第4話 憧れの都

「お婆ちゃんやお爺ちゃんも心配しとるから、寄って帰る」

 と言うので、隆が叔母さんを送って行った。

 千足村の急な山道を登り、峠に達すると、後はなだらかな旧街道だった。

(事件・事故、両方ともあり得るな)

 黙々と歩きながら、隆は考えていた。


 とにかく、やんちゃ坊主だった。

 従弟が遊びにくると、隆の両親は警戒した。

 水瓶みずがめにゴムぞうりを放り込んだことがあった。池の水を抜き、あやうく鯉を死なせそうになったこともあった。

 権蔵爺さんの鳥籠を開け、大事にしていたメジロを逃がしてしまった。隆の両親は平謝りだったが、従弟は反省している風ではなかった。


「隆兄ちゃん。大人になったら、何になるん?」

 従弟が訊いた。隆は幼いころから、大工さんになると決めていた。そのことを話した。

「へえ。大工さんか。オラはプロレスラーになる」

 隆は理由を訊いた。

「人をどつけるやない」

 従弟一流の志望動機だった。

 その頃、力道山は子供たちどころか国民のヒーローだった。

 劣勢から伝家の宝刀・空手チョップで反撃するシーンに、胸躍らせたものだった。しかし、従弟に限って言えば、あまりいい影響は与えていないようだった。



「隆兄ちゃん。家出するとしたら、どこ行きたい?」

 そんな話も出たことがあった。

 隆は坂本龍馬を尊敬していたので

「やっぱり高知やろなあ」

 と言った。

「オラ、東京行くで」

 従弟の口ぶりは、単なる思い付きではなさそうだった。


 お婆ちゃんの家が近づいてきた。はるか彼方に駅舎が見え、蒸気機関車が停まっていた。やがて黒い煙を吐いて、高松方面に出発した。


 隆はある可能性に思い至った。

 叔母ちゃんは半信半疑だった。

 第一、汽車に乗った形跡がない。うまくもぐり込んだにしても、片田舎の小学生が一人で長旅をすることなど、考えられなかったのだ。

「一応、警察には言うておく」

 ということになった。


 夕方、従弟は補導された。

 スイッチバック式の駅を越え、線路を歩いているところを、駐在さんに確保された。

「東京へ行くんや」

 と目的を告げたらしい。


 無煙化が進められ、四国の蒸気機関車は1970年(昭和45)にいち早く廃止された。

 本四連絡橋が完成し、香川県の坂出と岡山県の児島が鉄道で繋がったのは88年(昭和63)。小学生ながら、四国と本州が陸続きになっていないことを、隆は知っていた。隆の地図では、海を渡らなければ、本州へは行けなかった。隆の海は、Y川やI川の何十倍も広大だった。

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続 村の少年探偵・隆 その14 地図 山谷麻也 @mk1624

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