第3話 従弟はどこに

 隆の母親には妹がいた。千足村とはI川を挟んだ村に嫁いでいた。

 その息子、隆の従弟が小学生の時、ちょっとした騒ぎを起こした。

 彼もお婆ちゃんの家に行き、蒸気機関車に感動を受けた一人なのだろう。そうでもなければ、あんな無茶なことはしでかさなかったはずだ。


 夜になっても従弟が帰宅しなかった。カバンは放りっぱなしだった。

「いつも遅いから、そのうち帰るだろう」

 叔父さんと叔母さんは気長に待っていた。

 真夜中になっても帰らなかった。朝が明けるのも、もどかしく叔父さんと叔母さんは探しに出た。


 隆の家にも、問い合わせがあった。当時、村に電話は一台しかなかった。その家では電話がかかってきた先に、防災無線で知らせていた。

 妹から電話というので、母親は大急ぎで電話口に駆け付けた。

「行ってないか?」

 と言う。話を聞き、隆の母親は心底心配になってきた。


 心当たりに問い合わせても、何の手掛かりも得られなかった。近くの駅にも連絡した。

「そんな子は乗らんかった」

 というばかりだった。

 叔母さんは最後の手段、警察に相談した。


 叔母さんが隆の家に寄り、状況を説明した。

 最近、変わった様子はなかった。つまり、いつものように、悪さをしていたのである。着の身着のままだった。家の金を持ち出したようではない。小遣い銭を多少は持っていたはずだ――叔母さんは警察で言ったことを繰り返した。

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