猫なで声できみを語って

若奈ちさ

猫なで声できみを語って

 まどろみの中でミントの声を聞いた。


 ――もう朝か。


 薄ぼんやりと、伸びをしているキジトラが目に浮かんだ。

 オレのことを呼びつけるかのように鳴くくせ、そばに行ってやれば、気のないフリして耳の裏をかきむしっているような猫だった。

 過干渉が嫌いなところはオレ譲り。だけど、たまにかまってやるそぶりを見せないと、寂しさで機嫌が悪くなるんだ。


 布団をはねのけ、目覚まし時計に手を伸ばす。

 いつものとおり、6時半。

 台所に立って、まずは自分にミルクチョコレート。

 ミントにミルクを与えるついでに自分の分も温めていたのだが、ミントがおなかをくだす原因が牛乳にあると知って、結局ミントには水道の水しか飲ませなかった。

 だけど残りの牛乳がもったいないからと自分で飲んでいるうちに、それが朝の習慣になってしまっていた。


 ついでにいえばチョコもあげてはいけない食べ物のうちのひとつだという。玉ねぎもだめで、生のイカもだめ。

 面倒だからキャットフードだけにしてみたら、本人よりオレのほうが味気ない思いがして、あの細長いレトルトパウチに入ったおやつを食べさせるようになっていた。

 チロチロとなめる小さな舌につい見とれ、まだ入っているんだろうとばかりに催促してくる前足に、まさにハッとさせられ、底の方から絞り出す。


 飼い主あるあるかといったらそうかもしれない。

 でも、それはオレとミントの唯一無二の時間だった。


 ミントの声を録音してから3年か。

 声を録音できる目覚まし時計は、小学生のころ親に買ってもらった物だ。今になってこんなことで役に立つとは思わなかった。

 目覚まし時計に設定したミントの鳴き声は、老いもせずに一日の始まりを告げる。

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猫なで声できみを語って 若奈ちさ @wakana_s

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