八
「あ、ああ。頼む」
落ち着きなく俺は答えた。
ビールは直ぐに俺の目の前にやって来た。
「誰か男の子呼びましょうか?」
甲斐にそう言われて、「いや」っと俺は首を振る。
そんなつもりで来たわけじゃない。
甲斐は落ち着いた風で「何だか、あなたがこういう所に来るの意外でした」と言う。
「いやぁ、たまたまって言うの?」
慌てて答える俺。
甲斐との久しぶりの会話。
その内容がこんなのってどうなんだ。
「そうですか。じゃあ、ごゆっくり」
そう言って甲斐は俺に背中を向ける。
こいつ、バーテンダーにしては素っ気ないな。
いや、寡黙なバーテンダーもいるが。
俺は甲斐の背中を気にしながら、ちびりちびりとビールを嗜む。
それは俺をだいぶ落ち着かない気分にさせる行為であった。
一体俺は何をやっているのだろう。
もう帰ろうか、何て考え始めた頃「いらっしゃい! 見ない顔だね!」と陽気な声が俺にかかった。
顔を上げると、いつの間に現れたのか、黒いティーシャツを身に着けた、さらさらした茶髪の男が白い歯を俺に見せ付けて俺をカウンター越しに見ていた。
チャラそうだが背が高くて中々のイケメンだ。
俺は、「どうも」と会釈をするとビールを再びちびりとやった。
余計な関わり合いはごめんだ。
しかし、ほっとけオーラを醸し出している俺をチャラい男は放っておいてはくれなかった。
「ねぇ、君。もしかして涼狙い?」
俺に顔を近付けて、そっと俺に囁く。
俺の口から飲んでいたビールが噴水の如く吹き出す。
それは、このチャラい男の顔面を直撃したのであった。
「す、すんません」
謝ると、男はティーシャツの袖で顔を拭い、「ははっ、良いよ。それよりも図星?」とキラキラ笑顔で言う。
「ちちちち、違う。そんなんじゃ……」
チャラい男の直ぐ後ろにはグラスを磨いている甲斐がいる。
本人の近くでするにはあまりにもダメな会話だ。
チャラい男は笑って、またしても顔を俺の顔に近付けて、こっそりと、「そんなに照れなくても良いよ。涼狙いのお客さん、結構多いからさ」何ぞ言う。
「だから違うって! あいつとはマンションの部屋が隣同士なだけで、ただ、それだけの関係だ! この店にも別にあいつ目的で来たわけじゃあ……」
思わず大声が出た。
いや、前半は正解だが後半は違う。
俺は甲斐目的でこの店に来た。
来たが、断じてこの男が思っている様な理由ででは無い。
俺の大声が気になったのか、甲斐がこちらを振り向いたのを見て俺は速攻で顔を下に向ける。
そんな俺の姿をチャラい男は笑う。
「あ、涼のお隣さん。そうなの。涼とは顔見知りだったわけね。まあ、でも好き何だろ? 照れちゃって、君、可愛いね。でも、どんなに狙っても涼をモノにするのは難しいと思うよ。あいつ、そういうの向かないからさ」
その囁き声に、「えっ」と反応する俺。
チャラい男は続ける。
「あいつ、ノンケだから。おまけに恋愛音痴。愛想も悪いし、涼に興味を持ったうちのお客は全て撃沈されてるよ」
ゴトウサンノ片オモイ 円間 @tomoko4649
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