異世界シマウマ
七星北斗(化物)
1.二人の娘
私は幸せだ。
皆が優しくしてくれる。
穏やかな家庭に生まれ、毎日美味しいモノを食べ、何不自由なく暮らしている。
私は、教祖の娘だ。
私は幸せだ。
皆が可愛いと言ってくれる。
裕福な家庭に生まれ、貢ぎ物が毎日届く、欲しいものに困らない暮らしをしている。
父は、ケセラセラと笑う。それにつられて私も笑う。幸せとは、こういうものなのだろう。
そんなある日、私は集会に呼ばれた。信者の皆は、ナイフのようなモノを持っており。疑問を覚えたが、その違和感に気づけなかった。
この集会に使われる部屋には、中央に壇上があり、幹部である信者数十人が、その周りを円を描くように囲んでいる。
教祖である父が、部屋の中央にある壇上に上がると、信者の方々の拍手が起こる。
「では集会を始める」
その声を皮切りに、男女問わず服を脱ぎ始める。
「えっ!」
そして信者の皆は、ナイフで自身を傷つけ始めた。
驚いた私は、父の袖を引っ張り懇願した。
「父様…止めて」
「お前も成長したことだし、混ざりなさい」
父が何を言っているのかわからず、困惑する。
「ほらっ」
そういって父から、何かを手渡された。
何だ、この茶色いレザーケースは?
飛び出している黒い柄を引っ張ると、キラリと光が反射した。
そしてそれが何なのか?私は気づいたのだ。
「ひっ!!」
父から手渡されたのは、鋭い形状のナイフでした。
思わず悲鳴を上げ、ナイフは手から溢れ落ち、床に突き刺さる。
「何をしているんだ」
父は、意味がわからないという様子で。
「こうするんだ」
床に突き刺さったナイフを拾い、自身の腕にサッと刃先を走らせた。
私は一体、何を見せられているんだ?これが幸せなの
か?
嘘だ。こんな現実は嘘だ。あり得ない。
「さあ、お前も早くやるんだ」
「嫌っ」
パァーンと音が響いた。父から顔を叩かれたのだ。
言葉が出てこない。頭が真っ白になった。
「私がやってやる」
父がナイフを私に向ける。
私は動けなくなった。しかしいくら時間が経っても、痛みを感じない。
おそるおそる目を開けると、父や周りの信者が、一切の動きを止めていた。
一体何が起きているのか?私は、混乱の渦に陥った。
「罪深き人の子よ、我の声を聞け」
「どなたですか?」
いくら周りを見渡しても、声の主はいない。
「穢れを知らぬアガスよ、お前はこれから異世界へ行き、世界の滅びを止めよ」
「アガス?異世界?一体誰ですか!?」
「それが貴様らの未来を変える唯一の方法、足掻け人の子よ」
そこで意識は途絶え、土の上で目覚める。そして同じように、もう一人の少女が隣にいた。
異世界シマウマ 七星北斗(化物) @sitiseihokuto
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