第4話 花のカーテン




 永遠の幸福、幸せを招く。

 そんな花言葉があり、早春に咲く黄金色の福寿草には毒がある事を、ご存じだっただろうか。






「まるで結界だな」

「まるで、ではない。結界だ」


 洞窟の入り口を覆い隠すほどに編み込まれた、長く大きな福寿草の束。

 その向こうにいる友に話しかければ、声が返って来た。

 思ったよりも元気そうで、胸を撫で下ろすが。

 結界の単語には、眉根を寄せる。

 口に出しておいてなんだが、風が吹けば、ゆらりゆらりと揺れ動く頼りない福寿草の束が結界だとは、不安でしかなかった。


「私が結界を張ってやろうか?」

「おまえの世話にはなりたくないし。何より。この福寿草の結界を甘く見ると痛い目を見るぞ」

「………本当に大丈夫なのか?」

「何ならその身でこの結界の威力を試してみるか?」


 ころころころころ。

 鈴を転がすように笑う友に、冗談じゃないと両の手を上げて笑った。

 虚勢を張っているわけでもなさそうだ。

 本当に大丈夫なのだろう。


(そう言えば、福寿草には、毒があったのだ。確かにこれならば。結界として、申し分はない、か)


「ではまた来るな」

「会いに行くからもう来るな」

「………何かあったらすぐに式神で知らせよ」

「ああわかっている。本当におまえは心配性だなあ」


 心配するに決まっている。

 陰陽師のそなたが祓ったはいいものの、鬼の毒に身体を蝕まれてしまったのだ。

 清浄な空気で溢れるこの洞窟で癒してはいるものの、元の調子を取り戻すのに、どれほどの月日がかかるのか。

 十日、半月、三か月、半年、もしくは。


(私がついていれば)


 他の任務などに行かず、そなたの傍にいて一緒に戦えばよかった。


「おい」

「何だ?ほしいものでもあるのか?」

「ああ。俺が回復しておまえに会いに行った時に、用意しておけ。腹がはち切れるほどの量をな」











「桜餅をたらふく。か。さて、では。予約をしておかねばな」


 桜餅の季節は、もうすぐそこ。

 それまでに友は必ず回復する。

 ならば、文句を言われぬように、用意しておかねば。


 春嵐で大きく揺れる福寿草の束の向こうに、少しだけ友の姿が見えないかと思ったが、ちらとも見れず。

 名残惜しいとは思ったが、その気持ちを断ち切って洞窟に背を向けて歩き出したのであった。











(2024.2.23)



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セブンデイズチャレンジ 2 藤泉都理 @fujitori

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