない。俺の祖父だ。
この爺さんは俺の祖父の友達だったのか。
あちこちを旅しているのは知っていたが、まさか異世界にまでやってきていたなんて。いや待てよ。ここ本当に異世界なのか……。
そもそもこの爺さんの言っていることは嘘かもしれない。
ひとまず状況を整理しよう。
「俺はその広瀬信義の孫の雅也だ。物置小屋で片付けをしている時にこの本を見つけて、書いてあるメモ書きを読んだらここに来たんだ」
「ふむ、そうだったか。ノブヨシの孫か。その魔法書は儂が作ったんじゃ。いつでもノブヨシとお茶を飲めるようにと行き先を儂の家に設定してある」
「それでここに来たと? 信じがたいな」
「だが事実じゃ」
「あなたが本当に魔法使いだというのなら、なにか魔法を使ってみてくれないか? それで信じるかどうか決めるよ」
「いいじゃろう」
嫌な顔一つせず爺さんは人差し指をかかげる。
「光魔法、ライヒ」
爺さんが唱えると人差し指の先に光が灯った。
……すごい。なにもない所から光が現れるなんて。
これは本物だ。本物の魔法だ。
「信じてくれたかのう」
「ああ。ここは本当に異世界なんだな」
「さっきからそう言っておるじゃろ。やれやれ」
生きているうちに魔法のある世界に行けるなんて思いもよらなかった。
……待てよ。これって、Metubeのネタに使えるんじゃないか。
この世界で魔法を覚えて現実世界で使えば配信盛り上がるのでは。
そう思った時には自然と体が土下座していた。
「頼む、爺さん。俺に魔法を教えてくれ!」
「な、なんじゃい。急に」
いきなりの頼みごとにお爺さんはびっくりする。
それでも俺は土下座を続けた。
「俺はどうしても魔法が使いたいんだ」
今の俺はMetubeの底辺配信者。
雑談をしても、ゲームをしても伸びはしない。
でも、魔法が使えればこの状況も変わるかもしれない。
「頼みます、お爺さん。俺、なんでもしますから!」
「……困ったのう。そんなこと急に言われてものう」
お爺さんはあごひげをさすりながら、考え込んだ。
これは駄目か? 駄目なのか?
「まあ、ええじゃろ。ノブヨシの孫となれば儂の孫も同然じゃ。いいじゃろう、お主に魔法を教えてしんぜよう」
「よっしゃあ!」
「ただし、魔法を教える代わりに儂の手伝いをしてもらうぞ」
「それくらいお安い御用ですよ」
俺も魔法が使えるようになるなんて。
これで一気に人気配信者になるんだ。
「まあ、今日のところは一度帰りなさい。明日からみっちり教えてやるから」
「はい!」
待てよ、どうやって帰るんだ?
俺は元の世界の帰り方なんて知らないぞ。
「あの、帰り方がわからないんですが……」
「簡単じゃよ。もう一度、その魔法書を持って呪文を唱えればいいんじゃ」
なんだ。意外と簡単なんだな。
もっと大変なものかと思ってた。
「じゃあ、一旦帰ります」
「うむ」
「……あっ、そういえば名前を聞いていませんでした」
「儂か? アレクセイ・フォン・モード。アレクと呼ぶがよい」
かっこいい名前だ。
俺もこんな名前がよかったな。
っと、これ以上いても仕方ない。
物置小屋の整理も終わってないしな。
俺は持っていた魔法書を広げる。
「では、また。転移魔法ルーテ」
俺の身体が再び、白い光に包まれる。
身体がふわっと宙に浮いたような感覚がすると徐々に光が消え始める。
さっきまでの光景はどこにいったのか。
俺は物置小屋へと戻っていた。
これが異世界を行き来する魔法。
一瞬、全部夢だったんじゃないかと思うが、俺の手の中にはずっしりとした重さのアレクさんが作った魔法書がある。
まごうことなく現実だ。
俺は魔法使いに出会ったんだ。
そして、魔法を教えてもらう約束をした。
その事実に心が昂る。
「やったああああああああああああああああ!!!」
俺は物置小屋で一人叫びながらガッツポーズをした。
明日から俺も魔法使いだ。
そして、Metubeの人気配信者になるんだ。
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