第242話 弓矢と二刀流の激戦
両手で頭を押さえていたシャグネは、すぐに防御姿勢を解いた。
亮の真剣な横顔を一瞬だけ見てから、敵襲の方向へ鋭く振り向く。
そこに立っていたのは、赤みを帯びた青髪のベリーショート。
針のように尖った前髪が額を際立たせ、黒と灰緑のアーマースーツを纏っている。
赤いライトが埋め込まれたワンレンズサングラスのマスク。
そして両手には、赤いマナを纏う二本のバスターソード。
装甲スーツは初見だが、その剣の形状を見た瞬間、亮は正体を悟った。
「……お前は、竹中駿か?」
「この変装が通じないとはな。恐ろしい洞察力だ。思った以上に厄介だな」
「いきなり襲ってきて、どういうつもりだ」
「受けた仕事は一つ。そこに倒れている女を殺す」
「……殺すだと? 自分が何を言っているか分かっているのか。
それでもジャスティスキーパーとしてやることか」
「そんな肩書き、どうでもいい。本当の正義を貫くなら、俺はいつでも捨てられる」
「正義を語りながら、イクリプスに手を貸したのか?」
「ふん、そこまで見抜いたか」
「彼女は罪を犯していない。問答無用の殺しが正義なわけがない」
駿は鼻で笑い、低く吐き捨てた。
「俺の復讐相手は個人でも組織でもない。人類そのものだ。
どうせいつか殺す。なら、先に始末しておく方が楽だろう?」
「それが……お前の正義か」
「人類社会の正義はもう死んだ。
善悪の本質を考える前に、利権と損得の計算が先に来る。
悪を見逃し、偽善を積み重ねて、正義を自分で絞め殺してきた」
怒りに染まった声が、獣の遠吠えのように荒々しく膨らむ。
「だから滅びるべきなんだ。偽善者だらけの社会ごと!」
「お前が正義の代弁者になりたいのか?」
「そうだ。正義のない種族に、生きる価値はない」
バズンッ。
黄色い光弾が、空気を鳴らした。
駿は光弾を受け止めた。
その瞬間、シャグネが右手の銃口を駿へ向け、嘲るように笑う。
「よく喋るじゃない。でも、それ、ただの笑える屁理屈よ。
ガンガン逆上に言ったが、結局、あんたは人類を信じる努力をしなかっただけでしょ?」
「うざい女だ。邪魔するなら、先に斬る!」
駿が踏み込み、大きく跳躍。
右腕のバスターソードが振り下ろされ、すぐさま左腕が追撃する。
二刀の連撃、凶暴な軌道を斬り払ってくる。
だが、亮が前に出る。
盾が衝撃を受け止め、駿を弾き飛ばした。
着地した駿は歯を噛み締める。
「くっ……!」
亮は弓を展開し、ドリル矢を番える。
「シャグネさん。倒れているのは学校の後輩だ。
俺の代わりに小栗さんを守ってくれないか?」
「いいけど。二刀流相手に弓矢で一騎打ち? あんたはそれって勝算あるの?」
「ああ。あいつは俺が止める」
亮は矢を二本、三本と放ち続ける。
駿は最初の二本をかわし、走り出した。
「ふん。お前に撃つ時間なんて与えない」
走りながらバスターソードで矢を切り払い、距離を縮める。
跳び込み、斬り落とす。
亮は後退しながら、左肩アーマーから羽根を抜き、巡航矢を放った。
駿は防御姿勢を取り、剣で受け止める。が、巡航矢は止まらない。
弾き飛ばされたはずの矢が旋回し、鏃を駿へ向け直して再び襲う。
亮はさらに撃つ。
八本の巡航矢が駿を包囲し、追い詰める。
「ちょこまかと!」
駿は二刀を乱舞させ、一本一本斬り落としていく。
そして、マナを解放した。
赤い波動。
バリアが膨張し、攻めていた巡航矢をまとめて吹き飛ばした。
矢が帰投するその瞬間、駿が踏み込む。
斬撃、赤い剣気波が飛ぶ。
亮は回避しながら走った。
「飛び道具に頼るお前じゃ、俺は止められない」
駿は矢を切り払いながら一気に間合いへ。
至近距離で衝撃がぶつかり、空振の圧が走る。
亮は即座に弓を盾へ変形させた。
一撃目をかわす。
反対手の追撃を盾で受け流す。
攻撃の流れに生じたほんの僅かな隙。
亮は盾先端の砲口を駿へ向け、青い光弾を放った。
至近距離で爆発。
身を引いて様子を窺った亮は、すぐさま弓を展開し直し、次の一手に備えてマナの矢を引き絞った。
「あんた、思った以上にやるわね」
遠くから観戦するシャグネの声が飛んだ。
だが、亮の表情は硬いままだった。
「……いや。今のは、全く効いてない気がする」
鬼人なら吹き飛ばせるはずの威力、それが、思ったほどの衝撃にならない。
駿は弾き飛ばされるどころか、むしろマナの気配をさらに膨らませていた。
煙が薄れていく。
赤いマナの光を纏い、ほとんど無傷の駿が立っている。
両手のバスターソードを組み合わせ、大剣形態へ移行。
装甲の一部が展開し、エネルギー吸収ユニットのような構造が露出した。
「どうした?その矢、撃ってこないのか?」
亮は撃てなかった。
駿は防御姿勢すら取らない。まるで「受けて立つ」と言わんばかりの余裕。
亮の額に冷や汗が滲む。
思考だけが猛スピードで回っていた。
――まずい……このまま長引けば不利だ。通る可能性があるのは破甲矢だけ。
だが、あいつの大剣も同等のエルドラ合金製……。
撃てるチャンスは一回。外せば、次はない。
「どうした?策でも練っているのか。……それとも、体力もう尽きたか?」
亮は、言葉で揺さぶることにした。
「竹中。正義を語るお前が、なぜイクリプスに手を貸す?
