第5話 平たくて等しい世界
遂にこの時がやってきた。
徐々に順番が迫り来ると同時に高鳴る鼓動を抑えながら出番が来るのを待ち続けた。
そしてその時がやってきた。
題名は「平等な世界」
「 僕は色がない世界に生まれたのだと日々思う。生まれた時は確かにあった。それがだんだんと色褪せてくる。みんな同じような顔をして同じような服や髪型で同じような考えしかない。
これは立派な「平等な社会」だと思う。君達はこういう世界を望んでたんだろ?伸ばそうにも手が届かないじゃなくて今もうすでに持ってるじゃないか。
それ以上に何を望むのか僕にはわからない。
少し周りと違った発言をすれば笑われる。そうして叩かれてみんなと同じような考えにさせられていく。平たくて等しい世界をもう持っているじゃないか。
だとすればこの差別解消のための人権活動を名乗っているこの時間はなんなんだ。
形だけの実りのない空虚な時間だけがすぎていくこの時間はなんなんだ。」
クラス中がざわめいた。
本来ならば彼らも自分と同じようにこの不平等な世界に意を唱えるために作文を書いたはずだ。なのにこの有様だ。
何がおかしいのか。
いかに彼らの意見に「色」がなく形だけだったのかがよくわかる。
この状況を見ていた担任が口を開いた。
「意味がないのは君の書いた作文じゃないのか。周りと違うという感じを出して注目を集めてるだけにしか俺には見えないけどな」
その瞬間一斉に笑いが巻き起こった。
この世で一番嫌う「黒い笑い」が。
いきなり体が重くなる。
例の重心の重みが一気に自分の肺を地に叩きつけんとしている。
立ったまま呆然として何も言えない。
何も間違えたことは言ってないし先生も形だけだとしてもそれを望んでいたに違いない。
それがいざ実のある内容を話した瞬間にこうなる。
正直なことを言えばわかっていた。
お前らに何を言ったってわからないということは。
黒が白の波に飲み込まれようとしていた。
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