第6話 狩り人の躊躇

全てはあの担任のせい。あいつがいなければ笑われることはなかった。

あのざわめきのままで終われたのかもしれない。


それだけを考えながら家に帰ろうとする。

ふと、帰り道にある魚屋が目に止まった。


張りのある声で商売をする魚屋の店主。

その後ろの棚にキラリと光る包丁があった。

それを見つけた瞬間


何かが頭をよぎった。


捌いた魚の血で真っ赤に染まった包丁の前に立って彼に言う。


「これください」


そしてそれを奪い一目散に帰路を逆走した。

追いかけてくる店主や周りを振り切って。


気づけば校門の前に立っていた。

暗くなってきてあたりには人影がない。


手が震えている。


だんだんと心拍数が上がるのがわかる。


今手に持っているものへの覚悟が持てない。


その時、笑い声が聞こえてきた。咄嗟に身を隠しその場を凌ごうとする。


だが、よく声を聞けば自分がこの世で最も嫌うあの担任の声だとわかった。

しかも隣にいるのは不倫相手ではないのか?


殺されようとされる直前までクズでい続けれるその精神にヘドが出る。

どこまでお前らは汚いんだ。


いい機会だ。

制裁という名目でこの世から消してしまえばいい。

そうすれば自分のおかげで世界がちょっと綺麗になる。


さぁ行こう!


と踏み切ろうとした途端、足に力が入らなくなった。覚悟はまだついていなかった。だけどここまできたらあとは踏み出すだけ。それだけであいつは殺せる。


はず...なのに...



自分が嫌いになった。いつも出来損ないの中途半端で誰からも褒められたりしたことがない。


だからこそ何かを成そうとした。

勉強や部活や友人関係なんてちっぽけに感じるほど大きなものを持ったつもりがした。


それ皆に伝えた途端、飛んでいる鳥の羽が急に消え、地面に急降下するかのように。

堕ちた。




 



















グレーの包丁が月夜に照らされて光っていた。


































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幽霊とナメクジ 神風の後 @kamikazenoato

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