七
エレベーターは途中、何処にも止まること無く俺のいる一階へ到着した。
開いた扉からエレベーターに乗り込む。
数字の5を押す。
エレベーターは真っすぐに五階に上る。
エレベーターの扉が開くと俺はそっと扉から顔を出した。
誰もいない。
一息ついてエレベーターを降りた。
フロアーには、二つの店があった。
ネェネと言うキャバクラとBabelと言う店。
Babelか……。
確かバベルの塔というのがあった記憶がある。
天にも届く塔を人間が作ったことに怒った神様がその塔を破壊して何たらと言う話だったはずだ。
入り口の上にある長四角の小さなBabelの看板を良く見てみるとボーイズバーと看板にお似合いに小さくある。
ボーイズバーか。
二丁目らしいし店だと思う。
Babel、ネェネ、このどちらかの店に甲斐はいるのだろうか。
ネェネの方はまだ開店前で看板の灯りも落ちていた。
一方のBabelの看板は煌々と鈍い光を放っている。
俺は迷ったあげく、Babelに入った。
甲斐がボーイズバー通いをしている様には思えなかったが今はそれしか出来ないのだった。
蛍光灯の青い光に照らされたBabelの店内は壁と天井は黒で床も黒いタイルが引き詰められている。
さほど広くも無く、狭くも無い店には既に数人の客の姿がいた。
ボーイズバーの名の通りに客はボーイ達に接客されている。
どのボーイもイケメン揃い。
俺は客の中から甲斐の姿を探したが見当たらなかった。
やはりここに甲斐はいないのだろうか。
じゃあ、何処に?
ネェネはまだ開店前だ。
甲斐は何処へ消えたのか。
俺は首を傾げた。
「いらっしゃいませ」
その声に、はっとする俺。
イケメンボーイがにこにこ笑いながら俺を見ていた。
「どうぞ、カウンター席が空いていますのでこちらに」とボーイは俺に言う。
「あ、ああ」
俺は言われるままにカウンター席に着いた。
席に着くなり、「ご注文は?」と言う低い声の台詞がカウンターの向こう側から聞こえた。
「あ、取り敢えずビールで」
そう言って顔を上げると、何と甲斐の姿があった。
「うわっ!」
びっくりして思わず出た声。
甲斐は無表情に俺を見つめている。
甲斐は白のワイシャツに黒のベスト。
蝶ネクタイも黒という姿。
その格好は中々様になっていた。
「何であんたがここに?」
そう言って俺は瞬きを繰り返す。
「はぁ……ここのバーテンダーなので」と甲斐が答える。
「えっ、バーテンダー?」
甲斐が二丁目のボーイズバーで働いているなんて思いもしなかった。
しかもバーテンダーと来たもんだ。
何て言うか、衝撃的だ。
逆に客であったとしてもそれはそれで衝撃ではあるが。
俺が頭の中で一人事を繰り広げていると、「ビールですよね?」と甲斐が言う。
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