目の前の悪を無視するつもりか?」
「……復讐のためなら、悪の力を利用する。必要な時にな」
駿は嘲るように笑った。
「結局、説得か?情けないな、お前は」
「……何だと?」
「お姫様の綺麗事に従って動く。
偽善者の言いなりになって戦っている。メシアもどきが」
亮は別に、説得で改心させるつもりなどない。
駿の思考を乱し、戦意を削る、それだけのつもりだった。
だが、返ってきたのは鋭い挑発だった。
「そうでもない。この力を預けられた理由は一つだ。
……お前みたいな狂った奴を止める。それだけ」
「ほう。偽善の人類を庇うのが、お前の正義か」
駿のレンズが、赤く光る。
「なら遠慮なく斬れるな。お前ごと、その偽正義を叩き潰す!」
装甲が唸り、吸収していたエネルギーが解放される。
ドンッ!!
バリアが防御ではなく攻撃として膨張し、半径三十メートルを一気に押し広げた。
地面に亀裂が走り、瓦礫が跳ね、爆風がうねる。
亮は即座にカオスソリスを防御強化モードへ変形。
盾域が衝撃を受け止め、亮の立つ周囲だけがかろうじて守られた。
亮はシャクネに梨央に背を向いて、盾域が衝撃を受け止める。
駿は大剣を掲げて飛びかかり、重力を乗せた斬撃が迫ってくる。
シャキン!!
カオスソリスが受け止める。
だが、駿は止まらない。左から右、右から左へ、連続で斬り込む。
亮は冷静に受け流し、少しずつ後退しながら隙を探す。
十連撃目、亮は地面を蹴り、盾を前へ突き出した。
大剣と駿の体ごと押し返す。
その瞬間、亮は巨大なマナ矢を放つ。
直径80センチ級の光柱が突き刺さった。
駿は大剣で防ぎ、装甲で吸収する。
その吸収の一瞬。
亮は九時方向から踏み込み、カオスソリスでバリアを割り、
破甲矢カッターを抜き、駿の顔面へ突き立てた。
間一髪、駿が身を引く。
仮面が裂け、バキッと砕け散った。
「くっ……やりやがったな!」
左手で顔を覆い、額に血が滲む。駿は指の隙間から邪気の目で亮を睨む。
「次は、本命を討つ」
亮はシャフトが完全展開破甲矢を弓に番え、撃つ間合いを取る、その時だった。
細く高い笛音。
『家路』の旋律。だが、鬱々とした悲しみを孕んだ音色。
駿が舌打ちする。
「チッ……潮時か」
曇天の下、怪しげな緑の光を放つ鳥が十羽飛来し、
遠吠えのような狼の声と共に、同じ光を纏う狼の群れが広場へ集まる。
「なんだ……あれは」
(意識干渉の音波を検知。警戒しろ)
「道理で頭が重い気分……」
(上空のドクマ粒子濃度が上昇。敵の増援だ)
厚い雲を割って、巨大なカニ型マシンが降下した。
全幅六十メートル級、八本の脚と二本の巨爪。胴体のハッチが開き、八つの鉄球を投下する。
バキン、バキン。
鉄球が変形し、人型のカニロボット八体が展開。ビーム兵器を構えた。
駿が大剣で地面を叩き、爆裂させる。
「勝負はここまでだ。次で決着をつける」
亮が衝撃を防いだ瞬間、駿はすでに百メートル先にいた。
「待て! 逃げる気か!」
「今度こそ、お前の偽正義を砕く」
亮が追おうとした、その時、光る鳥と狼の群れが一斉に襲いかかってきた。
(亮、この状況で追撃は不可能だ)
亮はカオスソリスを構え、急降下する鳥を弾く。
だが、普通の矢では効かない。空気を刺すだけで、形を崩せない。
「この技は何だ?」
(あれは動物の思念体だ。笛音に引き寄せられている。物理攻撃は通りにくい)
シャグネが銃を連射し、マナ弾で鳥と狼を撃ち散らす。
そして亮は気づく。
「……狙いは俺じゃない。こいつら、小栗さんを狙ってる!」
オスカソリスを攻撃モードへ変形し、巡航矢を番えて撃つ。
戦いながら、亮の胸に違和感が広がっていく。
(小栗さんを始末するために、ここまで戦力を投入する理由は何だ……?)
月箭奏鳴曲ームーンアローソナタ 響太 C.L. @chiayaka1207
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